緊張性気胸きんちょうせいききょう

緊張性気胸は、肺に穴が開くことで空気が胸腔に溜まり続け、肺や心臓を圧迫して重篤な呼吸・循環障害を引き起こす緊急疾患です。早期の診断と針脱気、胸腔ドレナージによる減圧処置が生死を分けます。迅速な対応が不可欠です。

緊張性気胸

緊張性気胸とは?

緊張性気胸とは、肺から胸腔内に空気が漏れ続け、胸腔内圧が異常に高くなって肺や縦隔臓器(心臓、大血管、反対側の肺)を圧迫し、重篤な呼吸・循環障害を引き起こす危険な病態です。気胸の中でも最も緊急度が高く、適切な処置が遅れると致死的となる可能性があります。

この病態は、肺に開いた穴から空気が一方向にのみ流入し、呼気時にも空気が排出されずに胸腔内に蓄積し続ける「バルブメカニズム」が原因で発生します。これにより肺が虚脱し、胸腔内圧が上昇して縦隔が健側へ偏位し、心臓と大血管を圧迫して静脈還流が障害され、急激な血圧低下、ショック、心停止を招くこともあります。

主に外傷、人工呼吸中の合併症、または自然気胸の一部が原因となり、症状は突然の胸痛と呼吸困難から始まります。診断は臨床所見から迅速に行い、針脱気や胸腔ドレナージによる緊急減圧が必要です。

原因

緊張性気胸は、肺から空気が漏れ、胸腔内に貯まり続けることによって発生します。その主な原因は外傷または医療行為による二次性気胸であり、自然気胸に比べて発症頻度は低いものの、重篤な経過をたどることが多いです。

主な原因分類

  1. 外傷性気胸
    ・肋骨骨折に伴う肺損傷
    ・胸部貫通創(刺創、銃創)
    ・肺挫傷や気管・気管支の損傷
  2. 医原性(医療行為に伴う)
    ・中心静脈カテーテル挿入中の胸膜損傷
    ・人工呼吸器使用中の陽圧換気による肺過膨張(バロトラウマ)
    ・経皮的肺生検や胸腔穿刺などの処置中
  3. 自然気胸からの移行
    ・肺嚢胞(ブラ)が破裂し、空気が漏れ続ける状態
    ・特に基礎疾患(COPD、間質性肺炎、結核など)を有する患者で発生しやすい

発生のメカニズム

  1. 一方向弁(バルブ)機構により、空気が漏れるが排出されず胸腔内に蓄積
  2. 胸腔内圧が大気圧より高くなり、肺の虚脱と縦隔偏位を引き起こす
  3. 静脈還流が障害され、心拍出量の低下とショックを招く

これらの原因を把握し、高リスク症例では早期の監視と予防的措置が重要です。

症状

緊張性気胸の症状は急激に出現し、短時間で呼吸・循環不全へと進行するのが特徴です。以下に主な症状を示します。

呼吸器症状

  • 突然の強い呼吸困難
  • 片側の胸痛(刺すような鋭い痛み)
  • 頻呼吸(呼吸数の増加)
  • 咳嗽(空咳が多い)
  • 呼吸音の減弱または消失(患側)

循環器症状

  • 血圧低下(ショック状態)
  • 脈拍増加(頻脈)
  • 頸静脈怒張(静脈還流障害による)
  • チアノーゼ(口唇や末端の青紫色)
  • 意識障害(低酸素と循環不全による)
  • 冷汗、冷感(末梢循環の不全)

胸郭の変化

  • 患側の胸郭が過膨張し、呼吸運動が減弱
  • 打診で鼓音(空気の貯留を示す)
  • 健側への縦隔偏位(気管偏位など)

重症例の経過

  • 呼吸停止または心停止(短時間で発生)
  • SpO₂の急激な低下
  • 意識喪失

小児や高齢者での特徴

  • 小児では初期症状が乏しいことがあり、進行してから発見される例も
  • 高齢者では基礎疾患(肺気腫、間質性肺炎など)の影響で発症が非典型的なことがある

緊張性気胸は「診断が遅れると致死的」とされるため、臨床症状から即座に判断し、画像検査を待たずに処置を行う判断が求められます。

診断方法と治療方法

診断

  1. 臨床所見による診断
    ・呼吸困難、片側の胸痛、頸静脈怒張、気管偏位、低血圧などの「典型的三徴」
    ・聴診での呼吸音消失と打診での鼓音
    ・ショック兆候(頻脈、意識障害、皮膚冷感)
  2. 胸部X線検査(可能なら)
    ・患側肺の虚脱と胸腔内の異常な透過性
    ・縦隔偏位、横隔膜下降、心陰影の移動
  3. 胸部CT検査(診断が困難な例で)
    ・微細な気胸や原因病変の精密評価に有用
    ・緊急性が高い場合はCTに頼らず処置を優先

