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胃アトニーは、胃の筋肉の運動機能が低下することで、消化や排出が遅れ、胃もたれや食欲不振などの不快な症状を引き起こす病気です。原因は神経障害や過労、ストレスなど多岐にわたり、食生活の改善や薬物療法による管理が有効です。
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胃アトニーとは?
胃アトニーとは、胃の筋肉(平滑筋)の動きが低下し、内容物の消化・排出が遅延する状態を指します。胃は通常、食物を一時的に貯留し、規則正しく収縮することで腸へ内容物を送り出す役割を担っていますが、この動きが鈍ると消化不良や胃もたれなどの症状が現れます。
アトニーという言葉は「筋緊張の低下」を意味し、胃アトニーは胃運動機能障害の一種として分類されます。胃アトニーそのものは生命を脅かす疾患ではありませんが、日常生活に支障を来す不快な症状を伴うため、患者のQOL(生活の質)を著しく低下させることがあります。
この疾患は単独で発症することもあれば、糖尿病や神経疾患、術後など他の疾患に伴って生じることもあります。また、ストレスや過労、自律神経の乱れによっても発症リスクが高まるとされ、生活習慣との関連も深いとされています。
胃アトニーの原因
胃アトニーの原因は多岐にわたり、単一の原因で起こるというよりは、複数の因子が重なって発症することが多いと考えられています。最も代表的な要因は、自律神経系の異常です。胃の運動は自律神経によって調整されており、交感神経と副交感神経のバランスが崩れることで胃の収縮運動が鈍くなります。
過度のストレス、慢性的な疲労、睡眠不足なども自律神経のバランスを乱し、胃アトニーの誘因となります。特にストレスを抱えやすい若年〜中年層の女性に多く見られる傾向があります。
また、全身性の疾患、特に糖尿病は、末梢神経障害によって胃の運動を司る神経が障害され、胃アトニーを引き起こすことがあります。パーキンソン病や多発性硬化症などの神経変性疾患、あるいは胃の手術後(胃切除、迷走神経切断など)も原因のひとつです。
さらに、加齢や筋力低下、内臓下垂などによって物理的に胃の位置が変化することで、蠕動運動が効率的に行われなくなり、胃アトニーが起こることもあります。
胃アトニーの症状は?
胃アトニーの症状は、主に消化機能の低下に起因する消化器系の不快感として現れます。もっとも多いのは「食後の膨満感」や「胃もたれ」であり、少量の食事でも胃が張ったように感じ、食後の不快感が長時間持続します。
その他、食欲不振、早期満腹感、吐き気、げっぷ、腹部膨満感などがみられます。これらの症状は、胃内容物の排出が遅れることにより、胃内圧が上昇し、周囲の臓器を圧迫したり、迷走神経反射を通じて起こると考えられています。
また、消化が不十分なまま食べ物が長時間胃内に留まることで、ガスの発生や腐敗が進み、悪臭を伴うげっぷや口臭の原因となることもあります。腹痛は通常軽度で、鈍い痛みや圧迫感として感じられ、体位や食事の内容により変動することがあります。
重症例では、胃内容物が小腸に進みにくくなるため、消化吸収の障害から体重減少や栄養不良をきたすこともあります。さらに、食後の症状悪化による食事量の減少が、悪循環を生むこともあります。
これらの症状は非特異的で、機能性ディスペプシアや胃潰瘍、胃がんなど他の疾患とも類似するため、診断には慎重な鑑別が必要です。生活習慣や精神的ストレスとも密接に関連しており、患者の訴えを丁寧に聞き取ることが重要です。
胃アトニーの診断方法と治療方法
診断
胃アトニーの診断は、まず詳細な問診と身体診察から始まります。食後の症状、生活習慣、体重変化、精神的背景などを確認し、他の胃疾患との鑑別を行います。とくに機能性ディスペプシアや胃潰瘍、胃がんとの鑑別は重要であり、必要に応じて内視鏡検査が行われます。
胃アトニーの確定診断には、以下のような検査が行われます。
- 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ):胃粘膜の状態や腫瘍の有無を確認します。
- 胃透視検査(バリウム検査):胃の拡張や内容物の排出速度を評価できます。
- 胃排出能検査(ラジオアイソトープ法など):胃内容物がどの程度の速度で排出されるかを客観的に評価します。
- 腹部超音波検査やCT:内臓下垂の有無や、他の腹部疾患を確認します。
治療
治療は主に原因と症状に応じた対症療法です。基本となるのは生活習慣の改善であり、以下が推奨されます。
- 食事を少量ずつ、回数を分けて摂取する(1日5〜6回の少量食)
- 消化の良い食品を選ぶ
