胃憩室いけいしつ
胃憩室は、胃の壁の一部が外側に袋状に突出した状態で、ほとんどは無症状ですが、まれに胃もたれや痛みなどの症状を伴うこともあります。バリウム検査や内視鏡で偶然発見されることが多く、治療は症状の有無により異なります。炎症や出血を起こした場合は内科的または外科的治療が必要になることもあります。
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胃憩室とは?
胃憩室とは、胃の壁の一部が外側に袋のように突出した構造を指します。「憩室(けいしつ)」とは、消化管壁の一部が外に向かって膨らんだ空間を意味し、胃のほかにも食道や大腸にできることがあります。
胃憩室は比較的まれで、胃バリウム検査を受けた人の0.01〜0.11%程度にしか見られないとされており、多くは無症状のまま経過します。そのため、健康診断や胃の検査中に偶然発見されることがほとんどです。
憩室は主に、胃の上部(噴門部付近)または下部(幽門部付近)にできやすく、その形成には胃壁の構造的弱点や内圧の上昇が関与していると考えられています。
形状は小さなポケット状で、多くは粘膜層が外に向かって膨らんでいる「仮性憩室」です。まれに、すべての胃壁層が突出する「真性憩室」もあります。
原因
胃憩室の原因は、先天性(生まれつき)と後天性(成人後に形成される)に分けられます。
【先天性憩室】
- 胎児期の胃壁形成異常により生じる「真性憩室」
- 比較的若年で発見されるが、多くは無症状
- 胃の噴門部後方にできやすい
【後天性憩室】
- 長年の胃内圧の上昇や胃壁への慢性的な力の加わりによって、胃の筋層を押しのけて粘膜が突出する「仮性憩室」
- 胃の下部(幽門前庭部など)に多くみられ、高齢者に多い傾向
- 消化管の運動障害、胃炎、潰瘍の既往、胃の手術歴が関係していることもある
また、胃の周囲臓器との癒着、胃がんや腫瘍などが局所的に圧をかけることで、憩室形成が誘発されることもあります。
大多数は偶発的に形成されるもので、胃の動きや解剖学的な特徴に起因することが多いです。
症状
多くの胃憩室は無症状で経過するため、日常生活に支障をきたすことは少ないです。しかし、憩室の大きさや内容物のたまり方によって、以下のような症状が出ることがあります。
- みぞおちや上腹部の鈍い痛みや不快感
- 胃もたれ、食後の膨満感
- げっぷや吐き気、胃のむかつき
- 早期飽満感(少量の食事で満腹感)
- 便通異常(便秘または下痢)
- 食欲不振、体重減少(まれ)
憩室に食べ物や胃液、細菌などがたまりやすくなると、「胃憩室炎」と呼ばれる炎症を起こし、腹痛や発熱、吐き気などが強くなることがあります。
また、ごくまれに憩室からの出血や穿孔(壁に穴が開くこと)が起こると、吐血や黒色便、急性腹症など重篤な症状を引き起こす場合があります。
症状があるかないかによって、治療方針が大きく異なります。
診断方法と治療方法
診断
胃憩室の診断には、以下の検査が用いられます。
- 上部消化管X線造影検査(バリウム検査):最も発見されやすい方法。バリウムが憩室内に溜まることで袋状の構造がわかりやすくなる
- 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ):胃粘膜の詳細な観察と、他の病変(腫瘍や潰瘍)との鑑別が可能
- CT検査:憩室の位置関係や周囲組織への影響、穿孔や膿瘍の有無などを評価
治療
治療方針は症状の有無によって異なります。
【無症状の場合】
- 定期的な経過観察のみ
- 食生活の改善(よく噛む、食べすぎを避ける)
【軽度の症状がある場合】
- 胃酸分泌抑制薬、消化管運動改善薬、整腸剤などの投与
- 食事内容の見直し(脂っこいものを避ける、食物繊維のバランスを取る)
【重症例(憩室炎・穿孔・出血など)】
- 抗菌薬による治療(憩室炎)
- 出血時の内視鏡的止血
- 穿孔や難治性の症状では外科的切除を検討
治療は保存的に行われることが多く、手術は例外的です。
予後
胃憩室の予後は、ほとんどの場合で良好です。無症状の憩室では経過観察のみで対応でき、生涯にわたって特別な治療を必要としないことも少なくありません。
一方、症状がある場合や合併症を起こした場合は、治療が必要となり、炎症(憩室炎)や出血、穿孔などが起こると入院治療や手術を要する可能性があります。
しかし、これらの重篤な合併症はまれであり、適切な食事管理や内服治療で症状がコントロールされる例が大多数です。
また、治療後に再発することも少なく、薬物療法や生活習慣の見直しにより、長期にわたり安定した経過をたどることが期待されます。
憩室の位置や大きさによって対応が異なるため、定期的な内視鏡検査や画像検査によって状態を把握し、医師の指導のもとで管理を続けることが大切です。
予防
胃憩室そのものの発症を完全に予防することは難しいですが、発症リスクを下げたり、憩室がある場合に症状の悪化を防ぐことは可能です。
- よく噛んでゆっくり食べる(胃への圧力を減らす)
- 食べすぎ、早食い、暴飲暴食を避ける
- 胃に刺激を与える食品(香辛料、カフェイン、アルコールなど)の摂取を控える
- 過度なストレスを避け、胃腸に負担をかけない生活を心がける
- 便秘予防(腸内ガスの過剰蓄積が胃の圧力を高めることがある)
また、持病のある人は定期的な検診で胃の状態を確認することが勧められます。バリウム検査や胃カメラなどで偶然発見された場合でも、医師の指導のもとで定期的な経過観察を行うことで、合併症を未然に防ぐことが可能です。
関連する病気や合併症
胃憩室は単独で存在することが多いですが、次のような関連疾患や合併症が知られています。
- 胃憩室炎:憩室内に内容物や細菌がたまり、炎症を起こす(発熱・強い痛み)
- 出血:憩室の粘膜が傷ついて出血することがある(吐血、黒色便)
- 穿孔:まれに憩室が破れ、腹膜炎を起こす(重篤、緊急手術が必要)
- 胆汁性胃炎:憩室近傍に胆汁が逆流して胃粘膜に炎症が生じることもある
- 胃がん:憩室内にがんが発生することは非常に稀だが報告例がある
また、胃憩室が症状の原因と誤認されやすく、実際には他の疾患(胃潰瘍、機能性ディスペプシア、胃がんなど)が背景にあることもあります。確定診断には内視鏡と画像検査による丁寧な評価が必要です。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
日本消化器病学会「胃憩室の診療ガイドライン」(https://www.jsge.or.jp/)
厚生労働省e-ヘルスネット「胃の構造と疾患」(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/)
国立国際医療研究センター「胃憩室の診断と治療」(https://www.ncgm.go.jp/)
順天堂大学医学部附属順天堂医院「上部消化管疾患」(https://www.juntendo.ac.jp/)
■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。
「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。
医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。
医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。
- 公開日:2025/07/08
- 更新日:2025/07/08
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