胸膜腫瘍きょうまくしゅよう

胸膜腫瘍は、肺を覆う胸膜に発生する腫瘍で、良性から悪性までさまざまです。中でも悪性胸膜中皮腫はアスベスト曝露と関連し、進行が早く予後不良です。診断には画像検査と病理検査が必要で、治療は手術、化学療法、放射線療法が組み合わされます。

胸膜腫瘍

胸膜腫瘍とは?

胸膜腫瘍とは、肺を包む胸膜に発生する腫瘍性病変の総称で、良性と悪性に分けられます。胸膜は臓側胸膜(肺を覆う)と壁側胸膜(胸壁側)に分かれており、これらの表面に腫瘍が発生します。

代表的な良性腫瘍には「孤立性線維性腫瘍(solitary fibrous tumor:SFT)」がありますが、胸膜腫瘍の大部分は悪性であり、その中でも最も注目されるのが「悪性胸膜中皮腫(malignant pleural mesothelioma:MPM)」です。

悪性胸膜中皮腫は、アスベスト(石綿)曝露と強く関連しており、曝露から数十年の潜伏期間を経て発症するため、過去にアスベストを扱った経験のある人やその家族に多くみられます。また、肺がんや乳がんなど他の悪性腫瘍が胸膜に転移して腫瘍を形成する「転移性胸膜腫瘍」も含まれます。

胸膜腫瘍は胸水や胸痛、呼吸困難などの症状を引き起こし、進行例では肺の拡張障害や心膜への浸潤も起こり得ます。診断と治療には胸腔鏡による組織生検が不可欠です。

原因

胸膜腫瘍の発生には、腫瘍の種類に応じた異なる原因があります。特に悪性胸膜中皮腫では、アスベスト曝露が主な原因として知られています。

悪性胸膜中皮腫の原因

  • アスベスト(石綿)曝露
     -建材、断熱材、ブレーキライニングなどの工業製品に含まれる
     -職業的曝露(建設業、造船業など)に多い
     -家庭内曝露(作業着の洗濯など)による二次曝露の報告もあり
     -曝露から発症まで20~50年の潜伏期間がある

転移性胸膜腫瘍の原因

  • 原発がんの胸膜転移
     -肺がん(特に腺がん)
     -乳がん
     -胃がん、卵巣がん、悪性リンパ腫など
     -原発巣からのがん細胞が胸膜へ播種またはリンパ行性・血行性に転移

良性胸膜腫瘍の原因

  • 孤立性線維性腫瘍(SFT):原因不明のことが多く、偶発的に発見される
  • 良性中皮腫:極めてまれで、臨床的な症状を伴わないこともある

その他のリスク因子

  • 放射線被曝の既往
  • ウイルス感染(SV40などとの関連が一部報告されているが確証なし)

悪性胸膜腫瘍の予防には、アスベスト曝露を避ける社会的対策と、曝露歴がある人への定期的な健康管理が不可欠です。

症状

胸膜腫瘍の症状は、腫瘍の種類や進行度、胸膜への浸潤範囲によって異なります。初期は無症状のこともありますが、腫瘍の増大により徐々に症状が現れます。

主な症状

  • 胸痛:最も頻度の高い症状で、鈍い持続的な痛みや呼吸に伴う鋭い痛み(胸膜刺激症状)
  • 呼吸困難:胸膜に腫瘍が広がることで肺の拡張が妨げられ、息苦しさが出現
  • 乾いた咳:腫瘍による胸膜刺激により持続的に続くことがある
  • 胸部圧迫感:腫瘍が胸腔を占拠することで感じる

全身症状

  • 発熱、寝汗
  • 体重減少、食欲不振
  • 倦怠感

身体所見

  • 患側の呼吸音の減弱(胸水の貯留による)
  • 打診で濁音(胸水または腫瘍による)
  • SpO₂の低下、頻呼吸、チアノーゼ(進行例)

