食道憩室しょくどうけいしつ
食道憩室は、食道の壁の一部が袋状に外へ突出する病気です。主に中高年に多くみられ、食べ物のつかえ感や逆流、誤嚥などが起こりやすくなります。症状が軽ければ経過観察となることもありますが、重症化すると手術や内視鏡による治療が必要です。憩室の部位や大きさによって症状が異なるため、正確な診断と適切な管理が重要です。
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食道憩室とは?
食道憩室とは、食道の壁の一部が袋状に外側へ突出した状態を指します。この憩室は、食道の壁に生じた構造的な弱点に圧力が加わることで形成されます。憩室内に食べ物がたまることでさまざまな症状を引き起こすことがあります。
憩室はその発生部位によっていくつかに分類されます。咽頭と食道の境界部分(頸部)にできる「咽頭食道憩室(ゼンカー憩室)」、胸部の中ほどにできる「中部食道憩室」、横隔膜付近にできる「下部食道憩室(エピファニック憩室)」などがあります。
ゼンカー憩室は高齢者に多く、加齢によって嚥下に関与する筋肉の協調運動が低下することが主な要因とされます。中部や下部の憩室は、食道の運動異常や他疾患によって食道内圧が上昇することが関係しているとされています。
いずれもまれな疾患ですが、早期発見と適切な対処により、日常生活への影響を最小限に抑えることができます。
原因
食道憩室の原因は、主に食道壁の一部が外側に突出しやすくなる構造的な弱さと、食道内部の圧力上昇です。この圧力により粘膜が筋層を押し出し、袋状の憩室が形成されます。
咽頭食道憩室(ゼンカー憩室)の場合、嚥下時に食道入口部の筋肉(輪状咽頭筋)がうまく開かず、咽頭の筋肉との間に圧力がかかることで憩室が形成されます。高齢者に多いのは、加齢により筋肉の協調性が低下するためと考えられています。
中部食道憩室は、食道の蠕動運動(食べ物を送り込む運動)が異常となり、局所的に内圧が高くなることで生じます。また、結核や炎症性疾患などの瘢痕形成によって引っ張られてできる「牽引性憩室」もこの部位に発生します。
下部食道憩室(エピファニック憩室)は、特にアカラシアなどの食道運動異常が原因となり、胃の手前で食道に強い圧力がかかることによって生じます。食道の機能異常や加齢、慢性的な炎症が憩室形成の背景にあることが多いとされています。
症状
食道憩室の症状は、憩室の部位や大きさによって異なります。共通してみられるのは「食べ物のつかえ感」や「嚥下困難」です。食道内の袋状の部分に食物がたまりやすくなるため、飲み込んでも完全に胃に届かず、つかえ感や胸の圧迫感が生じます。
ゼンカー憩室では、食後に食べたものが喉元まで戻ってくる、誤嚥による咳、声のかすれ、喉の違和感などが現れやすくなります。特に夜間の誤嚥や咳が多いと、睡眠障害や誤嚥性肺炎のリスクも高まります。
中部や下部の憩室では、胸の痛みや胸焼け、逆流感が出現することがあります。さらに、憩室にたまった食物が腐敗することで、口臭が強くなることもあります。
大きな憩室では、内容物の停滞による炎症や潰瘍形成、稀に穿孔(穴があく)や出血を起こすこともあります。症状が進行すると、体重減少や栄養状態の悪化につながることもあります。
診断方法と治療方法
診断にはまず、患者の訴える嚥下困難や逆流などの症状を確認したうえで、画像検査を行います。バリウム造影検査では、憩室の形や位置がはっきりと確認でき、診断に非常に有用です。
上部消化管内視鏡(胃カメラ)も診断に重要で、食道内の粘膜の状態や炎症の有無、他疾患との鑑別が可能です。特に高齢者でのゼンカー憩室では、内容物の残留や憩室内の潰瘍、出血所見などを観察することができます。
治療は症状の程度や憩室の大きさ、合併症の有無に応じて選択されます。軽症の場合は経過観察が行われ、嚥下指導や食事内容の調整などの保存的治療が中心となります。
一方で、症状が強く日常生活に支障をきたす場合や、誤嚥性肺炎を繰り返すような場合は、手術や内視鏡的治療が検討されます。ゼンカー憩室には、内視鏡的粘膜下筋層切開術(Z-POEM)や頸部からの開放術、下部憩室には胸腔鏡や腹腔鏡による切除術が行われることがあります。
予後
食道憩室の予後は、症状や合併症の有無に左右されます。軽度の憩室であれば、経過観察のみで症状が安定することもあり、生活指導や食事管理によって良好な状態を維持できることが多いです。
一方、大きな憩室や症状が強い場合では、治療の介入が必要となります。手術や内視鏡治療によって症状が大きく改善し、嚥下機能が回復する例も多く報告されています。特にZ-POEMなどの内視鏡治療は、体への負担が少なく、入院期間も短いため有用です。
しかし、再発や残存憩室が見られる場合もあり、治療後も定期的なフォローアップが推奨されます。誤嚥や栄養障害が長く続いた場合には、全身状態への影響や呼吸器感染症などにも注意が必要です。
予後を良好に保つためには、症状に気づいた段階で早めに医療機関を受診し、必要な検査と評価を受けることが大切です。
予防
食道憩室そのものを完全に予防することは難しいですが、憩室の進行や症状の悪化を防ぐために、生活習慣の見直しが重要です。
食事はよく噛み、ゆっくりと時間をかけて摂取することが推奨されます。一度に大量に食べるのではなく、小分けにして食事回数を増やすことも、食道への負担を軽減するために有効です。
高齢者や嚥下機能が低下している方では、誤嚥を予防するために姿勢や食事形態の工夫が必要です。とろみのある食品ややわらかい食材を使用することが推奨されます。
喫煙や過度の飲酒は食道粘膜に悪影響を与えるため、控えることが望まれます。また、便秘の予防や咳のコントロールなど、腹圧上昇の原因となる要素も管理することで、憩室の進行を抑えることができます。
症状が軽度でも放置せず、定期的に医療機関で経過観察を行うことが、合併症予防やQOLの維持に役立ちます。
関連する病気や合併症
食道憩室は、それ自体の症状だけでなく、関連する病気や合併症にも注意が必要です。
代表的な合併症としては、「誤嚥性肺炎」があります。食物や唾液が憩室にたまって逆流し、気管へ流れ込むことで肺炎を引き起こすことがあります。特に高齢者では重篤化しやすいため、早期の対応が必要です。
また、憩室内に食べ物が停滞することで炎症が起こり、潰瘍や出血を伴うことがあります。まれではありますが、憩室に発生するがん(憩室癌)も報告されており、長期間憩室を放置することのリスクのひとつとされています。
食道運動異常を背景にしている場合は、アカラシアやスパスム(けいれん様運動障害)などの疾患との合併にも注意が必要です。
栄養不良や脱水、社会的孤立など、症状によって生活全般に影響が及ぶこともあるため、患者の背景を含めた包括的な対応が求められます。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
日本消化器病学会「食道憩室の診療」(https://www.jsge.or.jp/)
厚生労働省e-ヘルスネット「嚥下障害」(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/)
順天堂大学病院 消化器内科「食道憩室」(https://www.juntendo.ac.jp/hospital/clinic/shokaki/)
国立病院機構 東京医療センター「食道疾患に対する内視鏡治療」(https://www.ntmc.go.jp/)
■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。
「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。
医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。
医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。
- 公開日:2025/06/25
- 更新日:2025/06/26
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