気管支拡張症きかんしかくちょうしょう
気管支拡張症は、気管支が異常に拡張して元に戻らなくなり、慢性的な咳や痰、繰り返す呼吸器感染を引き起こす疾患です。原因は結核後遺症や遺伝性疾患、自己免疫など多様で、CT検査による診断と長期的な感染管理が治療の中心です。
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気管支拡張症とは?
気管支拡張症とは、気管支の壁が炎症などにより破壊され、異常に拡張して戻らなくなる疾患です。通常、気管支は柔軟に伸縮して空気の流れを調整しますが、気管支拡張症ではその構造が不可逆的に損なわれ、広がったままになります。
このような変化が生じると、痰を排出する力(クリアランス)が低下し、細菌やウイルスが残りやすくなるため、慢性的な気道感染や炎症を繰り返します。結果として、咳や大量の膿性痰、血痰などの症状が持続的に現れ、患者の生活の質を大きく低下させます。
気管支拡張症は小児でも発症しますが、多くは成人、特に中高年以降に診断されることが多く、日本では結核後遺症としての発症が今もなお一定数存在します。また、近年はCT検査の普及により軽症例の発見も増えています。
疾患そのものは完治しませんが、抗菌薬や排痰法、ワクチン、呼吸リハビリなどによって症状のコントロールと再発予防が可能です。
原因
気管支拡張症の原因はさまざまで、大きく先天性と後天性に分類されます。また、多くの症例で原因が特定できない「特発性」の場合もあります。
先天性の原因
- 嚢胞性線維症(CF):欧米では主因の一つ、日本ではまれ
- 気道構造の異常:軟骨形成不全、原発性線毛運動異常症など
後天性の原因
- 感染症:結核、麻疹、百日咳、重症肺炎などによる気管支の後遺障害
- 慢性炎症性疾患:非結核性抗酸菌症、慢性副鼻腔炎
- 自己免疫疾患:関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群など
- 閉塞性病変:腫瘍や異物による気道閉塞によって生じる
その他の要因
- 吸引性肺炎、アスピレーション
- アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)
特発性気管支拡張症
- 原因が明確でないが、局所の感染や微小炎症が長期間続いた結果と考えられる
特に日本では、過去の結核による気管支の損傷が未だに重要な原因の一つであり、地域差や年齢層によって原因の傾向も異なります。
症状
気管支拡張症の症状は慢性的かつ進行性で、再発性の呼吸器感染を繰り返すことが特徴です。特に以下のような症状がみられます。
主な症状
- 慢性的な咳:日中も夜間も持続し、朝方に多く出ることが多い
- 大量の膿性痰:黄緑色の痰、悪臭を伴うこともある
- 血痰、喀血:気管支壁が脆弱化し出血しやすくなる
- 息切れ、呼吸困難:進行例や運動時に目立つ
- 胸部の不快感や圧迫感
急性増悪時の症状
- 発熱(微熱〜高熱)
- 痰の量と性状の悪化(膿性、粘稠性の増加)
- 咳の激化、呼吸状態の悪化
- 全身倦怠感、食欲不振
慢性経過での症状
- 体重減少(慢性的な感染状態やエネルギー消耗による)
- 疲労感
- ばち指(指の末端が膨らむ):慢性的な低酸素状態により発現
小児や若年者の特徴
- 感染のたびに咳や痰の症状が強く出る
- 繰り返す肺炎や気管支炎の既往がある
- 発育遅延や運動制限
気管支拡張症は、症状の波がある疾患であり、増悪と寛解を繰り返す経過をたどることが一般的です。長期間の咳や痰、特に血痰が続く場合は、単なる風邪や気管支炎と誤解されやすいため、注意が必要です。
診断方法と治療方法
診断
- 胸部X線検査
・肺野の透過性亢進、線状影、リング状影などがみられるが、初期では異常が見逃されることも多い - 胸部高分解能CT(HRCT)
・診断の決め手。拡張した気管支の「輪切り像」や「気管支壁肥厚」など典型的な所見を確認
・病変の分布(左右差、部位)も評価 - 呼吸機能検査
・閉塞性障害(FEV1低下)がみられることがある
・喘息やCOPDとの鑑別に重要 - 喀痰検査
・細菌培養で感染原因菌を同定(緑膿菌、インフルエンザ菌、肺炎球菌など)
・抗酸菌(結核、NTM)や真菌の検査も併せて行う - 血液検査
・好酸球増多(ABPAの鑑別)
・免疫グロブリン値(原発性免疫不全のスクリーニング) - 原因疾患の検索
・リウマチ、シェーグレン症候群、CFなどの評価が必要な場合もある
治療
- 感染予防と抗菌薬療法
・急性増悪時には原因菌に応じた抗菌薬を投与