- よく噛んで食べる
- 食後すぐに横にならない
- 適度な運動を取り入れる
- ストレスを軽減する取り組み(リラクゼーション、カウンセリング)
薬物療法としては、胃運動促進薬(モサプリド、ドンペリドンなど)が使用されます。これらは胃の蠕動運動を促進し、内容物の排出を助けます。消化酵素薬や制酸薬が併用されることもあります。
精神的な要因が関与していると考えられる場合には、抗不安薬や抗うつ薬が用いられることもあります。また、糖尿病や神経疾患が背景にある場合には、その基礎疾患のコントロールが重要です。
胃アトニーの予後について
胃アトニーの予後は、発症の原因や治療開始のタイミング、患者の生活習慣改善への取り組みに大きく左右されます。多くの場合、生活習慣の見直しや薬物療法により症状は改善し、日常生活を問題なく送れるようになります。
とくにストレス性や一過性の機能低下による胃アトニーであれば、早期の対応により完全に回復することも可能です。ただし、糖尿病やパーキンソン病などの神経障害に伴う慢性的な胃アトニーでは、長期的な管理が必要となり、完全な治癒は難しい場合があります。
予後を良好に保つためには、患者自身が症状のコントロール方法を理解し、定期的な受診や生活習慣の改善を継続して行うことが不可欠です。自己判断による薬の中断や不適切な食事制限は逆効果となることがあります。
また、過度なダイエットや断食、精神的なプレッシャーが再発の引き金となることもあるため、家族や医療スタッフの支援のもとで無理のない生活習慣改善が求められます。
胃アトニーの予防について
胃アトニーの予防には、日常生活における消化器系への負担を減らすことが基本です。まず重要なのは、規則正しい食生活を保つことです。朝食を抜いたり、夜遅くに大量に食べることは胃の運動機能に負担をかけるため避けるべきです。
また、ストレスをため込まないことも予防において大切です。適度な休息、十分な睡眠、リラクゼーション法の導入(深呼吸、瞑想など)を心がけましょう。精神的な緊張が続くと、自律神経のバランスが崩れ、胃の運動が低下する原因となります。
適度な運動も胃の動きを活発にするのに効果的です。ウォーキングや軽い体操を日常生活に取り入れることで、消化機能を維持することができます。
さらに、暴飲暴食や高脂肪食の摂取を控え、アルコールやカフェインの過剰摂取を避けることも予防につながります。胃に優しい食習慣とストレス管理が、胃アトニーの発症予防において極めて重要です。
胃アトニーが関連する病気や合併症
胃アトニーは、さまざまな疾患と関連しうる消化管運動障害であり、しばしば他の病気と併存または合併します。もっとも関連の深い疾患は「糖尿病性胃腸障害」で、神経障害によって胃の運動が遅くなることで胃アトニーが生じます。
また、パーキンソン病や自律神経失調症、多発性硬化症などの神経変性疾患でも胃アトニーがみられることがあり、これらの患者では早期からの消化器症状に注意が必要です。
精神疾患(うつ病、不安障害など)とも関連が深く、食欲不振や消化不良が心理的要因と絡んで慢性化することがあります。また、胃アトニーが長期化すると栄養吸収の障害が生じ、低栄養や体重減少を引き起こすリスクもあります。
さらに、胃内容物の停滞によって胃食道逆流症(GERD)が悪化することもあります。消化器症状が複雑な場合には、内科・消化器科・心療内科など多職種での連携診療が望まれます。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
日本消化器病学会「胃運動障害の診療」(https://www.jsge.or.jp/guideline)
MSDマニュアル プロフェッショナル版「胃アトニー」(https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional)
日本神経消化器病学会「消化管運動障害の病態と診療」(https://www.jngmdp.org/)
■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。
「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。
医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。
医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。
- 公開日:2025/06/20
- 更新日:2025/06/20
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