痔瘻（あな痔）じろう（あなぢ）

痔瘻（あな痔）とは？

痔瘻（じろう）とは、肛門周囲膿瘍が治癒せず、肛門内と肛門周囲の皮膚の間に「瘻管（ろうかん）」という細いトンネル状の通路ができてしまう病気です。一般には「あな痔」とも呼ばれ、肛門の内側と外側がつながっている状態が慢性的に続きます。

痔瘻は男性に多く、特に30〜50代の発症が目立ちます。一度できた瘻管は自然にふさがることがほとんどなく、根治には外科手術が必要です。軽症では膿や分泌液が出る程度ですが、瘻管の数が増えたり、感染を繰り返すと肛門周囲に硬いしこりができ、痛みや発熱を伴うこともあります。

進行すると膿の排出だけでなく、生活に支障をきたすほどの不快感や肛門機能への影響を生じる可能性があるため、早期の治療が望まれます。

原因

痔瘻の原因のほとんどは、肛門腺への細菌感染による「肛門周囲膿瘍」の後遺症です。膿瘍が破れて膿が皮膚の外に排出された後、膿の通り道が瘻管として残ってしまうことによって痔瘻が形成されます。

主な原因

• 肛門腺感染：大腸菌や腸球菌などの腸内細菌が肛門腺に侵入して膿瘍を形成
• 肛門周囲膿瘍の再発・放置：炎症が慢性化し、瘻管が残る
• 不適切な排膿処置：切開排膿のみで瘻管が閉じずに痔瘻へ移行する
• 免疫力の低下：糖尿病や免疫抑制剤の使用などにより感染が慢性化しやすい

その他の要因

• クローン病などの腸管慢性炎症性疾患
• 外傷や手術後の感染
• 肛門に強い刺激や慢性的な下痢

肛門周囲膿瘍が発症してから痔瘻に進行するまでは数週間〜数か月かかることが多く、症状が落ち着いたとしても油断せず、経過観察が必要です。

症状

痔瘻の症状は、慢性化した感染によって現れるものであり、初期は軽微でも時間の経過とともに悪化することが多いです。以下が代表的な症状です。

• 肛門周囲のしこり：皮膚の下に硬い線状のしこりを触れる
• 膿の排出：肛門の横から黄色や白っぽい膿が出続ける
• 膿のにおい：下着や衣類が汚れ、悪臭を伴うこともある
• 肛門の違和感：常に湿っている感じ、むずむずするような不快感
• 断続的な痛み：炎症が強いときにズキズキとした痛みが現れる
• 発熱・倦怠感：瘻管が詰まり、膿がたまると膿瘍の再発や全身症状を引き起こす
• 排便時の不快感：便が瘻管に当たることで痛みを生じることがある
• 排尿障害：炎症が周囲の組織に広がるとまれに排尿に影響することも

痔瘻は症状が安定している期間もありますが、根本的には治癒していないため、感染を繰り返すことが多いです。

診断方法と治療方法

診断

• 問診：膿の排出の有無、再発頻度、痛みの部位や程度などを確認
• 視診・触診：肛門周囲の開口部（外口）やしこり、皮膚の変化を観察
• 直腸診（指診）：内口（肛門内側の始まり）を探るが、痛みがある場合は慎重に行う
• 肛門鏡検査：直腸内の瘻管の入り口（内口）を確認するための器具を用いる
• 超音波検査：直腸内にプローブを挿入し、瘻管の走行を描出
• MRI検査：複雑痔瘻や再発例では瘻管の詳細な走行を把握するのに有効

治療

痔瘻は自然治癒しないため、原則として手術による治療が必要です。

• 瘻管切開術：瘻管を切開して開放し、自然に治癒させる
• シートン法：ゴム紐を瘻管に通して徐々に切開しながら治癒を促す
• 括約筋温存術：括約筋をできるだけ温存しながら瘻管を除去する術式（再発リスクはやや高い）
• 複雑痔瘻や再発例：専門施設での精密な術前検査と手術が必要

術後は排便や坐浴、感染予防の指導があり、数週間の経過観察が必要です。

予後

痔瘻の予後は、瘻管の数や走行の複雑さ、早期治療の有無によって大きく異なります。適切な手術を受ければ多くの症例で完治が可能です。

良好な経過が見込めるケース

• 瘻管が1本で単純な走行の場合（単純痔瘻）
• 早期に手術が行われた場合
• 術後の創部管理と生活指導を守れた場合

注意が必要なケース

• 瘻管が枝分かれしている（複雑痔瘻）
• 内口の位置が高く、肛門括約筋に近接している
• 再発例や過去に複数回の手術歴がある場合
• 糖尿病や免疫力低下など、創傷治癒に影響する基礎疾患を有する場合

手術後に再発を防ぐためには、便通管理、肛門の清潔保持、指示された坐浴や通院を継続することが重要です。

予防

痔瘻の予防は、初期段階である肛門周囲膿瘍の早期発見と適切な治療が重要です。また、肛門の感染リスクを減らす生活習慣を身につけることが再発予防につながります。

日常生活での予防対策

• 排便後の肛門を清潔に保つ：洗浄や柔らかいトイレットペーパーの使用
• 便秘や下痢を防ぐ：腸内環境を整えるために食物繊維と水分をしっかり摂取
• 下痢時の肛門ケア：頻回な排便による刺激から肛門を保護する
• 免疫力を保つ：栄養バランスの取れた食事、十分な休息、ストレス管理
• 長時間の座位を避ける：肛門部の血流を悪化させないようにする
• 肛門周囲膿瘍ができた際は放置せず、早期に外科での治療を受ける

痔瘻は一度発症すると再発しやすいため、予防と早期対応が重要です。

関連する病気や合併症

痔瘻は感染を基盤とする慢性疾患であり、以下のような関連疾患や合併症に注意が必要です。

関連疾患

• 肛門周囲膿瘍：痔瘻の前段階。膿がたまって腫れや発熱を伴う
• クローン病：再発性・多発性の痔瘻を形成することがあるため、基礎疾患の評価が重要
• 糖尿病：感染のコントロールが難しく、術後の治癒が遅れる
• 潰瘍性大腸炎：まれに肛門病変を伴うことがある

合併症

• 再発性痔瘻：手術後も瘻管が残ったり新たに形成されたりする
• 肛門括約筋の損傷：術式によっては便失禁や排便困難の原因となる
• 膿瘍の再形成：瘻管の途中で閉塞すると再び膿がたまる
• 創部感染や出血：術後に起こる可能性がある

こうした合併症を防ぐには、専門医による診断と、適切な術後フォローが不可欠です。