嚢胞性肺疾患(肺嚢胞症)のうほうせいはいしっかん

嚢胞性肺疾患(肺嚢胞症)は、肺に空気を含む嚢胞が形成される疾患群で、自然気胸や呼吸機能障害を引き起こすことがあります。先天性や後天性を問わず原因は多岐にわたり、正確な診断と定期的なフォローが重要です。多くの場合、画像診断が決め手となります。

嚢胞性肺疾患(肺嚢胞症)

嚢胞性肺疾患とは?

嚢胞性肺疾患とは、肺の中に空気を含んだ袋状の構造物(嚢胞)が複数形成される病態を指し、肺嚢胞症とも呼ばれます。これらの嚢胞は正常な肺胞とは異なり、壁が薄く、換気に直接関与しない構造をしています。嚢胞の形成により肺構造が破壊され、呼吸機能にさまざまな影響を及ぼすことがあります。

肺嚢胞は単発で見られることもありますが、多くの場合、多発性に存在し、原因となる疾患によって分布や形態、合併症の傾向が異なります。最も一般的な症状は自然気胸であり、若年者を含めた初発例として受診のきっかけになることがよくあります。

嚢胞性肺疾患には、先天性の疾患(例:リンパ脈管筋腫症やBirt-Hogg-Dubé症候群)や、後天的に肺組織が破壊されて嚢胞が形成される疾患(例:Langerhans細胞組織球症、COPDに伴う気腫性変化)などが含まれます。

近年では、胸部CT検査の普及により無症状の肺嚢胞が偶然発見されるケースも増加しています。原因疾患によっては治療方針が大きく異なるため、正確な診断が非常に重要です。

原因

嚢胞性肺疾患は、多くの異なる疾患によって引き起こされる病態であり、原因により分類されます。以下に代表的な疾患とその特徴を示します。

先天性・遺伝性疾患

  • リンパ脈管筋腫症(LAM):若年女性に好発。肺嚢胞がびまん性に分布。結節性硬化症との関連もある
  • Birt-Hogg-Dubé症候群(BHD症候群):常染色体優性遺伝疾患で、皮膚病変、腎腫瘍、肺嚢胞を特徴とする
  • 嚢胞性線維症(CF):欧米に多い常染色体劣性遺伝疾患で、粘性分泌物による気道閉塞と嚢胞形成が見られる

後天性疾患

  • Langerhans細胞組織球症(PLCH):喫煙との関連が強く、肺の上葉優位に嚢胞が形成される
  • 気腫性肺疾患(COPDなど):肺胞壁の破壊により気腫性嚢胞が形成される
  • 感染後変化:肺結核、肺真菌症の治癒後に嚢胞が残存する場合がある

良性・悪性腫瘍

  • 転移性腫瘍や嚢胞性腫瘍により嚢胞が形成されることもある

その他

  • 特発性:明確な基礎疾患が特定できない嚢胞も存在する

嚢胞の数、形、大きさ、分布の様子、壁の厚さなどは原因疾患によって特徴が異なるため、胸部CT画像と臨床所見、家族歴、合併症などを総合的に判断することが求められます。

症状

嚢胞性肺疾患の症状は、嚢胞の大きさや数、分布、合併症の有無によってさまざまです。軽度の嚢胞では無症状で経過することもありますが、進行すると呼吸機能に影響を与える症状が出現します。

代表的な症状

  • 労作時の息切れ(呼吸困難):肺の換気能力の低下による
  • 慢性的な咳や痰:気道刺激または感染の繰り返しによる
  • 胸痛:嚢胞の破裂による胸膜刺激、または気胸の前駆症状
  • 自然気胸:嚢胞が破裂して胸膜腔に空気が漏れることで発症。再発を繰り返すことが多い
  • 血痰:嚢胞壁や気道の損傷、合併症によるもの
  • 疲労感:酸素化不良に起因する全身症状

進行した場合の症状

  • 安静時呼吸困難:肺機能が著しく低下した場合に出現
  • ばち状指(ばちじょうし):慢性的な低酸素状態による末梢循環異常
  • 体重減少、寝汗:感染の慢性化や悪性疾患の合併を示唆

合併症による症状

  • 肺感染症:嚢胞内に分泌物がたまりやすく、細菌感染の温床となる
  • 気胸:急激な呼吸困難や胸痛を呈し、再発率が高い
  • 肺高血圧:慢性的な換気障害が持続することで肺循環に負荷がかかる

出現時期と年齢層

  • 若年者(20〜40代)に自然気胸として初発することが多い(特にLAMやBHD)
  • 高齢者では気腫性変化として緩徐に進行し、症状は見逃されやすい

嚢胞性肺疾患の症状は非特異的であり、他の呼吸器疾患と区別が難しい場合もあります。画像診断と組み合わせて総合的に判断する必要があります。

診断方法と治療方法

診断

  1. 胸部X線検査
    ・中等度以上の嚢胞は可視化可能だが、感度は低い
    ・気胸や肺の過膨張所見を捉えるのに有用
  2. 胸部CT(特に高分解能CT:HRCT)
    ・嚢胞の大きさ、数、分布、壁の厚さを詳細に評価可能
    ・原因疾患ごとのパターン(上葉優位、びまん性、辺縁性など)を把握
  3. 呼吸機能検査
    ・拘束性障害(肺の容量低下)または閉塞性障害(空気の通りにくさ)を評価
    ・DLCO(肺拡散能)低下が見られることが多い
  4. 血液検査
    ・VEGF-D(LAMの診断補助マーカー)
    ・自己抗体(膠原病関連嚢胞性疾患の除外)
    ・感染症マーカー(慢性感染や結核の除外)
  5. 遺伝子検査(必要に応じて)
    ・BHD症候群:FLCN遺伝子変異の確認
    ・嚢胞性線維症:CFTR遺伝子解析
  6. 組織診(必要に応じて)
    ・気管支鏡、生検、胸腔鏡(VATS)による肺組織採取