治療

  1. 緊急針脱気(針胸腔穿刺)
    ・第2肋間鎖骨中線、または第4〜5肋間前腋窩線から刺入
    ・内径の太い注射針(14〜16G)を使用
    ・「プシュッ」という音とともに空気が抜ければ成功
  2. 胸腔ドレナージ(チューブ挿入)
    ・減圧後の持続的排気・再発予防
    ・第4〜5肋間前腋窩線からドレーンを留置
    ・持続吸引(−10~−20cmH₂O)をかける場合もある
  3. 原因の治療と再発予防
    ・肺嚢胞やブラの存在があれば外科的切除を検討
    ・再発を繰り返す場合には胸膜癒着術(プレウロデーシス)を行うことも
  4. 呼吸循環の支持療法
    ・酸素投与(ただし過剰酸素は注意)
    ・点滴による循環維持
    ・重症例では気管挿管+人工呼吸器管理

緊張性気胸の治療では、「即時対応」が生死を分けます。医療従事者は常に準備と判断力を持って対応する必要があります。

予後

緊張性気胸の予後は、診断と処置の迅速さに大きく依存します。適切な初期対応がなされれば回復は可能ですが、対応が遅れると致死的となります。

予後良好の条件

  • 発症から短時間での針脱気・ドレナージが行われた場合
  • 若年者や基礎疾患がない患者
  • 出血や気管損傷を伴わない例

予後不良の因子

  • 高齢者、肺気腫・間質性肺炎などの既往
  • 人工呼吸器装着中の発症(気道内圧が高く致死的)
  • 診断遅延、針脱気の不成功
  • 循環不全・心停止での搬送

再発のリスク

  • 緊張性気胸を起こした患者の多くは再発リスクが高い
  • 外科的治療(胸腔鏡下肺部分切除など)によって再発を防げる場合もある

後遺症としての肺機能障害は少ないですが、緊急対応が必須であることを認識し、再発予防のための定期フォローも重要です。

予防

緊張性気胸は突然発症することが多いため、完全な予防は困難ですが、再発予防や高リスク者への対策は可能です。

一次予防(発症予防)

  • 肺疾患(COPD、間質性肺炎)の管理
  • 人工呼吸器設定の最適化(過剰な陽圧換気を避ける)
  • 胸部手技(CVC挿入、肺生検など)の合併症対策

二次予防(再発防止)

  • 再発を繰り返す気胸では外科的治療(VATS、胸膜癒着)を検討
  • ブラの存在が確認された場合には切除術が有効

患者教育

  • 過去に緊張性気胸を経験した人は再発兆候に注意
  • 突然の胸痛、息苦しさがあればすぐに医療機関を受診

定期的フォローアップ

  • 外科的治療後の定期的な胸部X線で再膨張状態の確認
  • 喫煙者への禁煙指導(自然気胸の予防)

予防は困難でも、リスクを減らす生活管理と再発予防の対策は重要です。

関連する病気や合併症

緊張性気胸は、肺疾患や医療処置と密接に関連し、さまざまな合併症を引き起こす可能性があります。

関連疾患

  • COPD(肺気腫):肺胞破裂により気胸を起こしやすい
  • 間質性肺炎:肺の脆弱化により自然気胸や緊張性気胸を起こす
  • 肺嚢胞症(LAM、BHD症候群など):若年女性での再発性気胸

医原性関連

  • CVC挿入時の穿刺ミス
  • 人工呼吸器によるバロトラウマ
  • 気管支鏡、胸腔穿刺後の合併症

合併症

  • 再膨張性肺水腫:急速な肺再膨張により肺水腫が発生
  • 縦隔気腫、皮下気腫:空気が胸腔外へ漏出
  • 出血:ドレナージや針刺入時の血管損傷
  • 感染(気胸後の膿胸など)

循環器合併症

  • 低酸素性心筋虚血
  • ショック、心停止(重症例)

これらの合併症を予防・早期発見するためには、緊急時の正確な処置とその後の継続的な観察が欠かせません。

症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。

内科の診療を受ける

クラウドドクターは24時間365日対応。 風邪・腹痛・喉の痛み・吐き気などの急な体調不良に。

現在の待ち時間

3

クラウドドクターの
オンライン診療

クラウドドクターのオンライン診療

クラウドドクターでは、問診内容を元に全国から適したドクターがマッチングされ、あなたの診療を行います。診療からお薬の処方までビデオ通話で受けられるため、お忙しい方にもおすすめです。

  • 24時間365日
    いつでも診療OK
  • 保険診療が
    ご利用可能
  • お近くの薬局やご自宅で
    お薬の受取り可能

■ 参考・出典

■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック

近畿大学 医学部 卒

近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。

「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。 医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。 医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。

  • 公開日:2025/07/16
  • 更新日:2025/07/16

即時、あなたに適した
ドクターをマッチング

現在の待ち時間

3