甲状腺機能低下症こうじょうせんきのうていかしょう
甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンの分泌が不足することで全身の代謝が低下し、倦怠感、寒がり、体重増加などの症状を引き起こす疾患です。橋本病が主な原因で、ホルモン補充療法により症状の改善が期待できます。

甲状腺機能低下症とは?
甲状腺機能低下症とは、甲状腺ホルモンの分泌が不足し、体の代謝機能が全体的に低下してしまう状態を指します。甲状腺ホルモンは、心臓や消化管、筋肉、神経系など、全身の機能維持に必要なホルモンであり、不足するとさまざまな身体的・精神的症状が現れます。
原因は多岐にわたりますが、日本では自己免疫性疾患である橋本病が最も一般的です。そのほか、甲状腺の手術後や放射線治療後、あるいは薬剤によっても引き起こされることがあります。
加齢とともに発症しやすくなり、特に中高年の女性に多いとされます。症状はゆっくり進行するため、気づかれにくいこともありますが、放置すると重症化する恐れがあるため、早期発見・治療が重要です。
原因
甲状腺機能低下症は、甲状腺自体の異常による一次性のものが多く、ホルモンの産生や分泌が直接的に障害されることで発症します。稀に、脳下垂体や視床下部の異常による中枢性の機能低下症も存在します。
【主な原因】
- 橋本病(慢性甲状腺炎):免疫異常により甲状腺組織が徐々に破壊される
- 甲状腺の手術後:甲状腺を部分的または全部切除した後に機能が低下
- 放射線治療後:甲状腺癌や頭頸部腫瘍への放射線治療による影響
- ヨウ素過剰:栄養補助剤や海藻の過剰摂取によるホルモン合成阻害
- 薬剤性:抗甲状腺薬、リチウム、アミオダロンなどの服用
- 下垂体・視床下部の障害:TSHの分泌が低下することで二次的に機能低下
また、出生時からの先天性甲状腺機能低下症もあり、早期治療が発育に重要です。
症状
甲状腺ホルモンが不足すると、体内の代謝が全体的に低下し、多様な症状が全身に現れます。症状は進行が緩やかなため、加齢や更年期と混同されやすいのも特徴です。
【代表的な症状】
- 全身倦怠感、疲れやすい
- 寒がり、体温低下
- 体重増加(食事量が変わらなくても)
- むくみ(特に顔や手足)
- 皮膚の乾燥、カサカサ肌
- 便秘
- 脱毛、髪が細くなる
- 声がかすれる、低くなる
- 動作が遅くなる、話すのがゆっくりになる
- 集中力や記憶力の低下
- うつ症状、眠気
- 月経異常、不妊
【高齢者で注意すべき症状】
食欲低下や抑うつ、認知機能低下が目立つこともあり、認知症と誤診されることがあります(「仮性認知症」)
症状の出方は個人差が大きく、注意深い問診と検査が必要です。
診断方法と治療方法
診断方法
・問診:症状の内容、発症時期、体調の変化、既往歴や家族歴を確認
・身体診察:むくみ、皮膚の乾燥、甲状腺の腫れなどを評価
・血液検査
- TSH(甲状腺刺激ホルモン):上昇(原発性の場合)
- FT4(遊離サイロキシン):低下
- 抗TPO抗体、抗サイログロブリン抗体:橋本病の診断補助
・画像検査:甲状腺超音波検査で腫大や構造変化を確認
・稀に視床下部・下垂体のMRI(中枢性が疑われる場合)
治療方法
・甲状腺ホルモン補充療法
- レボチロキシン(チラージンNa®など)の内服によりホルモンを補う
- 用量は血液検査をもとに調整
・定期的なフォローアップ:症状と血中ホルモン濃度の両方を見ながら継続治療
軽症でも治療を開始することで、QOLが大きく改善します。
予後
適切に診断され治療が継続されていれば、甲状腺機能低下症の予後は良好です。ホルモン補充療法により、ほとんどの症状が改善し、日常生活に支障をきたさずに過ごすことができます。
【予後が良好なケース】
- ホルモン補充治療により症状が安定
- 定期的に検査を行い、用量が適切に調整されている
- 早期発見によって重篤な合併症を回避できた
【注意すべきケース】
- 治療中断や用量不適切により再発・悪化
- 高齢者では低ナトリウム血症、心機能低下、意識障害を伴うことがある
- 重症例では粘液水腫性昏睡(まれだが致命的)に進展する可能性がある
症状が消失しても、治療は基本的に長期継続が前提です。
予防
明確な予防法は確立されていませんが、甲状腺の健康を保つための生活習慣や、リスク因子の管理が重要です。また、定期的な検査によって早期発見を目指すことが予防に繋がります。
【生活習慣での工夫】
- ヨウ素を過剰・過少に摂りすぎない:海藻の食べすぎに注意
- バランスのとれた食事と適度な運動
- 十分な睡眠とストレス管理による免疫機能の維持
- 甲状腺手術や放射線治療を受けた人は定期的なホルモン検査を受ける
- 家族歴のある人は定期的に検査を受けることが望ましい
【早期発見のために】
- 定期健診でTSHを含む血液検査を実施
- 症状に気づいたら早めに内科または内分泌科を受診する
再発予防も含め、自己管理と医療機関との連携が鍵となります。
関連する病気や合併症
甲状腺機能低下症はさまざまな身体機能に影響を及ぼし、全身の合併症を引き起こす可能性があります。特にホルモンの欠乏が慢性的になると、生活の質や寿命にも関わるため、早期の対応が重要です。
【主な合併症・関連疾患】
- 高脂血症:LDLコレステロールの増加
- 動脈硬化、虚血性心疾患:脂質異常と循環障害の結果
- 貧血:赤血球の産生が低下する
- 骨粗鬆症:性ホルモンのバランスに影響
- うつ病、不安障害:ホルモンの精神面への影響
- 認知症様症状(特に高齢者)
- 月経不順、不妊:女性ホルモン分泌の不調
- 粘液水腫性昏睡:重度の機能低下による意識障害(非常にまれ)
定期的な検査と治療の継続で、これらのリスクを抑えることが可能です。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
厚生労働省e-ヘルスネット「甲状腺機能低下症」(https://kennet.mhlw.go.jp/home)
日本甲状腺学会「甲状腺ホルモン異常の診療」(https://www.japanthyroid.jp/)
国立国際医療研究センター「甲状腺疾患の基礎知識」(https://www.ncgm.go.jp/)
日本内科学会「内科学 第11版」
■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。
「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。
医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。
医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。
- 公開日:2025/07/16
- 更新日:2025/07/16
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