サイトメガロウイルス肺炎さいとめがろういるすはいえん

サイトメガロウイルス(CMV)肺炎は、主に免疫抑制状態のある患者に発症する重篤なウイルス性肺炎で、発熱や呼吸困難などを引き起こします。臓器移植後やがん治療中の患者に多く、早期診断と抗ウイルス薬による迅速な治療が必要です。

サイトメガロウイルス肺炎

サイトメガロウイルス肺炎とは?

サイトメガロウイルス(CMV)肺炎とは、ヘルペスウイルス科に属するサイトメガロウイルスによって引き起こされるウイルス性肺炎です。CMVは広く一般に存在するウイルスで、多くの人が幼少期に一度は感染し、生涯にわたり体内に潜伏し続けます。

健康な人では再活性化しても無症状または軽度の感冒様症状で済みますが、免疫抑制状態にある人ではウイルスが再活性化し、全身性の重篤な感染症を引き起こすことがあります。CMV肺炎はその代表的な病態であり、特に以下のような患者に多く見られます。

  • 臓器移植や造血幹細胞移植後
  • がん化学療法や放射線治療中
  • HIV/AIDSなどの免疫不全状態
  • ステロイドや免疫抑制剤の長期使用中

CMV肺炎は進行が速く、治療が遅れると致命的となる可能性があります。したがって、免疫不全患者における発熱や呼吸器症状がみられた際には、速やかに本疾患を疑い、精査と治療を開始することが重要です。

原因

CMV肺炎の原因は、サイトメガロウイルス(Human herpesvirus 5:HHV-5)による肺組織への感染です。CMVは体液(唾液、尿、精液、母乳、輸血など)を介して感染し、初感染後は終生体内に潜伏感染として存在します。

感染形式

  • 初感染:通常は軽症で、成人では風邪に類似した症状が出ることがあります
  • 再活性化:免疫力の低下により潜伏していたウイルスが再活性化し、肺炎などの臓器障害を引き起こします

好発する背景

  • 造血幹細胞移植後(特にT細胞除去ドナーからの移植)
  • 固形臓器移植後(特に肺移植)
  • HIV/AIDS患者(CD4陽性T細胞が極端に低下している状態)
  • 悪性腫瘍の治療中(白血病、悪性リンパ腫など)
  • 自己免疫疾患で免疫抑制薬を使用中の患者

感染経路

  • 体液を介した直接感染
  • 輸血や移植による間接感染
  • 母子感染(胎内、分娩時、授乳など)

感染後に肺胞細胞や間質にウイルスが増殖し、広範な炎症と組織障害を引き起こすことで肺炎が発症します。特に移植後の免疫抑制が強い時期にはリスクが高まります。

症状

CMV肺炎の症状は急性に進行することが多く、特に免疫力の低下した状態では重篤な呼吸器症状を伴います。以下のような症状がみられます。

全身症状

  • 発熱(38℃以上の高熱が持続)
  • 倦怠感、脱力感
  • 食欲不振
  • 体重減少(長期化した場合)

呼吸器症状

  • 乾いた咳(痰を伴わないことが多い)
  • 呼吸困難、息切れ
  • 胸部不快感、胸痛(吸気時に痛むことも)
  • 低酸素血症(進行例では酸素飽和度の低下が顕著)
  • 呼吸数の増加(頻呼吸)

進行時の症状

  • 呼吸不全(人工呼吸管理が必要になることも)
  • びまん性肺胞障害による急性呼吸窮迫症候群(ARDS)

特有の臓器合併症(肺炎に加えて)

  • 肝炎、腸炎、網膜炎、脳炎などを併発することがある
  • これらの症状が重なり、全身状態の悪化を招くこともある

高リスク群での特徴

  • 免疫抑制下では炎症反応が乏しく、初期症状が軽微なことがある
  • 症状が進行してから発見されることが多く、診断が遅れがち

CMV肺炎の症状は非特異的で、細菌性肺炎や他のウイルス性肺炎、薬剤性肺障害、肺水腫などとの鑑別が難しいため、免疫不全状態の患者に呼吸器症状が出現した場合には、CMV肺炎を念頭に置いて早期に検査を行うことが重要です。

診断方法と治療方法

診断

CMV肺炎の診断は、画像所見、ウイルス検出、免疫状態などを総合して行います。

  1. 胸部画像検査
    ・胸部X線:びまん性の浸潤影、間質性陰影がみられる
    ・胸部CT:両側性のすりガラス陰影、結節性陰影、間質性肺炎様変化など。早期診断に有用
  2. ウイルス検査
    ・血液中のCMV-DNAまたは抗原(pp65抗原)をPCR法や抗原検出法で測定
    ・気管支肺胞洗浄液(BAL)や肺組織生検でのCMVの同定が診断確定に重要
  3. 血液検査
    ・白血球減少、リンパ球減少、CRPやLDHの上昇
    ・免疫抑制状態の評価(CD4陽性T細胞数など)
  4. 鑑別診断
    ・他の肺炎(細菌性、真菌性、薬剤性、放射線性など)との鑑別が必要

