ヘリコバクターピロリ感染症へりこばくたーぴろりかんせんしょう

ヘリコバクター・ピロリ感染症は、胃の粘膜にすみつく細菌によって引き起こされる感染症です。感染しても症状がないことが多いですが、長期的には慢性胃炎や胃潰瘍、さらには胃がんの原因にもなります。検査で感染を確認し、除菌治療を行うことで多くの合併症を防ぐことが可能です。早期の発見と治療が、将来のリスクを減らす鍵となります。

ヘリコバクター・ピロリ感染症とは?

ヘリコバクター・ピロリ(以下、ピロリ菌)感染症は、ピロリ菌が胃の粘膜に感染・定着することによって引き起こされる慢性感染症です。ピロリ菌は1980年代に発見されたらせん状の細菌で、胃の強い酸性環境の中でも生き延びる特殊な能力を持ち、慢性的な炎症や潰瘍を引き起こします。

この菌は、主に乳幼児期に口から経口感染することで体内に入り、そのまま長期間にわたって胃内にすみ続けます。感染経路としては、井戸水などの不衛生な水、家族間での口移しなどが疑われており、衛生環境が整っていなかった時代に生まれ育った世代の感染率が高い傾向にあります。

感染していても症状がまったくない場合も多くありますが、長期的には慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、さらには胃がんなど、さまざまな消化器疾患の原因となるため、発見と除菌治療が非常に重要です。

原因

ピロリ菌の感染は、主に幼少期の経口感染によって起こります。水道が整備されていない環境での井戸水の使用や、家族間でのスプーンや箸の共用、口移しでの食事提供などが感染経路として挙げられます。成人してからの新たな感染はまれとされています。

ピロリ菌は、ウレアーゼという酵素を分泌することで胃酸を中和し、自らの周囲を生きやすい環境に変えることで、胃粘膜に長期間定着します。この定着が慢性の炎症を引き起こし、次第に胃粘膜の萎縮や腸上皮化生を生じることがあります。

また、遺伝的要因や免疫応答の個人差も、ピロリ菌感染による症状の現れ方や疾患の進行度に影響すると考えられています。感染の有無は目に見える症状ではわからないため、検査による確認が必須です。

近年では衛生状態の向上により若年層の感染率は減少していますが、中高年層では依然として高い感染率がみられます。胃がんの危険因子としても知られており、公的にも検査・除菌が勧奨されるようになっています。

症状

ピロリ菌に感染していても、自覚症状が全くないまま経過することが多く、「サイレント感染症」とも言われています。実際、感染者の多くは無症状のまま過ごしており、胃カメラや健康診断などで偶然に感染が判明するケースも少なくありません。

症状が出る場合、最も多いのは慢性胃炎に由来する「胃もたれ」「食後の膨満感」「みぞおちの不快感」などです。進行すると「胃潰瘍」や「十二指腸潰瘍」として、上腹部痛、吐き気、げっぷ、食欲不振などが現れることがあります。

また、出血性潰瘍をきたすと、吐血や黒色便(タール便)、貧血症状(疲労感、めまいなど)を伴うこともあります。特に高齢者では、症状が出にくい一方で、潰瘍や胃がんをきっかけに感染が見つかるケースが目立ちます。

まれに、鉄欠乏性貧血や特発性血小板減少性紫斑病(ITP)との関連も報告されており、消化器症状がない場合でもピロリ菌感染が影響していることがあります。

診断方法と治療方法

ピロリ菌の診断には、非内視鏡的検査と内視鏡下検査の両方があります。代表的な検査方法は以下の通りです。

【非内視鏡的検査】

  •  尿素呼気試験:最も信頼性が高く、簡便で負担が少ない
  • 便中抗原検査:糞便中のピロリ抗原を検出
  • 血清抗体検査:ピロリに対する抗体を測定(過去感染の可能性も含む)

【内視鏡下検査】

  • 迅速ウレアーゼ試験:採取した胃粘膜に含まれるピロリを検出
  • 組織染色や培養による菌の直接確認

治療は「除菌療法」が基本で、胃酸分泌抑制薬(PPIまたはP-CAB)+2種類の抗生物質(アモキシシリン、クラリスロマイシン)を1週間内服します。1回目で除菌に失敗した場合は、抗菌薬を変更した2次除菌が行われます。

除菌後には、尿素呼気試験などで成功確認を行い、必要に応じて再除菌を検討します。治療費は保険適用となり、内視鏡検査で胃炎が確認されれば除菌療法の対象になります。

予後

除菌療法が成功すれば、ピロリ菌が引き起こす多くの病態の進行を抑えることができ、特に胃潰瘍・十二指腸潰瘍の再発リスクは大幅に減少します。また、胃がんの発症リスクも除菌により有意に低下することが分かっています。

ただし、除菌が遅れ、すでに「萎縮性胃炎」や「腸上皮化生」が進行していた場合は、除菌後も胃がんのリスクは完全にはなくなりません。そのため、除菌後も定期的な内視鏡フォローが必要です。

また、除菌によって胃酸の分泌が回復し、逆流性食道炎の症状が出ることもあり、必要に応じて胃酸抑制薬が継続される場合もあります。

一度除菌に成功すれば再感染のリスクは極めて低く、長期予後は良好とされています。自己判断で治療を中断したり、検査を受けずに放置することで、将来的な合併症のリスクが高まる可能性があるため、医師の指導に従った継続的な管理が大切です。

予防

ピロリ菌の予防には、主に感染経路を断つことが重要です。幼少期の経口感染が多いため、家族内感染を防ぐためにも、食器の共有や口移しなどを避けることが基本とされています。

上下水道が整備された現代日本では、新たな感染のリスクは低くなっていますが、衛生環境が不十分な地域への旅行時などには注意が必要です。

また、ピロリ菌感染の有無を調べる「ピロリ検査」は、内視鏡で胃炎が確認された場合に保険適用となりますが、自費でのスクリーニング検査も可能です。特に家族に胃がんの既往がある人、胃腸症状が続く人は検査を検討すべきです。

すでに感染している人に対しては、早期の除菌が最大の予防策となります。除菌することで、胃がんのリスクが下がるだけでなく、長年の胃の不調が改善することもあります。

関連する病気や合併症

ピロリ菌は多くの胃腸疾患と関連しています。代表的なものとして、「慢性胃炎」「胃潰瘍」「十二指腸潰瘍」があり、これらは除菌により再発リスクが大きく下がります。

「萎縮性胃炎」「腸上皮化生」といった胃粘膜の変化は、長期感染によって生じ、将来的に「胃がん」へと進行するリスク因子となります。胃がんの多くはピロリ菌感染を背景に発生しており、除菌によるリスク低下が国際的にも認められています。

また、ピロリ菌感染は消化器外の病気にも関与しているとされ、「特発性血小板減少性紫斑病(ITP)」「鉄欠乏性貧血」「慢性じんましん」などとの関連も報告されています。

さらに、除菌後も胃酸過多による逆流性食道炎が起こることがあり、これらの合併症を含めた総合的な管理が求められます。適切な治療と定期的な経過観察によって、これらのリスクを大きく軽減できます。

症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。

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■ 参考・出典

日本ヘリコバクター学会「ピロリ菌感染症と除菌」(https://www.jshr.jp/)

日本消化器病学会「胃炎・胃がんとピロリ菌」(https://www.jsge.or.jp/)

国立国際医療研究センター「ピロリ菌感染と除菌療法」(https://www.ncgm.go.jp/)

■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック

近畿大学 医学部 卒

近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。

「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。 医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。 医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。

  • 公開日:2025/07/07
  • 更新日:2025/07/09

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