塵肺じんぱい

塵肺は、長期にわたり粉塵を吸入することで肺に炎症と線維化を引き起こす職業性疾患です。主に鉱山や建設、鋳造業などで見られ、呼吸器症状と全身症状を呈します。早期発見と職場環境の改善が重要で、進行例では呼吸不全や合併症のリスクがあります。

塵肺

塵肺とは?

塵肺(じんはい)とは、鉱物性や有機性の粉塵を長期にわたり吸入することで、肺に炎症や線維化(硬くなること)を引き起こす職業性疾患です。主に鉱山、トンネル掘削、建設、鋳造、製陶、繊維などの作業現場で発生します。

吸い込まれた粉塵は気道や肺胞に沈着し、免疫細胞による排除が間に合わず、慢性的な炎症が持続します。その結果、肺組織が徐々に傷つき、線維化が進行することで、換気障害やガス交換障害が生じてきます。特に珪肺(けいはい)や石綿肺(せきめんはい)などは代表的な塵肺として知られています。

日本では「じん肺法」により定期的な健康診断と就業制限が制度化されており、早期発見と重症化予防が図られていますが、長年の曝露歴がある労働者では今なお発症が見られます。

塵肺は不可逆性の疾患であり、一度線維化が進むと元に戻すことは困難です。したがって、予防が何よりも重要とされ、労働衛生対策と個人防護具の使用が基本となります。

原因

塵肺の原因は、作業環境中に浮遊するさまざまな粉塵の吸入によるものです。粉塵は大きく無機粉塵と有機粉塵に分類され、それぞれに関連する塵肺の種類があります。

無機粉塵による塵肺

  • 珪肺:二酸化ケイ素(SiO₂)を含む粉塵(例:岩石、鉱石、砂)によって起こる。最も代表的で進行性が高い
  • 石綿肺:アスベスト(石綿)の吸入により発症。中皮腫や肺がんのリスクも高い
  • 炭肺:石炭粉塵の吸入により発症(炭鉱労働者に多い)
  • アルミニウム肺、鉄粉肺など:金属粉塵の吸入が原因となることがある

有機粉塵による塵肺

  • 綿埃肺、さとうきび肺など:繊維、植物性粉塵の吸入により起こる
  • バクテリアやカビを含む粉塵が原因となる場合もあり、アレルギー反応を伴うことも

曝露に関与する要因

  • 曝露濃度と暴露期間:高濃度で長期間曝露されるほど発症リスクが高まる
  • 作業環境の換気不良
  • 防塵マスクの未着用や不適切な使用
  • 喫煙;粉塵による肺障害の悪化因子とされる

塵肺は、日々の蓄積によって発症する慢性疾患であるため、発症時には曝露歴が数年〜数十年に及んでいることが多く、職歴の確認が診断には欠かせません。

症状

塵肺の症状は、粉塵曝露の強さと期間、塵肺の種類、進行度によって異なります。初期は無症状のことが多く、定期健康診断で胸部X線異常が発見されることがあります。

初期症状(非特異的)

  • 軽度の咳や痰:慢性気管支炎に類似
  • 労作時の軽度の息切れ
  • 疲労感、倦怠感

進行期の症状

  • 咳の頻度と量の増加:乾性から湿性咳へ進行することも
  • 持続的な痰、血痰:慢性炎症の進行による
  • 呼吸困難:安静時にも息苦しさを感じるようになる
  • 胸部圧迫感、胸痛:線維化の進行や合併症による
  • 起坐呼吸、夜間呼吸困難

重症例での症状

  • チアノーゼ(唇や指先の青紫色)
  • バチ状指(ばちじょうし):酸素不足による末梢の形態変化
  • 右心不全(肺高血圧による):下肢浮腫、頸静脈怒張などを伴う
  • 体重減少、発熱、寝汗などの全身症状

合併症による症状

  • 結核:咳・発熱・血痰などの感染症状
  • 慢性閉塞性肺疾患(COPD)や肺気腫の併発による息切れ、労作時呼吸困難の悪化
  • 肺がん;胸痛、血痰、体重減少

発症時期の特徴

  • 発症は多くが50歳代以降
  • 曝露から10年以上を経てから症状が出ることが多い

症状が進行すると日常生活に支障をきたすだけでなく、在宅酸素療法や介護支援が必要になることもあり、早期発見・介入が重要です。

診断方法と治療方法

診断

  1. 職歴・曝露歴の聴取(最重要)
    ・鉱山、建設、鋳造、繊維業などの職歴
    ・作業期間、粉塵の種類、防護具の使用状況
    ・喫煙歴、既往歴の確認
  2. 胸部X線検査
    ・「じん肺管理区分」の判定に用いられる(じん肺法に基づく)
    ・小陰影(粒状影)や大陰影(線維化)の分布・密度を評価
  3. 胸部CT検査
    ・微細な肺の変化(小葉中心性結節、蜂巣肺)を高精度に描出
    ・合併症(結核、肺がん、気腫)の診断にも有用
  4. 呼吸機能検査
    ・拘束性障害(肺が硬くなる)や閉塞性障害(気道が狭くなる)の評価
    ・1秒率(FEV1/FVC)、肺活量、ガス交換能などを測定
  5. 血液ガス分析
    ・酸素分圧(PaO₂)、二酸化炭素分圧(PaCO₂)などの評価
    ・進行例では低酸素血症や高炭酸ガス血症を示す
  6. 喀痰検査
    ・結核菌や細菌感染の有無を確認
    ・肺がん疑いでは細胞診を行う