・緑膿菌感染例では長期マクロライド療法や吸入抗菌薬を検討 - 排痰指導とリハビリ
・体位ドレナージ、ネブライザー、呼吸リハビリの活用
・気道クリアランスを促すことが増悪予防につながる - 気管支拡張薬・ステロイド
・喘鳴や閉塞所見がある場合にはβ2刺激薬や吸入ステロイドを使用
・喘息やCOPDとのオーバーラップ症候群(ACOS)で効果あり - ワクチン接種
・インフルエンザ、肺炎球菌ワクチンの定期接種を推奨 - 外科的治療
・局所病変かつ頻回に喀血を起こす例では外科的切除が検討されることも
治療の目標は完治ではなく、「増悪の予防と症状の緩和」にあるため、継続的な管理が不可欠です。
予後
気管支拡張症は慢性の呼吸器疾患であり、進行は比較的緩やかですが、再発性の感染や喀血を繰り返すことで徐々に呼吸機能が低下していく可能性があります。
良好な予後の条件
- 軽症で片肺、局所に限局している
- 適切な感染管理と排痰指導を実践できている
- 喫煙やその他の悪化因子がない
不良な予後のリスク
- びまん性病変(両肺に広がる)
- 緑膿菌などの難治性菌の慢性感染
- 頻回の増悪や大量喀血
- 原疾患が活動性である場合(非結核性抗酸菌症など)
COPDや間質性肺疾患との合併がある場合、呼吸不全に至るリスクが高くなります。早期からの継続的フォローと多職種による支援体制が予後の改善に直結します。
予防
気管支拡張症の予防は、発症の一次予防と進行や増悪の二次予防に分けて考える必要があります。
一次予防
- 肺炎や気管支炎を繰り返さないよう早期治療を行う
- BCGや肺炎球菌ワクチンの接種
- 結核の適切な治療とフォローアップ
二次予防
- 排痰を促す日常的な体位ドレナージ
- 感染の前兆(痰の増加、色調変化)に注意し、早めに抗菌薬治療を受ける
- ネブライザーや呼吸リハビリを継続する
- 喫煙の中止、受動喫煙の回避
栄養・生活管理
- 栄養状態の維持(免疫力向上)
- 運動による呼吸筋トレーニング
- 睡眠とストレス管理
日常生活の中で「自己管理力」を高めることが、気管支拡張症の長期安定につながります。
関連する病気や合併症
気管支拡張症は、さまざまな基礎疾患と関連し、多くの合併症を引き起こす可能性があります。
関連する基礎疾患
- 結核後遺症:空洞病変や瘢痕により二次的に気管支が拡張
- 非結核性抗酸菌症(NTM):Mycobacterium avium complex などの慢性感染
- 自己免疫疾患:リウマチ、シェーグレン症候群など
- 原発性免疫不全症、CF、ABPA
主な合併症
- 再発性肺炎、肺膿瘍
- 慢性呼吸不全、二酸化炭素貯留
- 気管支喘息、COPDとの合併(ACOS)
- 肺高血圧症、右心不全
- 頻回の喀血(生命に関わることも)
合併症を未然に防ぐためには、病態の正確な把握と早期からの包括的な管理が必要です。定期的なCT検査、喀痰培養、呼吸機能検査などのモニタリングが推奨されます。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
- 日本呼吸器学会「びまん性気管支拡張症診療ガイドライン2023」(https://www.jrs.or.jp/)
- MSDマニュアル プロフェッショナル版「気管支拡張症」(https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional)
- 国立国際医療研究センター「気管支拡張症とは」(https://www.ncgm.go.jp/)
■ この記事を監修した医師

石井 誠剛医師 イシイ内科クリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒後、済生会茨木病院で研修を行い、日本生命病院で救急診療科、総合内科勤務。
その後、近畿中央呼吸器センターで勤務後、西宮市立中央病院呼吸器内科で副医長として勤務。
イシイ内科クリニックを開設し、地域に密着し、 患者様の気持ちに寄り添った医療を提供。
日本生命病院では総合内科医として様々な内科診療に携わり、近畿中央呼吸器センターでは呼吸器の専門的な治療に従事し、 西宮市立中央病院では呼吸器内科副医長として、地域医療に貢献。
抗加齢学会専門医として、アンチエイジングだけを推し進めるのではなく、適切な生活指導と内科的治療でウェルエイジングを提供していくことを目指している。
- 公開日:2025/07/08
- 更新日:2025/07/16
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