食道裂孔ヘルニアしょくどうれっこうへるにあ
食道裂孔ヘルニアは、胃の一部が本来あるべき腹腔から横隔膜を通って胸腔内へと飛び出してしまう状態です。加齢や肥満、腹圧上昇などが原因で起こり、逆流性食道炎の原因にもなります。胸やけや呑酸などの症状を引き起こし、重症化すると潰瘍や出血を伴うこともあります。治療は薬物療法と生活習慣の改善が中心ですが、手術が必要となるケースもあります。
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食道裂孔ヘルニアとは?
食道裂孔ヘルニアとは、胃の一部が横隔膜の食道裂孔と呼ばれる隙間から胸腔内に逸脱する病気です。本来、胃は腹腔内にある臓器ですが、何らかの理由で食道と胃の接続部(噴門部)が引き上げられ、胸の中に入り込んでしまうことで発症します。
この状態では、食道と胃の境界が正常に保たれなくなり、胃酸の逆流が起こりやすくなります。そのため、食道裂孔ヘルニアは逆流性食道炎の重要な原因のひとつとされています。
発症には加齢や肥満、妊娠、慢性的な咳や便秘などにより腹圧が上昇することが関係しています。また、食道裂孔の構造がもともと弱い体質の人もリスクが高いとされています。
日本人では高齢化に伴い、食道裂孔ヘルニアの発症頻度が増加しており、特に胸やけなどの症状で内視鏡検査を受けた際に偶然見つかるケースも少なくありません。
原因
食道裂孔ヘルニアの原因として、最も重要なのは「腹腔内圧の上昇」です。お腹の中の圧力が高まることで、胃の一部が横隔膜を通って上に押し上げられ、食道裂孔を通過して胸腔内へと飛び出してしまいます。
具体的な誘因としては、加齢による横隔膜の筋力低下や、肥満による内臓脂肪の増加、妊娠中の腹圧上昇、慢性的な咳、排便時のいきみ、重いものを持つ習慣などが挙げられます。
また、食道裂孔周囲の支持組織の脆弱性が先天的にある場合や、何らかの外科手術後に食道と横隔膜のバランスが崩れた場合にも発症することがあります。
一部の患者では、食道と胃のつなぎ目である噴門部の構造的な問題が関係しており、噴門の閉鎖機能が弱くなることで胃酸の逆流も起こりやすくなります。これにより、食道粘膜が炎症を起こし、症状が悪化するという悪循環が生まれます。
症状
食道裂孔ヘルニアの症状は、主に逆流性食道炎に類似しています。最も一般的な症状は「胸やけ」で、食後や横になったときにみぞおちから胸の中央にかけて焼けるような不快感が現れます。
「呑酸(どんさん)」もよくみられ、胃酸が喉までこみ上げてくるような感覚を訴える患者が多くいます。特に夜間や早朝、食後すぐに横になると症状が強まる傾向があります。
その他、胃のもたれ、食後の不快感、胸の圧迫感、喉の違和感、声のかすれ、慢性的な咳なども症状として現れます。重症になると、食道潰瘍、出血、嚥下困難、貧血などを伴うこともあります。
まれに、「何かがつかえている感じ」や「胸部の痛み」として症状を訴えることもあり、心臓の病気との鑑別が必要となるケースもあります。症状が慢性的で生活に支障をきたす場合には、早めの検査が推奨されます。
診断方法と治療方法
診断
診断には、まず患者の症状を確認したうえで、画像検査を行います。代表的な検査は「上部消化管内視鏡(胃カメラ)」で、食道と胃の接続部の位置や粘膜の状態、逆流性食道炎の有無などが確認されます。
バリウム造影検査(胃透視)も有用で、飲んだバリウムの動きをX線で観察することで、胃の一部が横隔膜より上に移動している様子を捉えることができます。
治療
治療の基本は「薬物療法」と「生活習慣の改善」です。薬物療法では、胃酸分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)やP-CABが用いられ、胃酸による食道への刺激を軽減します。
生活指導では、就寝前2~3時間は食事を摂らない、頭部を高くして寝る、脂っこいものや刺激物を控える、肥満を改善するなどの工夫が勧められます。症状が強く、薬物療法でも十分な改善が得られない場合には、外科的手術(噴門形成術)を検討します。
予後
軽症の食道裂孔ヘルニアであれば、生活習慣の見直しと胃酸抑制薬の内服により、良好な経過をたどることが多く、予後は比較的良好です。
しかし、治療を行わずに放置すると、逆流性食道炎の進行や食道潰瘍、食道狭窄、出血などの合併症を引き起こす可能性があります。特に高齢者では、夜間の誤嚥や慢性咳嗽が原因で誤嚥性肺炎を起こすリスクも高まります。
症状が持続したり、再発を繰り返す場合には、定期的な内視鏡検査や服薬の見直しが必要です。また、食道裂孔ヘルニアが大きくなることで、胃の位置が安定せず、消化機能が低下することもあり、栄養状態の管理も重要となります。
外科手術を行った場合でも再発の可能性があるため、術後も長期的な経過観察が必要です。早期に適切な対応をすることで、多くの患者で症状のコントロールが可能になります。
予防
食道裂孔ヘルニアの予防には、腹圧を過度に上昇させない生活習慣を心がけることが大切です。具体的には、便秘の予防、重いものを持たない、長時間の前屈姿勢を避けるなどが挙げられます。
肥満は大きなリスク因子であり、内臓脂肪が増えると腹腔内圧が上昇し、食道裂孔ヘルニアの誘因となるため、適正体重の維持が重要です。過食を避け、ゆっくりとよく噛んで食事を摂ることも胃への負担を減らすために効果的です。
また、食後すぐに横になる習慣は胃酸の逆流を助長するため、最低でも2時間は身体を起こした状態で過ごすようにしましょう。就寝時は頭部をやや高くして寝ることで、重力によって胃酸の逆流を抑えることができます。
喫煙や飲酒も食道の括約筋に影響を与え、逆流を起こしやすくするため、控えることが勧められます。すでに症状がある場合は早めに消化器内科を受診し、適切な治療と予防策を講じることが重要です。
関連する病気や合併症
食道裂孔ヘルニアと最も関連が深い疾患は「逆流性食道炎」です。ヘルニアによって食道と胃のつなぎ目の構造が変化し、胃酸が食道に逆流しやすくなることで炎症が引き起こされます。
進行すると「食道潰瘍」や「出血」、「食道狭窄(食道が狭くなる状態)」といった合併症がみられることもあります。食道の慢性的な炎症が続くと、粘膜が胃のように変化する「バレット食道」と呼ばれる状態になり、将来的に食道がんのリスクが高まることも知られています。
また、誤嚥や咳が続くことで「誤嚥性肺炎」や「咽頭炎」などの呼吸器合併症を引き起こす可能性があります。特に高齢者では、これらの症状が複雑に絡み合い、全身状態に大きく影響することもあります。
加えて、消化不良による食欲低下、体重減少、貧血などがみられる場合もあり、消化器症状以外の全身的な影響にも注意が必要です。ヘルニアの大きさや進行度に応じて、適切なフォローと管理が求められます。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
日本消化器病学会「胃食道逆流症と食道裂孔ヘルニア」
(https://www.jsge.or.jp/guideline)
MSDマニュアル プロフェッショナル版「食道裂孔ヘルニア」
(https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional)
日本外科学会「食道裂孔ヘルニアに関するQ\&A」
(https://www.jssoc.or.jp/)
■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。
「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。
医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。
医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。
- 公開日:2025/06/25
- 更新日:2025/07/16
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