治療

塵肺そのものを根治する治療は存在せず、進行を抑え、合併症を予防・管理することが治療の中心です。

  1. 粉塵曝露の中止
    ・発症後は粉塵曝露の継続が症状悪化を招くため、作業環境からの離脱が基本
  2. 呼吸リハビリテーション
    ・呼吸筋の強化、呼吸方法の指導、身体活動の維持
  3. 在宅酸素療法(HOT)
    ・進行例で低酸素血症を伴う患者に対して酸素投与を行う
  4. 薬物療法(対症療法)
    ・去痰薬、気管支拡張薬、吸入ステロイドなど
    ・感染症合併時には抗菌薬を使用
  5. 合併症への対応
    ・結核治療(抗結核薬)
    ・肺がんに対する外科的治療、化学療法、放射線療法

定期的な経過観察と呼吸機能評価により、生活の質(QOL)を維持することが治療の目標となります。

予後

塵肺の予後は、粉塵への曝露状況や診断時の進行度、合併症の有無により大きく左右されます。早期に曝露を中止し、定期的な管理が行われれば、進行を遅らせることが可能です。

予後良好の条件

  • 早期に発見され、曝露環境から離脱できた場合
  • 呼吸機能の低下が軽度にとどまっている例
  • 結核や肺がんなどの合併がない例

予後不良の要因

  • 高濃度粉塵への長期間曝露歴
  • 進行性の珪肺や石綿肺
  • COPD、肺気腫、肺がん、結核の合併
  • 喫煙歴が長く、呼吸機能障害が高度な例

死亡原因として多い疾患

  • 呼吸不全(肺のガス交換能が著しく低下)
  • 肺がん(特に石綿曝露者)
  • 活動性結核による全身衰弱

生活の質への影響

  • 日常生活動作(ADL)の制限
  • 酸素療法や通院による生活制限
  • 社会的・経済的影響も無視できない

予後を改善するためには、労働衛生の改善、喫煙の中止、定期的な医療フォローが必要です。

予防

塵肺は予防可能な職業性疾患であり、一次予防が何よりも重要です。職場環境の管理と個人防護の徹底が基本となります。

作業環境管理

  • 換気設備の整備(局所排気装置など)
  • 湿式作業(粉塵の飛散を抑える)
  • 粉塵の発生源封じ込め

個人防護具の使用

  • 防塵マスクの正しい着用(定期交換とフィット確認)
  • 作業中の手洗い・うがいの励行

労働時間と作業内容の管理

  • 高濃度粉塵作業の制限
  • 粉塵濃度測定と記録の実施

健康診断と作業制限(じん肺法による)

  • 定期的な胸部X線撮影、呼吸機能検査の実施
  • じん肺管理区分に応じた作業制限・配置転換

禁煙の推奨

  • タバコは呼吸器への負担を増やし、塵肺の進行を早める

教育と啓発

  • 労働者への健康教育とリスク意識の向上
  • 管理者の理解と労働安全衛生体制の整備

これらを徹底することにより、塵肺の発症リスクを大きく減らすことが可能です。

関連する病気や合併症

塵肺は慢性進行性疾患であり、さまざまな呼吸器合併症を引き起こす可能性があります。また、粉塵の種類によって特定の疾患との関連が強くなります。

代表的な合併症

  • 肺結核:塵肺病変は結核菌の温床となりやすく、再発・重症化しやすい
  • 肺がん:石綿肺や珪肺では肺がんの発症リスクが明らかに高い
  • 慢性閉塞性肺疾患(COPD):気流制限を伴う合併例が多い
  • 肺気腫:肺胞壁の破壊により呼吸困難を引き起こす
  • 気胸:肺の脆弱化により自然気胸を起こしやすい
  • 肺高血圧症:慢性低酸素血症により発症

右心不全(肺性心)

  • 肺高血圧の進行により右心室への負荷が増大
  • 下肢浮腫、頸静脈怒張、肝腫大などを伴う

その他の関連疾患

  • 中皮腫(石綿曝露者):胸膜の悪性腫瘍。予後不良
  • 関節リウマチや強皮症との合併(珪肺での報告あり)

社会的・心理的影響

  • 長期治療に伴う経済的負担、就労制限
  • 慢性的な息苦しさによるうつ症状

塵肺は単独の呼吸器疾患にとどまらず、多岐にわたる病態と合併するため、包括的な医療管理が求められます。

症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。

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■ 参考・出典

■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック

近畿大学 医学部 卒

近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。

「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。 医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。 医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。

  • 公開日:2025/07/16
  • 更新日:2025/07/16

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