劇症肝炎げきしょうかんえん
劇症肝炎は、急激に肝機能が失われる重篤な肝疾患で、意識障害や出血などの症状を短期間に引き起こします。主にウイルス感染や薬剤、自己免疫などが原因で、早期の集中治療と必要に応じた肝移植が命を救う鍵となります。
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劇症肝炎とは
劇症肝炎とは、急性に発症した肝炎が短期間で重症化し、肝臓の機能が急速に失われる病態を指します。典型的には、発症から8日以内に肝性脳症(意識障害)や凝固異常をきたし、生命を脅かす状況に陥ります。医学的には「急性肝不全」とも呼ばれますが、特に重症かつ急速に進行する型を「劇症肝炎」と分類します。
原因となる肝炎ウイルス、薬剤、自己免疫疾患、代謝異常などにより肝細胞が広範に壊死し、解毒・代謝・血液凝固といった肝臓の基本機能が著しく低下します。その結果、血中アンモニアの上昇による脳障害(肝性脳症)、出血傾向、腎障害などが次々に現れます。
かつては致死率の高い疾患でしたが、現在では肝移植や集中治療の進歩により救命率が向上しています。ただし今なお、迅速な診断と適切な医療体制がなければ救命が難しい、極めて危険な疾患です。
原因
劇症肝炎の原因は多岐にわたり、感染、薬剤、自己免疫、代謝異常などが複雑に関与しています。中には原因不明とされる特発性のケースもあります。
感染性
- B型肝炎ウイルス(HBV):最も多い原因。キャリアからの再活性化も含む
- A型・E型肝炎ウイルス:特に高齢者や妊婦で重症化しやすい
- 単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルスなど:免疫抑制下で重症化することがある
薬剤性
- アセトアミノフェン:海外では劇症肝炎の主因、日本ではまれ
- 抗菌薬、抗てんかん薬、抗リウマチ薬など
- 健康食品、サプリメントの過剰摂取や不適切な使用による肝障害
自己免疫性
- 自己免疫性肝炎の急性増悪型
- 他の自己免疫疾患に合併する肝炎
その他
- 妊娠(HELLP症候群、急性妊娠脂肪肝)
- 代謝異常(ウィルソン病など)
- 造影剤やワクチン接種後のまれな反応
劇症肝炎は誰にでも起こりうるため、リスク因子がなくても急性肝障害を呈した場合には精査が必要です。
症状
劇症肝炎は急速に進行するため、初期症状は非特異的で風邪に似ていますが、数日以内に重篤な症状へと移行します。
初期症状
- 全身倦怠感、疲労感
- 食欲不振
- 軽度の発熱
- 吐き気、嘔吐
- 右上腹部の違和感や痛み
進行時の症状
- 黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)
- 尿の色が濃くなる、便の色が白っぽくなる
- 出血傾向:歯ぐきや鼻からの出血、皮下出血など
- 肝性脳症:軽度の眠気、判断力低下から始まり、昏睡へと進行
- けいれん、意識消失、異常行動
- 腹部膨満感(腹水の貯留)
- 腎機能低下、呼吸不全など多臓器不全の兆候
特に「急に話がかみ合わなくなる」「意味のない行動をする」などの精神神経症状が現れた場合は、肝性脳症の初期であり、早急な対応が求められます。
診断方法と治療方法
診断
- 問診:既往歴、服薬歴、飲酒歴、渡航歴、肝疾患の家族歴を確認
- 血液検査
- 肝酵素(AST、ALT)の急激な上昇
- ビリルビンの上昇
- プロトロンビン時間(PT)延長(70%未満)
- 血小板数の減少、血中アンモニア上昇、Dダイマーなどの凝固異常 - ウイルスマーカー:HBV、HCV、HAV、HEVなどの血清検査
- 画像検査:腹部エコー、CTで肝腫大や肝萎縮の有無を評価
- 脳波:肝性脳症の診断補助
- 肝生検(必要時):原因特定や重症度評価
治療
- 入院下での集中治療が必須(ICU)
- 原因除去:ウイルス・薬剤の中止、HBV再活性化には核酸アナログ製剤
- 肝保護療法:ブドウ糖投与、アシドーシス対策、ビタミンK補充など
- 脳症管理:ラクツロース、浣腸、低たんぱく食、人工透析(必要時)
