巨大結腸症きょだいけっちょうしょう
巨大結腸症は、結腸(大腸)が異常に拡張し、便やガスが排出されにくくなる病態です。先天性のヒルシュスプルング病や後天性の慢性便秘などが原因となり、腹部膨満や便秘、場合によっては腸閉塞や穿孔を引き起こすこともあります。早期の診断と、症状に応じた内科的または外科的治療が必要です。
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巨大結腸症とは?
巨大結腸症とは、大腸(結腸)が異常に拡張し、内容物(便やガス)の通過や排出が困難になる状態をいいます。通常の生理的な拡張を超えた、病的な腸管の拡大が持続し、便秘や腹部膨満などの症状を引き起こします。
この疾患は「先天性」と「後天性」に分けられ、先天性の代表的なものに「ヒルシュスプルング病」があります。これは新生児期から排便ができない疾患で、腸の一部に神経節細胞が欠如しているために起こります。
一方、後天性の巨大結腸症は、長年の慢性便秘や神経・筋の異常、代謝性疾患(糖尿病や甲状腺機能低下症)、あるいは精神疾患に関連することがあります。まれに薬剤の副作用や感染症、自己免疫性疾患が原因になることもあります。
発症年齢は新生児から高齢者までさまざまで、腸の動きが極端に低下しているのが特徴です。
原因
巨大結腸症の原因は大きく先天性と後天性に分かれます。
【先天性巨大結腸症】
- ヒルシュスプルング病:腸の一部に神経節細胞が存在しないため、腸の蠕動運動が起こらず、便が通過できない。新生児期に排便がなく、腹部膨満が起こるのが特徴。遺伝的要因が関与することもある。
【後天性巨大結腸症】
- 慢性便秘:長期にわたる便秘により、結腸が次第に拡張していく
- 神経疾患:パーキンソン病、多発性硬化症、脊髄損傷などによる腸の神経支配異常
- 代謝・内分泌異常:糖尿病、甲状腺機能低下症などが腸の運動を低下させる
- 薬剤性:抗コリン薬、抗うつ薬、抗精神病薬、麻薬性鎮痛薬(オピオイド)など
- 精神的要因:うつ病や摂食障害、機能性便秘(便意を我慢する習慣など)
- 中毒性:シャーガス病などの感染による神経障害(南米で多い)
これらの原因により腸の運動機能が著しく低下または失われることで、腸管が内容物を排出できずに拡張してしまうのが巨大結腸症の本態です。
症状
巨大結腸症の症状は、腸の拡張とその結果生じる排便障害や消化器症状が中心です。以下のような症状が現れます。
- 慢性的な便秘:排便が週に1回以下、あるいは排便困難が続く
- 腹部膨満感:腸内のガスや便が貯留して腹が張る
- 腹痛:鈍い痛みや差し込むような痛み
- 悪心、吐き気:腸の内容物が停滞し、消化不良や逆流が起こる
- 食欲不振、体重減少:消化吸収が悪化
- 残便感、排便後の不快感
- ガスが出にくい、放屁困難
- 重症例では発熱、嘔吐、腸閉塞症状
先天性のヒルシュスプルング病では、新生児期に胎便の排出がなく、著明な腹部膨満、胆汁性嘔吐などで発見されることが多く、放置すれば腸穿孔や敗血症に至ることがあります。
後天性でも、便やガスの通過障害が重度になると、腸閉塞(イレウス)や虚血、穿孔を起こすことがあり、緊急治療が必要になります。
診断方法と治療方法
診断
診断には症状の確認とともに、画像検査や機能検査を行います。
- 腹部X線検査:ガスや便による腸の拡張が見られる
- 注腸造影(バリウム検査):腸の狭窄部や拡張部の範囲を確認し、ヒルシュスプルング病では移行部の確認が可能
- 腹部CT:腸の拡張状態、穿孔や炎症の有無を詳細に評価
- 大腸内視鏡:腸管内の異常や腫瘍などの除外診断
- 直腸生検:神経節細胞の有無を確認(ヒルシュスプルング病の確定診断)
- 腸管通過時間測定:便の滞留時間を評価(後天性の診断に有用)
治療
- 保存的療法
- 食事療法(食物繊維や水分の調整)
- 浣腸や摘便
- 下剤、腸管運動促進薬(ピコスルファート、ルビプロストンなど)
- 整腸剤、漢方薬(大建中湯など) - 手術療法
- ヒルシュスプルング病では、神経節欠如部を切除し、正常な腸管とつなぐ(プルスルー手 術)