胸水の貯留による症状

  • 胸膜腫瘍の多くで滲出性胸水を伴う
  • 大量胸水では肺の虚脱が起こり、安静時にも呼吸困難を自覚する

悪性中皮腫特有の進行症状

  • 心膜への浸潤による不整脈、心膜炎
  • 肋骨や脊椎への骨浸潤による疼痛
  • 対側胸膜や腹膜への播種による全身症状

良性腫瘍の症状

  • 多くは無症状で偶然発見される
  • 大きくなると周囲臓器を圧迫し、同様の症状を呈する

症状が非特異的であるため、胸水や胸部異常陰影をきっかけに精密検査を進め、胸膜腫瘍を疑うことが早期発見に繋がります。

診断方法と治療方法

診断

  1. 胸部X線検査
    ・胸水や腫瘤陰影の確認
    ・肺の圧排や縦隔偏位がある場合も
  2. 胸部CT検査
    ・腫瘍の大きさ、位置、胸膜肥厚の評価
    ・胸水の性状、縦隔リンパ節腫大の有無を確認
  3. 超音波検査(胸部エコー)
    ・胸水貯留の評価と穿刺部位の決定に有用
  4. 胸水穿刺・胸水検査
    ・細胞診(悪性細胞の有無)
    ・生化学検査(LDH、蛋白、ADAなど)
    ・培養(感染症除外)
  5. 胸腔鏡検査(VATS)
    ・確定診断に必要な胸膜生検を行う標準的検査
    ・視認下で病変部から十分な組織を採取可能
  6. 組織診(病理診断)
    ・免疫染色により中皮腫か転移性がんかを鑑別
    ・悪性中皮腫ではカルレチニン、WT-1などが陽性
  7. PET-CT、MRI(進展度評価)
    ・遠隔転移の評価
    ・心膜、胸壁浸潤の確認に有用

治療

  1. 手術療法
    ・早期悪性中皮腫や限局性腫瘍に対して施行
    ・胸膜肺全摘術(EPP)または胸膜切除・肺保存術(P/D)
    ・良性腫瘍では腫瘍摘出術
  2. 化学療法
    ・悪性中皮腫の標準治療:シスプラチン+ペメトレキセド
    ・効果が限られるため他の治療と併用されることが多い
  3. 放射線療法
    ・術後照射や症状緩和目的に施行
    ・局所制御の補助的役割
  4. 胸水管理
    ・胸腔ドレナージ、胸膜癒着術(プレウロデーシス)
    ・再貯留予防、呼吸困難の軽減目的
  5. 緩和ケア
    ・疼痛管理、呼吸苦の緩和
    ・QOLを重視した支持療法

治療は疾患の種類・進行度・全身状態を総合的に評価して決定され、多くの場合、多職種チームによる集学的アプローチが必要です。

予後

胸膜腫瘍の予後は、腫瘍の種類と進行度、治療介入の時期によって大きく異なります。特に悪性胸膜中皮腫は予後不良な腫瘍として知られています。

悪性胸膜中皮腫の予後

  • 診断時には進行していることが多く、根治は困難
  • 平均生存期間は12~18か月程度とされる
  • 早期発見、積極的治療で2年以上の延命も可能
  • 化学療法、手術、放射線療法を組み合わせた治療が望ましいが、適応は限られる

転移性胸膜腫瘍の予後

  • 原発がんの進行度に依存
  • 乳がん、卵巣がんなど化学療法感受性が高い場合は長期管理も可能

良性腫瘍の予後

  • 手術による完全切除で治癒が期待できる
  • 再発はまれ

予後不良の要因

  • 高齢、全身状態不良、広範囲の胸膜浸潤
  • 治療抵抗性(化学療法不応)
  • 胸水再貯留、心膜・横隔膜への浸潤

緩和ケアの早期導入と適切な症状コントロールが、患者の生活の質と予後の改善に重要です。

予防

胸膜腫瘍のうち、予防可能性があるのは主に悪性胸膜中皮腫であり、その最大の予防策はアスベスト曝露の回避です。

一次予防(発症予防)

  • アスベストの使用禁止(国内では2006年に全面禁止)
  • アスベスト含有建材の解体工事時には適切な防護措置
  • 曝露の可能性がある職場環境の改善と健康教育

二次予防(早期発見)

  • 曝露歴がある人の定期的な健康診断(X線、CT検査)
  • 胸部不快感や長引く咳、胸水の有無に注意
  • 石綿健康被害救済制度の利用

生活習慣の見直し

  • 禁煙(肺がんや他の胸膜疾患との併発リスク軽減)
  • 栄養バランス、免疫力の維持

胸膜腫瘍全体を完全に予防することは困難ですが、アスベスト曝露の適切な管理と、リスクのある人々への継続的なフォローが不可欠です。

関連する病気や合併症

胸膜腫瘍は他の疾患と関連または合併することがあり、臨床判断において注意が必要です。

関連疾患

  • 肺がん:胸膜転移により転移性胸膜腫瘍を形成
  • 乳がん、胃がん、卵巣がん:胸膜転移の原因となることがある
  • アスベスト曝露による肺線維症、石綿肺

合併症

  • 胸水貯留:大量になると肺虚脱や呼吸不全の原因に
  • 縦隔偏位:胸水や腫瘍の増大によって発生
  • 心膜浸潤:心膜炎や心タンポナーデ
  • 横隔神経麻痺:横隔膜挙上、呼吸不全

治療関連合併症

  • 手術による出血、感染、気漏
  • 化学療法による骨髄抑制、吐き気、末梢神経障害
  • 放射線治療による皮膚炎、放射線肺炎

精神的・社会的合併

  • 抑うつ、不安、不眠など
  • 在宅療養への支援、介護者の負担も含めたケアが必要

多職種チームによる統合的な診療とケアが、胸膜腫瘍患者の長期管理には不可欠です。

症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。

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■ 参考・出典

■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック

近畿大学 医学部 卒

近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。

「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。 医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。 医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。

  • 公開日:2025/07/16
  • 更新日:2025/07/16

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