治療

  1. 抗ウイルス療法
    ・第一選択薬:ガンシクロビル(静注)またはバルガンシクロビル(経口)
    ・重症例ではガンシクロビルの静注が標準的
    ・腎機能障害に注意が必要で、血中濃度のモニタリングが重要
    ・抵抗性CMVにはフォスカルネットやシドフォビルが用いられることも
  2. 免疫抑制の調整
    ・可能な範囲で免疫抑制薬の減量を検討
    ・移植後や化学療法中の場合は慎重な調整が必要
  3. 対症療法
    ・酸素投与、ステロイド使用(適応例に限る)
    ・水分・栄養補給、呼吸管理、抗菌薬の併用(他感染の予防)

予防策

  • 移植患者には抗ウイルス薬による予防投与(予防的または先制療法)
  • 血液製剤のCMV陰性使用、白血球除去フィルターの活用

早期の診断と治療介入が、生命予後と臓器機能の維持に直結します。

予後

サイトメガロウイルス肺炎は、特に免疫抑制状態にある患者において重篤な経過をたどることがあり、早期の診断と適切な治療が予後を大きく左右します。

良好な予後の条件

  • 早期発見と治療開始(症状出現から48時間以内が理想)
  • 抗ウイルス薬に対する感受性がある
  • 全身状態が比較的安定している
  • 免疫抑制の程度が軽度〜中等度である

不良な予後のリスク

  • 治療開始の遅れ
  • 抗ウイルス薬に対する耐性ウイルスの出現
  • 多臓器不全の合併
  • 移植後の免疫抑制が強い状態
  • HIV感染における極端なCD4低下

CMV肺炎が重症化すると、人工呼吸器管理が必要になることもあり、死亡率も高くなります。特に肺移植患者では予後への影響が大きいため、予防的治療と定期的なウイルスモニタリングが必須です。

予防

CMV肺炎は、発症予防が非常に重要な感染症であり、とくに免疫抑制状態の患者では予防対策が必須です。

予防投与(予防的治療)

  • 移植後の患者に対して、バルガンシクロビルなどの抗ウイルス薬を一定期間内服し、発症を防ぐ方法
  • 肝移植や肺移植では標準的な予防策とされている

先制療法(preemptive therapy)

  • 血液中のCMV-DNAや抗原を定期的に測定し、上昇がみられた時点で治療を開始する方法
  • 副作用を抑えながら、効果的なタイミングで治療可能

その他の対策

  • CMV陰性の血液製剤の使用
  • 白血球除去処理された輸血
  • 感染対策としての標準予防策(手指衛生、マスク使用)
  • 免疫抑制薬の量や期間の見直し(必要に応じて)

これらを組み合わせることで、CMV肺炎の発症リスクを最小限に抑えることができます。

関連する病気や合併症

CMV肺炎は単独で重篤な疾患であると同時に、他の疾患や合併症と深く関連します。

CMV関連疾患(全身性CMV感染症)

  • CMV腸炎:下痢、腹痛、消化管出血を伴う
  • CMV肝炎:肝酵素上昇、黄疸
  • CMV脳炎:意識障害、けいれん、頭痛
  • CMV網膜炎:視力低下や失明に至ることも(特にAIDS患者)

肺炎との合併症

  • ARDS(急性呼吸窮迫症候群):肺炎の進行によって発症
  • 細菌や真菌との混合感染(緑膿菌、アスペルギルスなど)
  • 肺出血、肺線維症などの遷延性肺障害

基礎疾患との関係

  • 骨髄抑制、腎障害(抗ウイルス薬の副作用)
  • がん化学療法中の治療遅延
  • 臓器移植の拒絶反応との鑑別が困難になることも

CMV肺炎は全身に波及するリスクがあるため、単なる肺炎とは異なる重症感染症として、包括的かつ迅速な対応が求められます。

症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。

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■ 参考・出典

■ この記事を監修した医師

石井 誠剛医師 イシイ内科クリニック

近畿大学 医学部 卒

近畿大学医学部卒後、済生会茨木病院で研修を行い、日本生命病院で救急診療科、総合内科勤務。
その後、近畿中央呼吸器センターで勤務後、西宮市立中央病院呼吸器内科で副医長として勤務。
イシイ内科クリニックを開設し、地域に密着し、 患者様の気持ちに寄り添った医療を提供。

日本生命病院では総合内科医として様々な内科診療に携わり、近畿中央呼吸器センターでは呼吸器の専門的な治療に従事し、 西宮市立中央病院では呼吸器内科副医長として、地域医療に貢献。
抗加齢学会専門医として、アンチエイジングだけを推し進めるのではなく、適切な生活指導と内科的治療でウェルエイジングを提供していくことを目指している。

  • 公開日:2025/07/16
  • 更新日:2025/07/16

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