腸炎ちょうえん
腸炎は、腸に炎症が生じることで下痢や腹痛、吐き気などの症状を引き起こす疾患です。原因はウイルスや細菌などの感染が多く、食中毒として発症することもあります。多くは自然に回復しますが、重症化すると脱水や血便、発熱を伴うことがあり、適切な水分補給と必要に応じた治療が重要です。
44.jpg)
腸炎とは?
腸炎とは、小腸や大腸など腸管に炎症が起き、下痢や腹痛などの消化器症状を引き起こす状態をいいます。原因には感染性、非感染性、自己免疫性など多様なものがあり、急性と慢性の経過に分けて考える必要があります。
急性腸炎の多くは「感染性腸炎」で、ウイルスや細菌、寄生虫などの病原体が腸に感染することによって起こります。冬季に多いノロウイルスやロタウイルス、夏季に多いカンピロバクターや腸炎ビブリオなどが代表です。
一方、非感染性腸炎では、薬剤性(抗生物質など)、食物アレルギー、自己免疫性(潰瘍性大腸炎、クローン病など)などが原因となり、慢性的な症状が続くことがあります。
腸炎は軽症で自然回復することもありますが、原因によっては入院や専門的治療が必要な場合もあり、適切な鑑別と対応が重要です。
原因
腸炎の原因は、大きく「感染性」と「非感染性」に分類されます。
【感染性腸炎】
- ウイルス:ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルスなど。感染力が強く、集団感染の原因になることも多い。
- 細菌:カンピロバクター、サルモネラ、腸炎ビブリオ、腸管出血性大腸菌(O157など)。高熱や血便を伴うことがある。
- 寄生虫:ジアルジア、アメーバ赤痢など。海外渡航歴のある人に多い。
【非感染性腸炎】
- 薬剤性:抗生物質、NSAIDsなどが腸粘膜を刺激し、炎症を引き起こす。
- 食物アレルギー:特定の食品に対する過敏反応で腸炎を起こす。
- 放射線性腸炎:がん治療の一環として行われた放射線治療による副作用。
- 自己免疫性腸炎:潰瘍性大腸炎やクローン病など炎症性腸疾患が含まれる。
また、ストレスや過労、不規則な生活などによって腸内環境が乱れた結果、腸粘膜が一時的に炎症を起こす「ストレス性腸炎」も報告されています。
症状
腸炎の主な症状は、腸の炎症によって引き起こされる消化器症状です。急性腸炎では以下のような症状が見られます。
- 腹痛(おへそ周囲や下腹部)
- 下痢(水様便が多い)
- 吐き気、嘔吐
- 発熱(軽度〜38℃以上)
- 腹部膨満感
- 食欲不振
- 倦怠感
- 血便(細菌性や重症例で)
- 便のにおいや色の変化、粘液の混入
症状の強さは原因によって異なり、ウイルス性では比較的軽く短期間で自然に改善しますが、細菌性や寄生虫感染では症状が強く、脱水や重症化のリスクがあります。
慢性腸炎(潰瘍性大腸炎やクローン病など)の場合、下痢や血便が長期間にわたり反復し、体重減少や栄養障害を引き起こすことがあります。
症状が持続する、悪化する、血便が出る場合は、早急な医療機関の受診が必要です。
診断方法と治療方法
診断
診断には、症状や経過、周囲の流行状況、飲食歴、渡航歴などを詳しく確認し、必要に応じて以下の検査が行われます。
【検査】
- 便検査:ウイルス抗原検査(ノロウイルス・ロタなど)、便培養(細菌検出)、寄生虫検査
- 血液検査:白血球数、CRPなど炎症反応、脱水や電解質異常の評価
- 腹部エコー・CT:腸の壁肥厚や腸液のたまり、合併症の確認
- 大腸内視鏡検査:慢性腸炎や潰瘍性病変の評価(非感染性が疑われるとき)
治療
- 絶食安静(腸管を休める):経口補水液などで水分を摂取し、脱水を予防する
- ウイルス性腸炎:特効薬はなく、水分・電解質の補給と安静が中心(経口補水液や点滴)
- 細菌性腸炎:症状が強い場合や血便・高熱がある場合に抗菌薬を使用(O157などでは慎重に対応)
- 寄生虫性腸炎:駆虫薬を使用
- 薬剤性・アレルギー性:原因薬剤や食物の中止、抗炎症薬の使用
- 慢性腸炎(潰瘍性大腸炎など):ステロイド、免疫抑制薬、生物学的製剤など
