がん性胸膜炎がんせいきょうまくえん

がん性胸膜炎は、がん細胞が胸膜に転移・浸潤して炎症と胸水貯留を起こす状態で、呼吸困難や胸痛が主症状です。悪性腫瘍の進行例で多く、治療は胸水の排液、胸膜癒着術、化学療法などを行います。緩和ケアも重要な選択肢です。

がん性胸膜炎

がん性胸膜炎とは?

がん性胸膜炎とは、悪性腫瘍が胸膜(肺を包む薄い膜)に転移または直接浸潤することで炎症を引き起こし、胸水が貯留する病態です。特に肺がん、乳がん、悪性リンパ腫などの進行がんで多く見られ、悪性胸水の原因として最も頻度の高い病態の一つです。

通常、胸膜の内側(臓側胸膜)と外側(壁側胸膜)の間には、潤滑液としてごく少量の胸水が存在し、呼吸に伴う肺の動きを助けています。しかし、がん細胞がこの領域に入り込むと、炎症やリンパ流の障害により胸水が異常に貯まり、肺を圧迫して呼吸困難などの症状を引き起こします。

がん性胸膜炎は進行がんの合併症として発症することが多く、予後は原疾患の進行度や全身状態に大きく依存します。診断には画像検査、胸水の穿刺・細胞診が用いられ、治療は胸水の排液、胸膜癒着術、がんに対する化学療法などが選択されます。

症状の緩和と生活の質(QOL)の維持が治療の主な目的となることが多く、緩和ケアの導入が重要です。

原因

がん性胸膜炎の原因は、悪性腫瘍の胸膜への播種(散布)または浸潤により、炎症と胸水の貯留が引き起こされることです。以下のようながんが原因となることが多く報告されています。

がん性胸膜炎を引き起こしやすいがん

  • 肺がん(特に腺がん):最も頻度が高い
  • 乳がん:進行例で胸膜転移をきたしやすい
  • 悪性リンパ腫:胸膜浸潤により大量の胸水を認めることがある
  • 卵巣がん、胃がん、膵がん:腹膜播種とともに胸膜へ波及することがある
  • 悪性中皮腫:原発が胸膜であり、がん性胸膜炎と区別されるが、臨床像は類似する

病態のメカニズム

  • がん細胞が胸膜に播種し、炎症を起こす
  • 胸膜のリンパ流が障害され、胸水が吸収されにくくなる
  • がん細胞が胸膜血管を破壊し、血漿成分が胸腔内に漏出
  • 間質液の浸出により胸水が増加し、再吸収が追いつかなくなる

胸水の性状

  • 通常は滲出性胸水
  • しばしば血性(赤みを帯びた胸水)
  • 胸水中にがん細胞が検出される(陽性細胞診)

がん性胸膜炎は、進行がんの全身病態の一部として現れるため、原疾患の管理と並行して対応する必要があります。

症状

がん性胸膜炎の症状は、主に胸水が肺を圧迫することで起こる呼吸器症状と、がんの進行による全身症状が中心です。

主な局所症状

  • 呼吸困難:最も頻度の高い症状で、軽労作時にも息苦しさを感じる
  • 咳:乾いた咳が続く。胸水の増加で悪化することが多い
  • 胸痛:胸膜への炎症刺激による。持続的で鈍い痛みや鋭い刺すような痛みがあることも
  • 胸部圧迫感:肺の膨張が妨げられることによる違和感

全身症状

  • 発熱(炎症や腫瘍熱による)
  • 倦怠感、易疲労性
  • 体重減少、食欲不振
  • 寝汗、微熱などがん悪液質の症状

身体所見

  • 患側の呼吸音減弱または消失(聴診)
  • 胸部打診で濁音(胸水の貯留部)
  • SpO₂低下(酸素飽和度の低下)

進行による症状の変化

  • 胸水が増加すると、健側への縦隔偏位、肺の完全虚脱を招く
  • 仰臥位での呼吸困難(起座呼吸)
  • 動悸、チアノーゼなどの低酸素症状
  • 全身浮腫(リンパ流障害や低アルブミン血症による)

がん性胸膜炎では、肺の拡張が妨げられるだけでなく、がんの進行による他臓器症状や合併症も並行して現れるため、症状の評価と管理には包括的視点が必要です。

診断方法と治療方法

診断

  1. 胸部X線検査
    ・胸水による肺陰影の消失、胸郭の左右非対称性
    ・仰臥位では見落とされることもあるため、立位での撮影が望ましい
  2. 胸部CT検査
    ・胸水の貯留範囲、胸膜の肥厚、腫瘤の有無を詳細に観察
    ・肺の虚脱、リンパ節腫大などの併存所見も評価
  3. 超音波検査(胸部エコー)
    ・胸水の量、穿刺位置の同定に有用
    ・血性胸水、隔壁形成、被包化胸水の評価
  4. 胸水穿刺と胸水検査
    ・細胞診(がん細胞の有無)
    ・生化学検査(滲出性/漏出性の分類)
    ・細菌培養(感染合併の確認)
    ・ヒアルロン酸測定(悪性中皮腫の鑑別)
  5. 胸膜生検
    ・経皮的または胸腔鏡下に実施
    ・確定診断が得られない場合に行う