治療

嚢胞性肺疾患の治療は、原因疾患によって大きく異なります。

  1. 観察・経過観察
    ・無症状、嚢胞の小型・少数例では経過観察のみ
    ・定期的なCTと呼吸機能検査で進行を評価
  2. 原因疾患に応じた治療
    ・LAM:mTOR阻害薬(シロリムス)による病態進行抑制
    ・PLCH:禁煙が最も重要な治療
    ・感染後の嚢胞:再感染の予防と呼吸管理
  3. 気胸の治療
    ・胸腔ドレナージ、化学的癒着術(プレウロデーシス)、外科的切除(VATS)
    ・再発防止のためには嚢胞切除を検討することもある
  4. 呼吸リハビリテーション
    ・呼吸筋訓練、酸素療法、生活指導によるQOL維持
  5. 肺移植
    ・末期例での選択肢として考慮される(特にLAMや嚢胞性線維症など)

診断後は、症状の変化や合併症の発生を早期に把握するため、専門医による継続的な管理が不可欠です。

予後

嚢胞性肺疾患の予後は、原因疾患、嚢胞の数と広がり、合併症の有無、治療への反応によって異なります。

予後良好の例

  • 少数の嚢胞のみ存在し、気胸や感染を合併しない場合
  • BHD症候群のように進行が緩やかで、管理が可能な例
  • PLCHで禁煙後に病状が安定する症例

予後不良の因子

  • LAMや嚢胞性線維症など進行性のびまん性疾患
  • 頻回の自然気胸による肺損傷の累積
  • 肺感染症の反復、肺高血圧の進行
  • 呼吸機能の急激な低下や酸素療法の導入が必要な状態

合併症による死亡リスク

  • 慢性呼吸不全によるQOL低下と生命予後の悪化
  • 重症感染症や肺がんの合併による急変

管理のポイント

  • 定期的な画像検査と呼吸機能検査による病勢把握
  • 生活指導(禁煙、感染予防)と治療の継続

予後の改善には、原因に対する理解と早期介入、長期的な医療フォローが鍵となります。

予防

嚢胞性肺疾患の多くは予防が難しい先天性・遺伝性疾患によるものですが、後天的な因子に対しては予防的対応が可能です。

一次予防(発症リスクの低減)

  • 禁煙の徹底(PLCHや気腫性嚢胞の発症予防)
  • 粉塵・有害化学物質の吸入防止(作業環境の管理)
  • 感染症予防(肺炎球菌ワクチン、インフルエンザワクチン)

二次予防(早期発見)

  • 家族歴のある人への定期的な画像検査
  • 若年での自然気胸発症例は、BHDやLAMの鑑別を念頭に置く
  • 肺機能異常を伴う症状に対しては早期に専門医を受診

合併症予防

  • 感染対策(うがい、手洗い、マスク着用)
  • 定期的な呼吸器評価と生活習慣の見直し

自己管理の重要性

  • 医療機関との連携
  • 症状の変化を早期に自覚し、すみやかに対応

嚢胞性肺疾患の進行を防ぐためには、継続的な管理と予防的ケアが非常に重要です。

関連する病気や合併症

嚢胞性肺疾患は、その病態に伴って多くの合併症や関連疾患を引き起こす可能性があります。以下に代表的な疾患を示します。

関連疾患

  • BHD症候群:腎腫瘍、皮膚線維腫、家族性自然気胸
  • LAM:結節性硬化症との関連、腎血管筋脂肪腫
  • 嚢胞性線維症:副鼻腔炎、膵不全、不妊症との合併

呼吸器合併症

  • 自然気胸:嚢胞破裂により頻発
  • 慢性気管支炎、気管支拡張症
  • 肺高血圧症:換気血流不均衡により進行
  • 慢性呼吸不全:進行例での主要合併症

感染症

  • 反復する肺炎、肺膿瘍
  • 非結核性抗酸菌症(MACなど)
  • 結核(慢性肺疾患患者にリスクあり)

腫瘍性疾患

  • 肺がんのリスク上昇(慢性炎症や喫煙が関与)
  • 腎細胞がん(特にBHD症候群)
  • 腫瘍性嚢胞の鑑別が必要

社会生活への影響

  • QOLの低下(活動制限、入院頻度増)
  • 就労制限や医療費負担

多様な合併症に対する包括的な管理が、長期的な予後改善に重要です。

症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。

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■ 参考・出典

■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック

近畿大学 医学部 卒

近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。

「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。 医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。 医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。

  • 公開日:2025/07/16
  • 更新日:2025/07/16

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