- 後天性の場合も、保存療法で効果がないときは結腸切除や人工肛門造設が検討される
重症例や急性腹症では緊急手術が必要です。
便秘のタイプに応じて薬を選ぶ必要があり、自己判断で市販薬を長期使用すると悪化を招くこともあるため、医師の指導が重要です。
予後
巨大結腸症の予後は、原因や治療時期によって大きく異なります。
先天性(ヒルシュスプルング病)の場合、早期に診断され適切な手術を受けた場合は、良好な予後が得られます。ただし、手術後にも排便障害や便失禁、便秘の再発などが見られることがあり、継続的なフォローが必要です。
後天性の巨大結腸症では、長年の便秘により腸の弾力や神経機能が低下しているため、保存療法が無効なこともあり、外科的治療が必要になるケースも少なくありません。
放置すれば、腸閉塞や穿孔、腹膜炎など命に関わる合併症を引き起こす危険性があり、早期診断と適切な対応が重要です。
慢性便秘として放置されがちなため、早期に消化器専門医を受診し、必要に応じて専門的な検査と治療を受けることで、予後は大きく改善することが期待できます。
予防
巨大結腸症の予防には、便秘を慢性化させないことが最も重要です。特に後天性の場合は、日常生活の中で腸の健康を守ることが予防につながります。
【生活習慣の見直し】
- 十分な水分補給(1日1.5〜2リットルを目安)
- 野菜、海藻、豆類などの食物繊維を適切に摂取
- 規則正しい食事と排便習慣を守る(毎朝トイレに座る習慣)
- 適度な運動(ウォーキングや体幹トレーニング)
- ストレス管理と十分な睡眠
【薬剤管理】
- 便秘の原因となる薬の見直し(必要に応じて主治医と相談)
- 下剤の乱用を避ける(習慣性がつかないよう注意)
【医療機関への受診】
- 便秘が1週間以上続く場合や、市販薬で改善しない場合は早めに専門医を受診
- 肛門疾患や腹部不快感、食欲不振がある場合は精密検査を検討
早期から便秘対策を行うことで、巨大結腸症の発症リスクを大幅に下げることができます。
関連する病気や合併症
巨大結腸症は、その原因疾患や腸の拡張により、以下のような疾患や合併症と関連します。
- ヒルシュスプルング病(先天性):神経節細胞の欠如が根本原因
- 慢性便秘症:後天性巨大結腸症の最大の原因
- 腸閉塞(イレウス):便やガスの通過障害による
- 腸管穿孔:腸壁が過伸展されて破れる危険がある
- 腹膜炎:穿孔後の感染による重篤な合併症
- 敗血症:腸管内容物の漏出により全身感染を起こすことも
- 虚血性腸炎:腸管の過度な拡張による血流障害
- 排便困難症:排便時に腹圧をかけても出にくくなる
- 痔疾患:強いいきみが続くことによる
これらの合併症を防ぐためにも、巨大結腸症は「重度の便秘」として軽視せず、早期に対応することが重要です。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
日本小児外科学会「ヒルシュスプルング病」(https://www.jsps.gr.jp/)
日本消化器病学会「慢性便秘症と巨大結腸症の関係」(https://www.jsge.or.jp/)
国立成育医療研究センター「小児の消化管疾患」(https://www.ncchd.go.jp/)
日本大腸肛門病学会「機能性便秘と外科治療」(https://www.coloproctology.gr.jp/)
■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。
「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。
医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。
医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。
- 公開日:2025/07/08
- 更新日:2025/07/09
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