胃腺腫いせんしゅ
胃腺腫は、胃の粘膜にできる良性腫瘍の一種ですが、がんに進行するリスクを持つ「前がん病変」として知られています。多くは無症状で検診中に偶然見つかりますが、内視鏡検査と病理診断で早期に発見し、必要に応じて内視鏡的切除を行うことが大切です。ピロリ菌感染との関連も深く、除菌治療や定期的な経過観察が重要です。
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胃腺腫とは?
胃腺腫とは、胃の粘膜上皮の細胞が異常に増殖し、ポリープ状に隆起した「腺腫性病変」です。良性腫瘍に分類されますが、その中でも「前がん病変(precancerous lesion)」と位置付けられており、放置すると一部は胃がんに進行するリスクがあります。
腺腫は、胃の腺組織(分泌細胞)由来の細胞が異常増殖したもので、内視鏡検査ではやや盛り上がった、表面が粗く不整なポリープとして観察されます。
胃腺腫には、「低異型度腺腫」「高異型度腺腫」があり、異型度が高いほどがん化リスクが高くなります。特に高異型度の腺腫や大きな病変では、早期がんがすでに含まれていることもあるため、積極的な切除が推奨されます。
腺腫は単発でも多発でも生じることがあり、特に慢性胃炎やピロリ菌感染、萎縮性胃炎を背景に生じやすいことがわかっています。
原因
胃腺腫の発生には、胃粘膜の慢性炎症が関与しています。中でも最も重要なのが「ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)」感染です。ピロリ菌が胃粘膜に慢性的な炎症を引き起こし、やがて「萎縮性胃炎」や「腸上皮化生」が進行することで、腺腫が発生しやすくなります。
腸上皮化生とは、胃の粘膜が腸のような性質に変化する状態で、がん化リスクの高い前段階とされています。腺腫はこのような変化した粘膜上に発生しやすく、異型度が高くなるほど悪性化の可能性が増します。
また、遺伝的要因や生活習慣(高塩分食、喫煙、過度な飲酒など)も発症に関与するとされ、特に加齢とともにその頻度は上昇します。
まれに、遺伝性腺腫症(家族性大腸腺腫症など)の一環として、胃にも多発性の腺腫が生じることがあります。こうした症例では消化管全体に注意を払う必要があります。
症状
胃腺腫は多くの場合、症状を伴わず、健康診断や人間ドックなどの内視鏡検査で偶然発見されます。自覚症状が出ることはまれで、出現してもごく軽微な場合がほとんどです。
出現する症状としては、「胃もたれ」「食欲不振」「早期飽満感」「みぞおちの違和感」「腹部の膨満感」などの上腹部不快症状があります。ただし、これらは他の胃腸疾患でもみられるため、腺腫特有の症状とはいえません。
まれに、ポリープ表面がびらん(ただれ)を起こし、そこから出血して「黒色便(タール便)」や「貧血」「倦怠感」が出ることもあります。
特に腫瘍が大きくなると、胃の内容物の通過を妨げ、圧迫感や吐き気、嘔吐といった症状を引き起こすことがありますが、こうしたケースはまれです。
このように、無症状のまま進行することが多いため、定期的な内視鏡検査が早期発見・早期治療に直結します。
診断方法と治療方法
診断
診断は主に「上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)」で行われます。内視鏡では、胃腺腫はやや硬く、表面に凹凸があるポリープ様病変として観察されます。大きさ、形状、表面模様などから腺腫が疑われる場合は、生検(組織採取)を行って病理検査を実施します。
病理検査では、細胞の構造や核の異常(異型度)を確認し、良性か悪性の境界にあるか、あるいはすでにがん化しているかを診断します。
治療
治療は、基本的に「内視鏡的切除(EMRやESD)」が選択されます。病変が1~2cm以内であれば、内視鏡的粘膜切除術(EMR)が、より広範な病変では粘膜下層剥離術(ESD)が適応されます。
切除後の病理診断により、がんが含まれていないか、完全切除されているかを確認します。悪性変化がある場合には、追加治療や定期的なフォローが必要になります。治療後は年1回程度の内視鏡検査が推奨されます。
予後
胃腺腫は早期に発見され、適切に切除されれば予後は極めて良好です。腺腫の段階で完全に切除されていれば、その後に胃がんに進行するリスクはほぼなくなります。
ただし、切除時に「高異型度」や「粘膜下層浸潤」などが見つかった場合には、追加の内視鏡治療や、まれに外科的切除を検討することもあります。
ピロリ菌が陽性であれば、除菌治療を行うことで再発や新たな腺腫の発生リスクを抑えることができます。また、背景に萎縮性胃炎や腸上皮化生がある場合には、除菌後でも胃がんの発生リスクは完全には消えないため、経過観察が必要です。
腺腫を切除した後も、1〜2年ごとの定期的な内視鏡検査が勧められ、胃粘膜の状態を把握しながら、再発や新規病変の早期発見に努めます。腺腫と診断されたこと自体が、胃がんリスクの存在を意味するため、慎重な長期フォローが重要です。
予防
胃腺腫を直接的に予防する方法は確立されていませんが、発生リスクを減らすための対策はいくつかあります。最も重要なのは「ピロリ菌感染の有無を調べ、陽性であれば除菌すること」です。
ピロリ菌を除菌することで、慢性胃炎や腸上皮化生の進行を抑え、胃腺腫や胃がんのリスクを低下させることが報告されています。除菌は内視鏡で胃炎が確認されれば保険適用となり、1週間の服薬で行えます。
また、食生活では高塩分・高脂肪の食品を控え、野菜や果物を積極的に摂取することが推奨されます。禁煙、節酒、ストレス管理、十分な睡眠といった生活習慣の見直しも重要です。
腺腫の既往がある人や家族歴がある人では、1〜2年に1回の内視鏡検査による早期発見が予防の要となります。無症状でも検査を受けることが、腺腫や胃がんの予防につながります。
関連する病気や合併症
胃腺腫は、それ自体が「前がん病変」であり、最も関連が深い疾患は「胃がん」です。特に高異型度の腺腫や1cmを超える腺腫では、すでに一部にがん細胞を含んでいる可能性があるため注意が必要です。
また、背景に「萎縮性胃炎」「腸上皮化生」「慢性胃炎」「ピロリ菌感染」などの粘膜異常があるケースが多く、これらの病態が複合的に胃がんリスクを高めます。
切除後の合併症としては、内視鏡的切除に伴う「出血」「穿孔」などがありますが、これらは適切な処置により多くの場合で回避可能です。
まれに、腺腫が出血を伴い「黒色便」や「鉄欠乏性貧血」を引き起こすこともあります。腺腫が多発する場合には、遺伝性腺腫症(FAP:家族性大腸腺腫症)などの全身疾患の一部として現れていることもあるため、全消化管の精査が必要となることもあります。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
日本消化器病学会「胃腺腫の診療」(https://www.jsge.or.jp/)
国立がん研究センター「胃腺腫・胃がん」(https://ganjoho.jp/)
日本ヘリコバクター学会「ピロリ菌と腺腫の関係」(https://www.jshr.jp/)
■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。
「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。
医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。
医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。
- 公開日:2025/07/08
- 更新日:2025/07/09
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