横隔膜ヘルニアおうかくまくへるにあ

横隔膜ヘルニアは、腹部の臓器が本来の位置から胸腔内へはみ出す病気で、逆流性食道炎や胸やけの原因となることがあります。症状が軽い場合もありますが、進行すると呼吸障害や消化器症状が悪化するため、早期発見と適切な治療が重要です。

横隔膜ヘルニアとは?

横隔膜ヘルニアとは、本来腹腔内にあるはずの臓器(胃、腸、脾臓など)が、横隔膜に開いた孔を通じて胸腔内に逸脱してしまう状態を指します。横隔膜は胸腔と腹腔を分ける膜状の筋肉で、通常は臓器の移動を防いでいますが、先天的な異常や加齢、腹圧の上昇などによって孔が緩んだり広がったりすると、ヘルニアが生じます。

横隔膜ヘルニアは大きく2種類に分類されます。1つは新生児に多い「先天性横隔膜ヘルニア」で、出生直後から呼吸困難を引き起こします。もう1つは成人に見られる「後天性横隔膜ヘルニア」で、その多くが「食道裂孔ヘルニア」と呼ばれるタイプです。これは、食道が横隔膜を貫通する「食道裂孔」から胃の一部が胸腔内に入り込むものです。

原因

横隔膜ヘルニアの原因は、先天性と後天性で異なります。先天性横隔膜ヘルニアは胎児期の横隔膜の発達異常によって生じ、生まれつき横隔膜に欠損があるために腹腔内の臓器が胸腔内に入り込みます。多くは出生直後に重度の呼吸障害を引き起こし、緊急手術が必要です。

一方、後天性横隔膜ヘルニアの主な原因は、食道裂孔の筋肉や支持組織の緩みです。加齢による筋力低下、肥満、妊娠、重いものを持つ習慣、慢性的な咳や便秘など、腹圧を高める要因が蓄積することで発症リスクが高まります。また、胃の手術後や交通事故、外傷による横隔膜損傷がきっかけになることもあります。

食道裂孔ヘルニアは、症状が軽いために見逃されることも多く、無症状のまま検診や内視鏡検査で偶然発見されることもあります。胃食道逆流症(GERD)との関連が深く、原因と結果の関係が複雑な場合もあります。

症状は?

横隔膜ヘルニアの症状は、その種類と程度によってさまざまです。もっとも一般的な「食道裂孔ヘルニア」では、逆流性食道炎に似た症状が出現します。具体的には、胸やけ、呑酸(酸っぱい液が喉に上がる)、食後の胃もたれ、咳、のどの違和感、胸部圧迫感、げっぷの増加などがみられます。

これらは、胃酸や消化物が食道に逆流することで食道粘膜が刺激されるために起こります。通常、食道と胃のつなぎ目には下部食道括約筋があり、逆流を防いでいますが、ヘルニアによってこの部位の構造が乱れると、逆流を防げなくなります。

また、食道裂孔ヘルニアにはいくつかの亜型があり、胃の一部が胸腔内に滑り込む「滑脱型ヘルニア」と、胃の上部が食道の横にずれて入る「傍食道型ヘルニア」があります。傍食道型は比較的まれですが、胃がねじれる「胃軸捻転」を起こすことがあり、強い胸痛や嘔吐、呼吸困難などの急性症状を呈することがあります。

先天性横隔膜ヘルニアの場合は、出生直後から強い呼吸困難、チアノーゼ(皮膚や粘膜が青紫色になる)、哺乳不良などが見られます。これは腹腔内の臓器が肺の発達を妨げ、肺低形成(肺が十分に成長しない)を招くためです。

診断方法と治療方法

診断方法

診断には、まず問診で症状の有無や既往歴、生活習慣を確認します。胸やけや食後の胸部不快感がある場合には、消化器系の精査が進められます。画像検査としては、胸部X線、胃透視(バリウム検査)、上部消化管内視鏡(胃カメラ)、CTスキャンなどが用いられます。

特に胃透視では、体位変換を加えることで胃が胸腔内に移動している様子を直接観察できるため、食道裂孔ヘルニアの検出に有用です。内視鏡では、胃酸の逆流による食道炎の有無や、ヘルニアの大きさ、食道と胃の接合部の状態を確認できます。

