急性間質性肺炎きゅうせいかんしつせいはいえん

急性間質性肺炎(AIP)は、原因不明の急性発症型間質性肺炎で、重篤な呼吸不全を引き起こす稀な疾患です。症状は急速に進行し、多くは集中治療や人工呼吸管理を必要とします。ステロイド治療を含む早期の専門的対応が予後を左右します。

急性間質性肺炎

急性間質性肺炎とは?

急性間質性肺炎(Acute Interstitial Pneumonia:AIP)は、原因不明で急激に発症し、急性呼吸不全を引き起こす進行性の間質性肺炎です。特発性間質性肺炎(IIPs)のなかでも最も重篤な病型に分類され、進行が速く、生命予後が極めて不良なことで知られています。

AIPは別名「Hamman-Rich症候群」とも呼ばれ、もともとは健康であった人が数日から数週間のうちに、風邪様症状から急激に呼吸困難を呈し、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に類似した病態へと移行することが特徴です。

発症年齢は40〜60歳代に多く、男女差は少ないとされています。初期には軽度の咳や発熱を伴うこともあり、感冒と誤診されることがありますが、短期間で呼吸状態が急速に悪化するため、早期診断と集中治療が不可欠です。

治療にはステロイドの大量投与が行われますが、反応が不良なケースも多く、高率で人工呼吸器管理やECMOなどの集中治療が必要になります。稀な疾患ですが、臨床医は重症呼吸不全患者の鑑別診断として常に念頭に置く必要があります。

原因

AIPは明確な原因が特定できない「特発性」の疾患ですが、病理学的にはびまん性肺胞障害(Diffuse Alveolar Damage:DAD)を呈し、これはARDSの重症例と共通しています。

現時点で明確な原因は特定されていないものの、以下の要因が誘因と考えられる場合があります

  • ウイルス感染(インフルエンザ、コロナウイルスなど)
  • 薬剤反応(抗がん剤、抗菌薬など)
  • 自己免疫疾患との関係性(RA、SLEなど)
  • 胃内容物の誤嚥や微小吸引
  • 遺伝的素因(報告例は少ない)

しかし、AIPと診断されるには、これら既知の疾患や病因が否定されている必要があります。

DADとの関係

  • 肺胞上皮細胞や内皮細胞の障害によって肺胞内に滲出液が蓄積
  • 線維芽細胞の活性化により線維化が急速に進行
  • 肺胞構造が破壊され、ガス交換が著しく障害される

除外すべき疾患

  • ARDS:明らかな原因がある呼吸不全(敗血症、外傷など)
  • 薬剤性肺炎、感染症による肺炎
  • 自己免疫性肺疾患(膠原病肺)

これらを除外するためには、詳細な問診、血液検査、画像検査、場合によっては気管支鏡や肺生検が必要となります。

症状

AIPは発症から数日〜数週間で急速に呼吸機能が悪化する重篤な疾患であり、以下のような症状が見られます。

初期症状

  • 発熱(微熱〜38℃台)
  • 乾いた咳(非湿性咳)
  • 軽い倦怠感、悪寒
  • 頭痛、筋肉痛などの風邪様症状

急速に出現する主症状

  • 労作時の息切れから始まり、急速に安静時にも呼吸困難を自覚
  • 頻呼吸(呼吸数20回/分以上)
  • チアノーゼ(口唇や爪の青紫色)
  • 低酸素血症による意識障害や見当識障害
  • 呼吸補助筋の使用(肩や首の筋肉で呼吸を助ける)
  • ばち指は通常見られないが、慢性化した場合には出現することも

聴診所見

  • 吸気終末にfine crackles(捻髪音)が聞こえる
  • 肺音が減弱していることもある

全身症状の進行

  • 食欲不振、体重減少
  • 全身倦怠感が著明
  • 発汗や寝汗

合併症状

  • 感染症の合併(免疫低下時)
  • 循環不全や腎機能障害などの多臓器不全

これらの症状は、ARDS、感染性肺炎、急性増悪型IPFなどと臨床的に非常に似ており、的確な診断と緊急の対応が予後を左右します。急性呼吸困難が見られた場合には、画像所見と臨床経過を慎重に評価する必要があります。

診断方法と治療方法

診断

AIPは診断が困難であり、他の疾患の除外と多角的な評価が必要です。

  1. 問診と身体診察
    ・発症の経過、風邪症状の有無、服薬歴、職業歴、既往歴を確認
    ・聴診では両肺に捻髪音(fine crackles)が聴取されることがある
  2. 胸部X線検査
    ・両側性の浸潤影やすりガラス様陰影
    ・時間とともに像が進展し、蜂巣肺状の変化が出現することもある
  3. 高分解能CT(HRCT)
    ・両肺にびまん性すりガラス影、網状影、牽引性気管支拡張
    ・DADに対応する病理像と一致する所見
  4. 血液検査
    ・炎症反応(CRP、白血球数の上昇)
    ・KL-6、SP-Dなどの間質性肺炎マーカーの上昇
    ・自己抗体陰性(膠原病除外)
  5. 呼吸機能検査
    ・急性例では実施困難なことが多いが、拡散能(DLCO)の著明な低下が見られることがある
  6. 動脈血ガス分析
    ・PaO₂の低下、呼吸性アルカローシスまたはアシドーシス
    ・PaO₂/FiO₂比が低下(ARDSとの鑑別に使用)
  7. 気管支鏡・肺生検
    ・BALで好中球やマクロファージの割合を確認
    ・病理診断ではDAD(びまん性肺胞障害)が特徴

