胸水きょうすい
胸水は、肺を覆う胸膜の間に液体が異常に貯留する状態で、呼吸困難や胸痛を引き起こします。心不全、感染、悪性腫瘍などが原因となり、診断には胸水穿刺が不可欠です。治療は原因疾患に応じて行われ、必要に応じてドレナージや化学療法が選択されます。
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胸水とは?
胸水とは、肺を包む胸膜の間にある「胸膜腔」に液体が異常に貯留する状態を指します。通常、この胸膜腔にはごく少量(10〜20ml)の潤滑液が存在し、呼吸時の肺と胸壁の摩擦を防いでいます。しかし、病的状態によりこの液体が過剰に蓄積すると「胸水貯留」となり、呼吸困難や胸痛を引き起こします。
胸水は、液体の性状と成因により大きく「漏出性胸水」と「滲出性胸水」に分類されます。漏出性胸水は主に全身性の循環障害によって生じ、心不全や肝硬変、腎症候群が代表的な原因です。一方、滲出性胸水は局所的な炎症や腫瘍、感染によって胸膜の透過性が亢進し、液体がしみ出してくることで生じます。
胸水は多くの疾患の症候の一部であり、その背景にある原因を見極めることが診断と治療において極めて重要です。検査としては胸部画像検査、胸水穿刺による性状分析、細胞診や培養が行われます。
原因
胸水は、胸膜腔内に液体が異常に貯留する病態であり、発症の背景にはさまざまな疾患が存在します。液体の発生メカニズムと性状によって分類されます。
漏出性胸水の原因(循環動態の異常による)
- 心不全(最も頻度が高い原因)
-左心不全で肺うっ血を来し、胸膜腔に液体が漏出 - 肝硬変(肝性胸水)
-腹水が横隔膜を通して胸腔に移動 - ネフローゼ症候群
-低アルブミン血症による血漿膠質浸透圧の低下が関与
滲出性胸水の原因(胸膜の炎症や浸潤による)
- 感染症(細菌性肺炎、結核性胸膜炎)
-胸膜に直接炎症が波及し、胸水が貯留 - 悪性腫瘍(がん性胸膜炎、悪性中皮腫)
-腫瘍による胸膜浸潤やリンパ閉塞が原因 - 膠原病(SLE、関節リウマチなど)
-自己免疫による胸膜の炎症
その他の原因
- 薬剤性(メトトレキサート、アミオダロンなど)
- 外傷性(胸部打撲、手術後)
- 肺塞栓症(特に出血を伴う場合)
- 放射線性肺炎やアスベスト曝露歴
原因疾患に応じた診断アプローチが必要であり、胸水性状の分析は重要な手がかりとなります。
症状
胸水による症状は、その量や貯留速度、原因疾患によって異なります。一般的には以下のような症状が見られます。
局所症状
- 呼吸困難:最も頻度の高い症状。胸水により肺が圧迫され、換気障害が起こる
- 胸痛:胸膜の炎症に伴う鋭い痛み。深呼吸や咳で増強することが多い
- 咳嗽:胸膜刺激による反射性の乾いた咳
- 起座呼吸:仰臥位で呼吸が苦しくなり、座った状態で楽になる
全身症状(原因疾患に起因)
- 発熱、寝汗(感染性胸水)
- 体重減少、食欲不振(悪性腫瘍)
- 浮腫、腹水(心不全、肝硬変)
- 関節痛や筋肉痛(膠原病関連)
身体所見
- 患側の呼吸音の減弱または消失(聴診)
- 打診で濁音(胸水が貯留している部位)
- 胸部膨隆、皮膚の緊張感
- チアノーゼやSpO₂の低下(進行例)
発症様式と進行
- 急性:感染性胸膜炎や外傷による胸水で急激に出現
- 慢性:悪性腫瘍や心不全では徐々に進行し、症状に気づきにくいことも
大量胸水の影響
- 健側への縦隔偏位
- 肺虚脱、呼吸機能の著しい低下
- 心拍出量の減少により循環不全を呈することも
患者の自覚症状が乏しい場合でも、画像検査や聴診所見から胸水を疑うことが診断の第一歩となります。
診断方法と治療方法
診断
- 胸部X線検査
・胸水貯留により肺野の濁りや無気肺、横隔膜挙上が見られる
・側臥位撮影で少量の胸水の検出が可能 - 胸部CT検査
・胸水の量、性状、胸膜肥厚、腫瘤の有無、肺の状態を評価
・腫瘍性病変や被包化胸水の描出に優れる - 超音波検査(胸部エコー)
・胸水の量や内部構造(隔壁形成)を確認
・穿刺部位のガイドとして使用される - 胸水穿刺・胸水検査(重要)
・外観:透明、血性、膿性など性状を確認
・細胞診:悪性細胞の有無
・生化学検査:LDH、蛋白、グルコース、pH、ADA(結核性胸水の指標)
・細菌培養:感染性胸水では病原菌の特定が可能 - 血液検査
・炎症反応、腫瘍マーカー、自己抗体(膠原病の評価)
・腎機能、肝機能、心機能の確認
治療
- 原因疾患の治療
・心不全:利尿薬や心不全治療の強化
・感染症:適切な抗菌薬の投与
