過敏性腸症候群かびんせいちょうしょうこうぐん
過敏性腸症候群(IBS)は、明らかな器質的異常がないにもかかわらず、慢性的に腹痛や便通異常(下痢や便秘、あるいはその両方)を繰り返す疾患です。ストレスや自律神経の乱れが関与しており、生活の質(QOL)を著しく低下させることがあります。治療には薬物療法、生活指導、心理的アプローチが重要です。
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過敏性腸症候群とは?
過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome:IBS)は、大腸を中心とした腸に明らかな異常がないにもかかわらず、腹痛や腹部膨満感、便通異常が慢性的に繰り返される機能性腸疾患です。
主な特徴は「腹痛や腹部の不快感が排便によって軽減される」ことと、「便の性状(硬さや頻度)に変化がある」ことです。腸の運動や感覚が通常より敏感になっており、少しの刺激でも痛みや不快感を感じやすくなっています。
患者数は日本国内でも非常に多く、特に20〜40代の若年〜中年層に多く見られます。男性では下痢型、女性では便秘型がやや多い傾向にあります。
身体的な異常がなくても日常生活に支障をきたすことが多く、社会生活や心理状態にも大きな影響を与える疾患です。
原因
IBSの原因は完全には解明されていませんが、以下のような要因が複雑に関係していると考えられています。
- ストレスや精神的緊張:自律神経の乱れによって腸の運動が過敏になる
- 腸の運動異常:腸のぜん動運動が強くなりすぎたり、逆に弱くなったりして便通が乱れる
- 腸管知覚過敏:腸にかかる刺激を過剰に「痛み」として感じる状態
- 腸内細菌のバランス異常:腸内フローラの乱れが腸の機能に影響する
- 食生活の乱れ:暴飲暴食や脂質・糖質の過剰摂取が悪化因子に
- 感染後IBS:急性腸炎後に発症するケース(特に細菌性腸炎の後に多い)
また、IBSはうつ病や不安障害などの心身症との関連も強く、心理的ストレスが症状を誘発・悪化させる重要な因子とされています。
遺伝的素因やホルモンバランス(特に女性の場合)も発症に影響していると考えられています。
症状
IBSの症状は、排便習慣と関連した腹痛・腹部不快感を中心に、便通異常が加わるのが特徴です。主な症状には以下のようなものがあります。
- 腹痛または腹部不快感(排便によって軽減する)
- 便通異常(下痢・便秘、またはその交代)
- 軟便や硬便、便の形状の変化
- ガスが溜まりやすい、放屁が多い(ガス型IBS)
- 残便感、便意切迫感
- 腹部の張り、音(腹鳴)
症状の程度は日によって変動し、ストレスや緊張、食事などが誘因となることが多く、旅行や会議、試験など特定の場面で悪化する傾向があります。
IBSは以下の4つのタイプに分類されます。
- 下痢型(IBS-D):急な便意と水様便が多い
- 便秘型(IBS-C):硬便、排便困難、残便感が主体
- 混合型(IBS-M):下痢と便秘を交互に繰り返す
- 分類不能型(IBS-U):明確なタイプに分類できない不定型
どのタイプでも腹部の不快感とQOLの低下を伴うため、日常生活への影響が大きい疾患です。
診断方法と治療方法
診断
IBSの診断は、症状の経過と他疾患との鑑別を重視します。世界的には「ローマIV基準」が用いられ、次のような診断基準が示されています。
過去3か月のうち、少なくとも1週間に1回以上の腹痛があり、次のうち2項目以上を満たす
- 排便に関連する
- 排便頻度の変化を伴う
- 便性状(形状)の変化を伴う
【除外診断に必要な検査】
- 血液検査:貧血、炎症反応、甲状腺機能など
- 便検査:潜血、感染性病原体の有無
- 腹部超音波・CT:器質的疾患の除外
- 大腸内視鏡検査:大腸がんや炎症性腸疾患の除外
治療
- 食事療法:FODMAP制限(発酵性糖質の制限)、乳製品や刺激物を控える
- 薬物療法
- 整腸剤(乳酸菌・ビフィズス菌など)
- 下痢型には止瀉薬(ロペラミドなど)、便秘型には便軟化薬
- 腸管運動調整薬
- 抗不安薬や抗うつ薬(脳腸相関への影響を考慮) - 心理療法:認知行動療法、リラクゼーション法、カウンセリング
患者個々の症状に応じた多角的アプローチが求められます。
予後
IBSは生命に関わる病気ではありませんが、慢性的な経過をたどるため、長期間にわたって症状が続き、生活の質(QOL)を著しく損なうことがあります。
予後は良好なことが多く、生活指導や薬物療法により症状がコントロールされるケースが多くありますが、再発を繰り返すことも少なくありません。
とくに、精神的ストレスが強い環境下では、症状が悪化しやすく、学業や仕事、外出に支障を来すこともあります。過度な不安感や抑うつが背景にある場合は、心理的サポートや精神科的治療が有効です。
長期的には、自分の症状パターンや誘因を理解し、適切なセルフケアを身につけることで予後の安定につながります。医師やカウンセラーと連携しながら、身体面・精神面の両方を整えることが再発防止の鍵となります。
予防
IBSの発症や悪化を防ぐためには、生活習慣の見直しとストレスマネジメントが重要です。
【生活面での予防策】
- 食事の見直し(刺激物・脂質・カフェインの摂取を控える)
- 食物繊維は症状に応じて適切に調整
- 水分をしっかり摂る
- 規則正しい食生活(朝食をとる、ゆっくり食べる)
- 適度な運動を習慣化(腸のぜん動運動を促す)
【精神面での予防策】
- 十分な睡眠と休養を確保する
- ストレスをためない環境づくり
- 日記などで症状と食事・出来事の記録を行う
- 必要に応じてカウンセリングや心理療法を取り入れる
また、職場や学校などの社会環境の調整も予防の一環となります。IBSは“ストレスを受けやすい腸”の病気であるため、日々の小さなケアの積み重ねが大切です。
関連する病気や合併症
IBS自体は良性疾患ですが、以下のような関連疾患や合併症を伴うことがあります。
- 過敏性膀胱:頻尿や尿意切迫を併発するケース
- 過敏性食道症候群:胸やけや喉の違和感を感じやすい
- うつ病、不安障害:心理的ストレスとIBSの相関が強い
- 機能性ディスペプシア(FD):みぞおちの痛みや胃もたれを併発しやすい
- 自律神経失調症:内臓機能の調整が不安定になる
- 過敏性腸症候群後の社会不安障害:外出恐怖やトイレの不安により引きこもり傾向に
また、IBSの症状が長期間続くことで「本当にがんなどの病気ではないか」と不安が強くなり、心身症として悪循環に陥るケースもあります。そうした場合には、身体だけでなく心理面のケアも重視する必要があります。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
日本消化器病学会「過敏性腸症候群診療ガイドライン」(https://www.jsge.or.jp/)
国立国際医療研究センター「IBSの診断と治療」(https://www.ncgm.go.jp/)
日本神経消化器病学会「脳腸相関と機能性腸疾患」(https://www.j-nm.org/)
■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。
「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。
医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。
医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。
- 公開日:2025/07/08
- 更新日:2025/07/09
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