治療

  1. 胸水排液(胸水穿刺・ドレナージ)
    ・一時的な呼吸困難の改善に有効
    ・大量排液は再膨張性肺水腫のリスクあり、慎重な管理が必要
  2. 胸膜癒着術(胸膜固定術)
    ・ドレーン留置後に癒着剤(タルク、ミノサイクリンなど)を注入し、胸水の再貯留を防止
    ・再発例では有効な手段
  3. がんに対する治療
    ・化学療法:原発がんに応じたレジメンで対応
    ・分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬も選択肢となる
    ・胸膜播種型進行例では奏効率は限定的
  4. 緩和ケア
    ・酸素療法、鎮咳薬、オピオイドなどによる症状緩和
    ・QOL維持を目的とした対症療法

治療方針は、原疾患の性質、全身状態、患者の希望に基づいて個別に決定されます。

予後

がん性胸膜炎の予後は、原発がんの種類と進行度、全身状態、治療反応性によって大きく左右されます。一般的には進行がんの末期に発生することが多く、予後は不良とされます。

予後良好の可能性

  • 原発がんが化学療法に高感受性である場合(リンパ腫、小細胞肺がんなど)
  • 胸膜癒着術により胸水コントロールが得られた場合
  • 全身状態(PS)が保たれており、治療継続が可能な場合

予後不良の要因

  • 肺がんや乳がんの化学療法抵抗性進行例
  • 頻回の胸水再貯留
  • 多臓器転移、悪液質の存在
  • 急激な呼吸不全の進行

生存期間の目安

  • 未治療では数週間〜数か月
  • 化学療法や癒着術の奏効例では数か月〜1年以上の延命も可能

緩和ケアの早期導入と在宅医療支援体制の構築も、患者と家族の安心とQOL維持に寄与します。

予防

がん性胸膜炎は、がんの進行によって起こる合併症であり、特異的な予防法は存在しません。ただし、原発がんの早期発見・治療や、転移抑制が間接的な予防策となります。

がんの早期発見・治療

  • 定期的ながん検診の受診
  • リスクに応じた画像検査(胸部X線、CT、腫瘍マーカー)

喫煙対策

  • 肺がん予防の最も重要な要素
  • 受動喫煙を含めた環境整備も必要

化学療法の適切な実施

  • 胸膜播種の早期制御が胸水貯留の抑制につながる
  • 治療反応を確認し、必要に応じてレジメンの変更

全身状態の維持

  • 栄養管理、感染予防、定期的な通院によるモニタリング
  • 患者自身の体調変化に敏感になり、早期対応を促す

がん性胸膜炎の予防には、がん診療における総合的なアプローチが求められます。

関連する病気や合併症

がん性胸膜炎はがんの進行に伴う病態であり、以下のような関連疾患や合併症に注意が必要です。

関連疾患

  • 原発性肺がん(腺がん優位)
  • 乳がん(特にトリプルネガティブ型)
  • 悪性リンパ腫
  • 悪性中皮腫(胸膜原発のがん)

合併症

  • 呼吸不全:胸水による肺圧迫、ガス交換障害
  • 感染性胸膜炎(二次感染)
  • 再膨張性肺水腫:大量胸水の急速排液による肺障害
  • 低アルブミン血症:胸水漏出によるタンパク喪失
  • 静脈血栓塞栓症(VTE):臥床やがんに伴う凝固能亢進による

治療関連合併症

  • 胸腔ドレナージによる皮膚炎、出血、気胸
  • 癒着剤による胸膜炎症状(発熱、胸痛)

心理社会的影響

  • QOL低下:呼吸困難による日常生活制限
  • 不安、うつ状態:進行がんに対する心理的反応

緩和ケアチームや在宅医療と連携し、身体的・精神的・社会的サポートを一体として提供することが求められます。

症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。

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■ 参考・出典

■ この記事を監修した医師

石井 誠剛医師 イシイ内科クリニック

近畿大学 医学部 卒

近畿大学医学部卒後、済生会茨木病院で研修を行い、日本生命病院で救急診療科、総合内科勤務。
その後、近畿中央呼吸器センターで勤務後、西宮市立中央病院呼吸器内科で副医長として勤務。
イシイ内科クリニックを開設し、地域に密着し、 患者様の気持ちに寄り添った医療を提供。

日本生命病院では総合内科医として様々な内科診療に携わり、近畿中央呼吸器センターでは呼吸器の専門的な治療に従事し、 西宮市立中央病院では呼吸器内科副医長として、地域医療に貢献。
抗加齢学会専門医として、アンチエイジングだけを推し進めるのではなく、適切な生活指導と内科的治療でウェルエイジングを提供していくことを目指している。

  • 公開日:2025/07/08
  • 更新日:2025/07/16

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