ヘリコバクターピロリ感染胃炎へりこばくたーぴろりかんせんいえん
ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎は、ピロリ菌が胃の粘膜に感染することで引き起こされる慢性胃炎です。多くは無症状で経過しますが、長期的には胃粘膜の萎縮や腸上皮化生を伴い、胃がんのリスクが高まります。内視鏡や検査で早期に感染を確認し、適切な除菌治療を行うことが、将来の重大な疾患を防ぐために非常に重要です。
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ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎とは?
ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎とは、ピロリ菌が胃の粘膜に長期間感染し、慢性的な炎症を引き起こす病態です。単なる胃炎とは異なり、病因としてピロリ菌が明確に関与していることから、特に「ピロリ感染胃炎」として区別されます。
ピロリ菌はウレアーゼという酵素を使って胃酸を中和し、自らの周囲を生存しやすい環境に変える能力を持っています。この働きにより、胃粘膜に長期間定着して炎症を持続させ、やがて粘膜が萎縮したり腸のような性質に変化する「腸上皮化生」などの異常を引き起こします。
このような慢性的な炎症が長年続くと、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、さらには胃がんの発生につながることが知られています。感染していても症状がないことが多いため、検診や内視鏡検査で発見されるケースが一般的です。
原因
この疾患の直接的な原因は、ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)の胃粘膜への定着です。ピロリ菌は主に乳幼児期に感染し、その後長期にわたって胃にすみ続けることが特徴です。感染経路としては、井戸水や共用の食器、口移しなどが推定されています。
ピロリ菌が胃粘膜に感染すると、慢性の炎症反応が始まり、粘膜は次第に萎縮し、やがて腸上皮化生に進展します。こうした粘膜変化が、胃がんの土壌となるとされています。
また、ピロリ菌の毒素や感染による免疫応答も炎症の持続に関与しており、感染者の中には特定の遺伝子変異を持つことで重症化しやすいタイプも存在します。
近年は若年層の感染率は下がっている一方で、50歳以上の中高年層では高い感染率が残存しており、この層を中心にピロリ感染胃炎が多数存在します。長期間の感染がリスクであるため、感染を確認した時点での早期除菌が勧められます。
症状
ピロリ感染胃炎の症状は、無症状で経過することが多く、「沈黙の胃炎」と呼ばれることもあります。しかし、炎症が進行すると、徐々に胃の機能低下や不快症状が現れてきます。
主な症状には、胃もたれ、食後の膨満感、みぞおちの不快感、げっぷ、吐き気、食欲不振などがあります。これらは「機能性ディスペプシア」と診断されることもあり、症状の程度には個人差があります。
炎症が粘膜の深部まで及ぶと、胃潰瘍や十二指腸潰瘍を引き起こし、上腹部痛、出血による吐血や黒色便(タール便)、貧血症状などが現れることもあります。
また、進行した萎縮性胃炎では胃酸の分泌が低下し、鉄やビタミンB12の吸収障害から鉄欠乏性貧血を合併することもあります。高齢者では症状が目立たず、がんや潰瘍になってから初めて感染が判明することもあります。
診断方法と治療方法
ピロリ感染胃炎の診断には、まず内視鏡検査(胃カメラ)が行われます。粘膜の発赤、腫脹、出血斑、粘液の減少、萎縮や腸上皮化生の有無など、特徴的な所見から感染が疑われます。
さらに、以下のような検査でピロリ菌の有無を確定診断します。
- 尿素呼気試験:簡便かつ高精度
- 便中抗原検査:小児にも有効
- 血清抗体検査:過去の感染も反映
- 内視鏡下迅速ウレアーゼ試験、生検による培養や染色検査
治療は「除菌療法」が基本で、胃酸分泌抑制薬(PPIまたはP-CAB)+2種の抗生物質(アモキシシリン、クラリスロマイシン)を1週間服用します。1次除菌に失敗した場合は、抗菌薬を変更した2次除菌を行います。
除菌後は、尿素呼気試験などで除菌成功を確認します。除菌に成功すれば、胃粘膜の炎症は多くの場合改善し、胃潰瘍や胃がんの発生リスクを下げることが期待されます。
予後
除菌に成功すれば、多くの症例で胃粘膜の炎症が軽減し、潰瘍の再発や胃がん発生リスクの低下が期待できます。特に潰瘍再発率は除菌によって10分の1以下に下がることが確認されています。
ただし、除菌のタイミングが遅く、すでに胃粘膜の萎縮や腸上皮化生が進行している場合には、除菌後も胃がんの発生リスクが残るため、定期的な内視鏡検査によるフォローアップが必要です。
また、除菌後に胃酸分泌が回復することで、逆流性食道炎を発症することがあります。この場合は、PPIなどでの酸抑制治療が並行して行われます。
一度除菌に成功すれば、再感染のリスクは極めて低いため、将来的な胃疾患の予防としては非常に効果的です。長期的な予後を良好に保つためには、早期診断・早期除菌と継続的な経過観察が不可欠です。
予防
感染胃炎の予防には、「ピロリ菌への感染を防ぐこと」と「感染後の早期除菌」が柱になります。感染経路の多くは乳幼児期の家族内感染とされており、親子間での箸やスプーンの共有、口移しを避けることが重要です。
すでに感染している場合は、できるだけ早く検査を受けて、感染の有無を確認しましょう。現在は内視鏡検査で胃炎が確認されれば、保険診療でピロリ菌検査と除菌治療が可能です。
また、食生活の改善(塩分や刺激物を控える、栄養バランスを整える)、禁煙、節酒、ストレス管理なども胃粘膜の保護に役立ちます。
除菌後の再感染は稀ですが、除菌後も胃がん発生リスクが完全になくなるわけではないため、年1回程度の内視鏡検査による経過観察が勧められます。予防は検査と治療、生活習慣の見直しによって初めて成り立つものです。
関連する病気や合併症
ピロリ感染胃炎は、多くの消化器疾患の出発点となるため、放置するとさまざまな病気を引き起こす可能性があります。
代表的な関連疾患として、「胃潰瘍」「十二指腸潰瘍」「慢性胃炎」「萎縮性胃炎」「腸上皮化生」「胃がん」があり、これらの多くはピロリ菌による慢性炎症を背景に発生します。
また、胃粘膜の防御機構が低下することで「機能性ディスペプシア」や「消化不良様症状」が続くことがあり、食欲不振や体重減少、栄養障害を引き起こすケースもあります。
消化器以外では、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)や鉄欠乏性貧血との関連が指摘されており、除菌によりこれらの疾患が改善する例もあります。
ピロリ感染胃炎は、単なる胃の不調にとどまらず、長期的な健康リスクに直結する病態です。正確な診断と継続的な管理が重要です。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
日本ヘリコバクター学会「ピロリ感染胃炎の診療」(https://www.jshr.jp/)
日本消化器病学会「胃炎とピロリ菌」(https://www.jsge.or.jp/)
国立国際医療研究センター「ヘリコバクター・ピロリと胃炎」(https://www.ncgm.go.jp/)
■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。
「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。
医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。
医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。
- 公開日:2025/07/07
- 更新日:2025/07/09
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