胃・十二指腸潰瘍穿孔い・じゅうにしちょうかいようせんこう
胃・十二指腸潰瘍穿孔は、消化性潰瘍が深く進行し、胃や十二指腸の壁に穴が開く緊急性の高い病態です。突然の激しい腹痛で発症し、腹膜炎やショックを伴うこともあります。治療は原則として緊急手術が必要で、迅速な診断と処置が生死を分けることがあります。ピロリ菌やNSAIDsなど原因への対応と、早期受診が命を守る鍵となります。
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胃・十二指腸潰瘍穿孔とは?
胃・十二指腸潰瘍穿孔とは、消化性潰瘍(胃または十二指腸の粘膜がえぐられてできた傷)が粘膜を超えて深く進行し、最終的に胃や腸の壁に穴が開いてしまった状態を指します。
胃や十二指腸の内容物(胃酸・消化酵素・食べ物など)が腹腔内に漏れ出すことで、強い腹膜炎を引き起こし、全身状態が急激に悪化します。
消化性潰瘍のなかでも最も重篤な合併症の一つで、早急な対応を行わなければ、腹膜炎から敗血症や多臓器不全、さらには命に関わる状態に進展することがあります。
穿孔は、慢性潰瘍が徐々に進行して起こる場合と、症状が軽かったにもかかわらず突然発生する場合の両方があり、特に高齢者では初期症状が乏しいこともあります。緊急性が高いため、腹痛が出現した時点で速やかな医療機関受診が必要です。
原因
穿孔の主な原因は、消化性潰瘍の進行です。潰瘍が粘膜から筋層、さらには漿膜まで深く達し、ついには壁を貫通して穴が開いてしまいます。
この潰瘍の背景として最も大きな原因は「ヘリコバクター・ピロリ感染」です。ピロリ菌は胃粘膜に慢性炎症を引き起こし、防御機構を破綻させて潰瘍を形成・悪化させます。感染が長期間持続することで潰瘍が深くなり、穿孔のリスクが高まります。
次に重要なのが「NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)」の長期使用です。鎮痛薬などに含まれるNSAIDsは胃粘膜を保護するプロスタグランジンの生成を阻害し、潰瘍を進行させやすくします。特に高齢者では鎮痛薬の使用頻度が高く、注意が必要です。
その他のリスク因子には、喫煙、過度の飲酒、ストレス、ステロイド薬の使用、がんなどの基礎疾患が挙げられます。若年者でもNSAIDsの過量服用などで突然穿孔を起こすことがあります。
症状
穿孔の初期症状は「突然の激しい腹痛」で、しばしば「ナイフで刺されたような痛み」と表現されます。痛みの部位はみぞおち(上腹部)に始まり、急速に全腹部へと広がります。
腹膜炎を伴うため、腹筋が板のように硬直する「板状硬(いたじょうこう)」がみられ、触れただけでも強い痛みを感じることが特徴です。
その他の症状としては、吐き気、嘔吐、冷汗、発熱、顔面蒼白、動悸、血圧低下、意識障害、ショック状態などが急速に出現し、症状は時間とともに重症化します。
高齢者や糖尿病患者では典型的な痛みが出にくく、腹部症状が軽微なこともあるため、「何となくお腹の調子が悪い」という訴えでも穿孔を疑う必要があります。
また、すでに潰瘍の既往がある人やNSAIDsを服用中の人では、腹痛が出た時点で「穿孔」を念頭においた迅速な判断が求められます。
診断方法と治療方法
診断は、患者の症状と身体所見に加え、画像検査によって行われます。特に「腹部単純X線撮影」で横隔膜の下にガス像(自由ガス)が見られると、消化管穿孔の診断に非常に有効です。
さらに、詳細な状態評価のためには「腹部CT検査」が行われ、穿孔部位、内容物の漏出範囲、腹水や膿瘍の有無などを把握します。血液検査では白血球の増加、CRP高値、電解質異常、肝腎機能の評価が行われます。
治療の基本は「緊急手術」で、穿孔部の縫合と腹腔内洗浄が主に行われます。軽度で閉鎖傾向のある穿孔に対しては、絶食・抗生物質・点滴による保存的治療が選ばれることもありますが、原則として手術が優先されます。
最近では、腹腔鏡下手術による低侵襲なアプローチも可能になっており、全身状態が許せば選択されます。手術後は潰瘍の再発予防として、ピロリ菌除菌療法や胃酸分泌抑制薬の投与が行われます。
予後
胃・十二指腸潰瘍穿孔の予後は、早期診断と治療のタイミングに大きく左右されます。穿孔から治療までの時間が短ければ短いほど、死亡率や合併症のリスクは低くなります。
一般的には、穿孔から24時間以内に手術を受けた場合の予後は比較的良好ですが、遅れると腹膜炎や敗血症、多臓器不全を引き起こし、致命的になる可能性があります。
高齢者、基礎疾患を持つ人(糖尿病、心不全、腎不全など)、免疫力の低下している人では、術後合併症が増え、回復が遅れることがあります。手術後の感染管理、栄養管理、全身管理が予後を左右します。
ピロリ菌が原因である場合、術後の除菌治療が成功すれば潰瘍再発の予防が可能です。NSAIDsが原因の場合には、薬剤の見直しや胃粘膜保護薬の併用が不可欠です。予後を良好に保つためには、原因の除去と定期的なフォローアップが重要です。
予防
穿孔を防ぐためには、まず「潰瘍を悪化させない」ことが重要です。そのためには原因となるピロリ菌感染の有無を確認し、陽性であれば除菌治療を受けることが基本です。
NSAIDsなどを使用している人は、医師の指示に従い、必要最小限にとどめるとともに、胃粘膜保護薬やPPIを併用して胃の保護を図ることが大切です。
また、禁煙・節酒、暴飲暴食を避ける、規則正しい食生活、ストレスの軽減、十分な睡眠など、胃粘膜の保護につながる生活習慣の見直しも重要な予防法です。
潰瘍の既往がある人や、症状が出やすい人は、定期的な内視鏡検査やピロリ菌再感染のチェックを受けることが推奨されます。特に高齢者では、症状が乏しいまま穿孔に至ることがあるため、早期対応の意識が重要です。
関連する病気や合併症
潰瘍穿孔の最大の合併症は「腹膜炎」で、胃や腸の内容物が腹腔内に漏れることで強い炎症が起こり、発熱・全身炎症・多臓器障害へと進行します。
進行すると「敗血症」「呼吸不全」「腎不全」「播種性血管内凝固(DIC)」などの重篤な合併症を招き、死亡率が高くなります。特に高齢者や全身状態の悪い人ではこれらの合併症が起こりやすく、治療後の経過にも影響を及ぼします。
また、穿孔部が治癒したあとに瘢痕が形成され、「幽門狭窄」や「胃排出障害」を引き起こすことがあります。手術後の癒着による「腸閉塞」や、長期入院による「筋力低下」「誤嚥性肺炎」などのリハビリ上の問題も生じます。
さらに、原因であるピロリ菌感染やNSAIDsの継続使用が除去されないままでは、再潰瘍・再穿孔のリスクも残ります。予後を改善するには、合併症の予防と原因治療の継続的管理が必要です。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
日本消化器病学会「消化性潰瘍診療ガイドライン」(https://www.jsge.or.jp/)
国立国際医療研究センター「消化性潰瘍と合併症」(https://www.ncgm.go.jp/)
日本ヘリコバクター学会「ピロリ菌と潰瘍穿孔」(https://www.jshr.jp/)
■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。
「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。
医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。
医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。
- 公開日:2025/07/07
- 更新日:2025/07/09
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