治療

  1. ステロイド大量療法
    ・メチルプレドニゾロンパルス療法(1g/日×3日間)→経口ステロイドへ移行
    ・効果が乏しい場合は免疫抑制薬の併用も検討
  2. 集中治療管理
    ・酸素投与、高流量酸素療法、人工呼吸器管理
    ・重症例ではECMO(体外式膜型人工肺)を導入することもある
  3. 感染症の管理
    ・抗菌薬、抗ウイルス薬の投与(同時感染の可能性があるため)
  4. 栄養管理・全身管理
    ・点滴による水分・電解質管理、栄養補給
    ・多臓器不全に対する支持療法

治療の効果は症例により大きく異なり、経過中は繰り返しの画像評価と呼吸状態のモニタリングが不可欠です。

予後

急性間質性肺炎の予後は極めて不良なことが多く、集中治療を要する重症呼吸不全に進行する症例がほとんどです。診断時にすでにARDSと類似した病態を呈していることも珍しくなく、死亡率は50%を超えるとされます。

予後を左右する要因

  • ステロイド治療に対する反応性
  • 人工呼吸管理の有無とそのタイミング
  • 急性増悪の背景因子(感染、薬剤など)
  • 年齢と基礎疾患の有無(高齢者や免疫低下状態は不良)

良好な予後の可能性

  • 早期診断と早期治療開始
  • 他の可逆的な病態(感染など)が合併していない
  • 軽度で発見され、非侵襲的治療で改善した症例

予後不良の所見

  • 高齢者、広範な画像所見、低酸素血症の高度進行
  • ステロイド非反応例
  • 多臓器不全を伴う例

退院後も肺線維化が残存することがあり、呼吸機能が完全に回復しない症例もあります。

予防

AIPは原因が不明であり、明確な一次予防法は存在しません。ただし、類似した病態を誘発する要因を避け、急性呼吸不全に至る前に対応することが重要です。

生活上の注意点

  • 喫煙の完全中止
  • 感染症予防(インフルエンザ、肺炎球菌、COVID-19ワクチン接種)
  • 風邪症状の早期対応と受診
  • 職業性粉塵や有害化学物質の曝露回避

基礎疾患の管理

  • 自己免疫疾患、膠原病の活動性の抑制
  • 薬剤性肺炎の早期発見と休薬

高リスク患者の注意

  • 既存の間質性肺炎患者では急性増悪の予防が重要
  • 定期的な呼吸機能検査と画像検査によるモニタリング

予防は難しいものの、発症後の早期診断と集中治療への導入が予後改善に直結します。

関連する病気や合併症

AIPは多くの疾患と病態の境界に位置し、以下のような疾患との鑑別や合併が重要です。

鑑別すべき疾患

  • ARDS(明確な原因がある急性呼吸不全)
  • 急性増悪型IPFやNSIP
  • 薬剤性肺障害
  • 感染性肺炎(特にウイルス性)
  • 自己免疫疾患による肺障害(急性型膠原病肺)

合併しやすい疾患・状態

  • 多臓器不全:低酸素血症が全身に影響
  • 急性腎障害(AKI):低灌流や感染の影響
  • 循環不全:呼吸器からの波及による血圧低下、ショック
  • DIC(播種性血管内凝固症候群):重症感染や炎症に伴う合併症

治療関連の合併症

  • ステロイド副作用(感染、高血糖、消化管障害など)
  • 人工呼吸器合併症(気胸、人工呼吸器関連肺炎)

診断と治療には、呼吸器科、集中治療科、感染症科、膠原病内科など多科の連携が求められます。

症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。

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■ 参考・出典

■ この記事を監修した医師

石井 誠剛医師 イシイ内科クリニック

近畿大学 医学部 卒

近畿大学医学部卒後、済生会茨木病院で研修を行い、日本生命病院で救急診療科、総合内科勤務。
その後、近畿中央呼吸器センターで勤務後、西宮市立中央病院呼吸器内科で副医長として勤務。
イシイ内科クリニックを開設し、地域に密着し、 患者様の気持ちに寄り添った医療を提供。

日本生命病院では総合内科医として様々な内科診療に携わり、近畿中央呼吸器センターでは呼吸器の専門的な治療に従事し、 西宮市立中央病院では呼吸器内科副医長として、地域医療に貢献。
抗加齢学会専門医として、アンチエイジングだけを推し進めるのではなく、適切な生活指導と内科的治療でウェルエイジングを提供していくことを目指している。

  • 公開日:2025/07/08
  • 更新日:2025/07/16

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