軽症なら自宅療養で自然回復しますが、症状が重い場合は入院治療が必要になることもあります。
予後
腸炎の予後は、原因や重症度によって異なります。
ウイルス性腸炎や軽度の細菌性腸炎であれば、多くは1週間以内に自然治癒し、後遺症を残すことはほとんどありません。ただし、症状が強い場合や脱水を伴う場合は、特に高齢者や乳幼児で重症化のリスクがあります。
細菌性腸炎でもサルモネラやカンピロバクターなどは通常は数日で改善しますが、O157のような腸管出血性大腸菌では、溶血性尿毒症症候群(HUS)などの重篤な合併症に注意が必要です。
一方、潰瘍性大腸炎やクローン病といった慢性腸炎は、根治が難しく、再燃と寛解を繰り返す経過をたどります。継続的な治療と定期的な通院・検査が必要です。
適切な診断と治療により多くの腸炎は良好な経過をとりますが、放置せず早めに医師の診察を受けることが大切です。
予防
腸炎を予防するには、感染対策と生活習慣の見直しが重要です。
【感染性腸炎の予防】
- 手洗いの徹底(外出後、トイレ後、調理前後)
- 食品の十分な加熱(特に鶏肉・魚介類・卵)
- 調理器具の衛生管理(まな板・包丁の使い分け)
- 清潔な水や氷の使用
- 人混みや集団感染が疑われる場所ではマスクや消毒を活用
- 乳幼児にはロタウイルスワクチン接種が有効
【非感染性腸炎の予防】
- 薬剤の長期使用には医師の管理を
- 食物アレルギーの把握と適切な食事管理
- ストレスの軽減、規則正しい生活習慣
- 暴飲暴食、過度な刺激物の摂取を避ける
体調管理と衛生習慣を心がけることで、腸炎の発症リスクを大幅に下げることが可能です。
関連する病気や合併症
腸炎は多くの消化器疾患や全身疾患と関連があります。
- 脱水症状:下痢や嘔吐による水分・電解質の喪失
- 電解質異常:低ナトリウム血症、低カリウム血症など
- 溶血性尿毒症症候群(HUS):O157感染後に起こる重篤な合併症(腎障害)
- 腸管穿孔・腸閉塞:重症腸炎の合併症
- 腸出血:炎症による粘膜損傷
- 二次感染:腸炎後の免疫低下による肺炎など
- 感染後過敏性腸症候群(IBS):感染後に腸の過敏状態が長引くケース
- 慢性腸疾患への移行:反復性の腸炎が慢性炎症を引き起こすこともある
また、潰瘍性大腸炎やクローン病は腸炎と似た症状を呈するため、診断の際には精密検査での鑑別が重要です。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
クラウドドクターの
オンライン診療
クラウドドクターのオンライン診療
クラウドドクターでは、問診内容を元に全国から適したドクターがマッチングされ、あなたの診療を行います。診療からお薬の処方までビデオ通話で受けられるため、お忙しい方にもおすすめです。
-
いつでも診療OK
24時間365日 -
ご利用可能
保険診療が -
お薬の受取り可能
お近くの薬局やご自宅で
■ 参考・出典
日本消化器病学会「感染性腸炎の診療ガイドライン」(https://www.jsge.or.jp/)
国立感染症研究所「感染性腸炎に関する情報」(https://www.niid.go.jp/)
日本小児科学会「ロタウイルスワクチンに関する情報」(https://www.jpeds.or.jp/)
■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。
「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。
医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。
医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。
- 公開日:2025/07/08
- 更新日:2025/07/09
クラウドドクターは24時間365日対応
現在の待ち時間
約3分