・腫瘍性胸水:化学療法、放射線療法、胸膜癒着術など - 胸水の排液
・胸腔穿刺:呼吸困難が強い場合や診断目的で施行
・胸腔ドレナージ:大量胸水や再貯留を繰り返す場合に留置
・慢性胸水や再発例では胸膜癒着術(プレウロデーシス)も考慮 - 緩和的アプローチ
・悪性胸水や末期疾患では呼吸緩和を目的とした在宅管理や緩和医療が重要
治療方針は胸水の成因と患者の全身状態に応じて個別に決定されます。
予後
胸水の予後は、その原因となる基礎疾患と治療の適時性によって大きく左右されます。単なる胸水の存在だけでは予後を判断できません。
予後良好の例
- 心不全、肝硬変、ネフローゼ症候群などの漏出性胸水で、基礎疾患の管理が良好な場合
- 一過性の感染性胸膜炎(抗菌薬で完治)
予後不良の例
- 悪性腫瘍(がん性胸膜炎):再貯留が多く、進行性
- 結核性胸膜炎:治療開始が遅れると慢性化や癒着が残ることも
- 膿胸や被包化胸水:長期のドレナージや外科的治療が必要
再発リスク
- 悪性胸水は治療しても再貯留が高頻度でみられる
- 再発予防には胸膜癒着術や化学療法の継続が必要
後遺症
- 癒着による拘束性換気障害
- 肺機能の低下により日常生活に制限を来すことがある
患者本人と家族への十分な説明と、症状緩和を目的とした医療介入も、予後の満足度向上に重要な役割を果たします。
予防
胸水そのものを直接予防することは難しいですが、原因疾患の管理とリスク要因の回避により発症リスクを下げることが可能です。
心不全予防
- 高血圧、冠動脈疾患、弁膜症の適切な治療
- 塩分制限、体重管理、定期的な循環器受診
感染症の予防
- 肺炎球菌、インフルエンザ、結核などのワクチン接種
- 免疫抑制状態の改善(糖尿病コントロール、栄養状態の維持)
悪性腫瘍の早期発見
- がん検診の定期受診(特に肺がん、乳がん、卵巣がんなど)
- 喫煙の中止と生活習慣の改善
膠原病・腎疾患の管理
- 定期的な血液検査と専門医によるフォローアップ
- ステロイドや免疫抑制薬の副作用管理
職業性曝露の回避
- アスベストや化学物質への接触を避ける対策
個々の疾患リスクに応じた一次・二次予防を徹底することが、胸水の発症抑制につながります。
関連する病気や合併症
胸水は多くの疾患の結果として発症するため、関連する病気や合併症を包括的に把握することが重要です。
関連疾患
- 心不全、肝硬変、腎症候群(漏出性胸水)
- 細菌性肺炎、結核性胸膜炎、膿胸(滲出性胸水)
- がん性胸膜炎、悪性中皮腫(腫瘍性胸水)
- SLE、関節リウマチ(膠原病性胸水)
- 肺塞栓症、外傷、薬剤性肺障害
合併症
- 肺虚脱、呼吸不全(大量胸水による)
- 胸膜癒着による拘束性障害
- 胸腔内感染(胸腔ドレナージに伴う感染や膿胸)
- 再膨張性肺水腫(ドレナージ後の急速な肺再膨張による)
治療関連合併症
- 穿刺による気胸、出血、感染
- 胸膜癒着術による発熱、疼痛、胸膜刺激症状
精神・生活面への影響
- 慢性的な息苦しさによる活動制限
- 治療に伴う不安やQOLの低下
胸水はあくまで症状の一つであり、その背景にある病態の診断と適切な管理が、長期的な合併症予防と患者満足度向上の鍵となります。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
- 日本呼吸器学会「胸水診療ガイドライン」(https://www.jrs.or.jp)
- MSDマニュアル プロフェッショナル版「胸水」(https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional)
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「胸水」 (https://kennet.mhlw.go.jp/home)
■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。
「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。
医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。
医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。
- 公開日:2025/07/16
- 更新日:2025/07/16
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