治療方法

治療は、症状の程度によって異なります。軽度であれば、まずは内服治療が選択されます。主にプロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2ブロッカーといった胃酸分泌抑制薬が用いられ、食道粘膜の炎症を抑えることで症状の改善を図ります。加えて、食事内容の見直し、就寝時の体位調整(上半身を高くして寝る)、禁煙、減量などの生活習慣の改善も重要です。

症状が重い、または薬物治療で十分な効果が得られない場合は手術が検討されます。腹腔鏡下で行われる「噴門形成術(ニッセン手術など)」では、胃の一部を食道下端に巻きつけて逆流を防ぎ、食道裂孔を縫縮してヘルニアの再発を予防します。

予後について

横隔膜ヘルニアの予後は、原因や治療のタイミングにより異なります。食道裂孔ヘルニアにおいては、軽度であれば内服薬と生活習慣の見直しによって良好にコントロールされることが多いです。長期的な管理により、逆流症状や食道炎の進行を防ぐことができます。

しかし、症状が強く、逆流によって食道にびらんや潰瘍ができている場合には、放置することでバレット食道や食道がんのリスクが高まる可能性があります。そのため、継続的な内視鏡検査や医師によるフォローアップが重要です。

手術を行った場合は、多くの患者で症状の大幅な改善が見られますが、手術後の逆流の再発や嚥下障害、ガスの排出困難(ガス・ブロート症候群)といった合併症にも注意が必要です。これらを避けるためにも、術後の生活指導が大切になります。

予防について

横隔膜ヘルニアを完全に防ぐ方法は確立されていませんが、生活習慣の改善によってリスクを下げることが可能です。特に後天性の食道裂孔ヘルニアでは、腹圧の上昇を避けることが予防につながります。

具体的には、過食を控え、食後すぐに横になるのを避ける、慢性便秘の予防、重い物を持ち上げるときの工夫、肥満の改善などが挙げられます。妊娠中や慢性的な咳のある人も、注意が必要です。

また、食道裂孔ヘルニアと診断された場合には、逆流性食道炎の再発予防のために定期的な内視鏡検査や胃酸分泌抑制薬の継続が推奨されます。医師の指導のもと、体調や症状に応じた適切な管理を行うことが予防の鍵です。

関連する病気や合併症

横隔膜ヘルニアに関連する病気として、もっとも代表的なのが逆流性食道炎です。胃酸や胆汁が食道に逆流することで、食道粘膜が炎症を起こし、胸やけや呑酸を繰り返します。進行すると、食道潰瘍や出血、狭窄などの合併症が発生することもあります。

また、慢性的な咳や喘息様の症状が見られることもあり、特に夜間の咳が目立つ場合には、呼吸器疾患として誤診されることもあります。逆流による微量な胃酸の吸引が、気道の刺激となるためです。

バレット食道は、逆流性食道炎の慢性化によって食道下部の粘膜が胃型上皮に置き換わる状態で、食道がんの前段階とされています。食道裂孔ヘルニアを持つ患者では、この病変のリスクが高いため、定期的な内視鏡検査が勧められます。

症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。

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■ 参考・出典

日本消化器病学会「食道裂孔ヘルニア」
(https://www.jsge.or.jp/guideline/disease/esophageal_hernia.html)

MSDマニュアル家庭版「横隔膜ヘルニア」
(https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/digestive-disorders/hernia/hiatal-hernia)

日本外科学会「横隔膜ヘルニアに関するQ\&A」
(https://www.jssoc.or.jp/medical/sick_02_03.html)

■ この記事を監修した医師

石井 誠剛医師 イシイ内科クリニック

近畿大学 医学部 卒

近畿大学医学部卒後、済生会茨木病院で研修を行い、日本生命病院で救急診療科、総合内科勤務。
その後、近畿中央呼吸器センターで勤務後、西宮市立中央病院呼吸器内科で副医長として勤務。
イシイ内科クリニックを開設し、地域に密着し、 患者様の気持ちに寄り添った医療を提供。

日本生命病院では総合内科医として様々な内科診療に携わり、近畿中央呼吸器センターでは呼吸器の専門的な治療に従事し、 西宮市立中央病院では呼吸器内科副医長として、地域医療に貢献。
抗加齢学会専門医として、アンチエイジングだけを推し進めるのではなく、適切な生活指導と内科的治療でウェルエイジングを提供していくことを目指している。

  • 公開日:2025/07/08
  • 更新日:2025/07/08

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