- 血漿交換・持続的血液濾過(CHDF):肝代謝を代行し、体内毒素を除去
- 肝移植:重症例・非回復例に対する唯一の根治療法
治療は時間との勝負であり、肝移植適応の判断も迅速に行う必要があります。
予後
劇症肝炎の予後は非常に厳しく、治療の成否が発症後数日の対応にかかっています。以前は致死率70〜80%とも言われましたが、現在は集中治療と肝移植の進歩により改善傾向にあります。
予後が良好な場合
- 早期発見・早期治療が行われた場合
- ウイルス性で治療薬(HBVなど)が奏効した場合
- 肝機能が自然に回復した軽症例(非移植例)
重症化・致死的経過となる場合
- 肝性脳症の発症が早く、昏睡が長時間持続した場合
- 多臓器不全を合併している
- 治療開始が遅れた場合
- 肝移植が行えなかった場合(ドナー不足など)
劇症肝炎の回復には、肝機能だけでなく、脳機能・腎機能・全身状態の維持が重要です。生存した場合でも、長期にわたり肝機能・神経機能の経過観察が必要です。
予防
劇症肝炎は発症後の経過が急速かつ重篤なため、発症予防が何より重要です。原因に応じた予防策を講じることが命を守ることにつながります。
ウイルス性肝炎の予防
- B型肝炎ワクチンの接種(医療従事者、新生児、性感染症リスクがある人)
- A型肝炎ワクチン(渡航者、感染流行地域在住者など)
- 肝炎ウイルス検査の受診:自分がキャリアであるかの確認
- HBVキャリアで免疫抑制療法を受ける場合は事前に抗ウイルス薬を予防投与
薬剤性肝炎の予防
- 市販薬、健康食品、サプリメントの過剰摂取を避ける
- 医師の指示なく自己判断で薬剤を継続・変更しない
- 肝機能障害の既往がある人は薬剤使用前に医師へ相談
生活習慣
- 適切な飲酒習慣(過度な飲酒を避ける)
- 肝臓に負担をかけない食生活(高たんぱく・低脂肪・バランス重視)
- 体調不良時は無理をせず受診を
高リスク群では、肝機能検査を定期的に受けることが予防の第一歩です。
関連する病気や合併症
劇症肝炎は単独でも命にかかわる重篤な病態ですが、全身に及ぶ合併症を併発することが多く、総合的な管理が不可欠です。
関連疾患・合併症
- 肝性脳症:アンモニアなどの代謝産物が脳に影響し、昏睡を引き起こす
- 腎不全:腎血流の低下や高アンモニア血症により腎機能が低下
- 出血傾向:血小板減少や凝固因子の欠乏による出血しやすい状態
- 肺水腫・呼吸不全:全身浮腫や感染症に伴って出現
- 感染症:免疫力低下により敗血症などの重篤感染を起こしやすい
- 膵炎、心不全、消化管潰瘍:多臓器不全の一環として
また、劇症肝炎がB型肝炎ウイルスの再活性化によるものであれば、免疫抑制治療中の患者では特に注意が必要です。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
日本肝臓学会「劇症肝炎診療ガイドライン」(https://www.jsh.or.jp/)
厚生労働省e-ヘルスネット「劇症肝炎」(https://kennet.mhlw.go.jp/home)
国立国際医療研究センター「急性肝不全の診断と治療」(https://www.ncgm.go.jp/)
日本消化器病学会「劇症肝炎・急性肝不全」(https://www.jsge.or.jp/)
■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。
「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。
医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。
医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。
- 公開日:2025/07/16
- 更新日:2025/07/16
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