漏斗胸(胸郭変形)ろうときょう

漏斗胸は胸骨が内側に凹む胸郭の先天性変形で、見た目だけでなく、心肺機能にも影響を及ぼすことがあります。多くは小児期に発症し、成長とともに進行するため、重症例では手術を検討します。ナス法などの矯正術が有効です。

漏斗胸

漏斗胸とは?

漏斗胸(ろうときょう)は、胸骨の中央部が内側に凹み、胸郭全体が漏斗のように変形する先天性の胸郭変形です。英語では「pectus excavatum」と呼ばれ、日本でも一定の頻度で見られます。出生時から確認されることもありますが、多くは乳幼児期から小児期にかけて変形が明らかになります。

胸郭は本来、胸骨、肋骨、胸椎からなる骨格構造で、心臓や肺などの重要な臓器を守り、呼吸に関与しています。漏斗胸では、胸骨の中央が過剰に沈み込むことで、心臓や肺が圧迫されることがあり、特に運動時に症状が顕著になることがあります。

軽症の場合は外見上の問題だけで、生活に支障をきたさないことも多いですが、重症例では心肺機能の低下を引き起こす可能性があり、手術などの積極的な治療介入が必要になることがあります。

また、思春期以降では見た目を気にすることで自己意識が強くなり、心理的な影響を受けることも少なくありません。近年では、低侵襲手術の選択肢が増え、より多くの患者が早期に治療を受けやすくなっています。

原因

漏斗胸は主に先天的な構造異常によって発症しますが、発生には遺伝的要因と発達的要因の双方が関与すると考えられています。

先天性の原因

  • 漏斗胸は出生時にすでに存在するか、乳幼児期に明らかになることが多く、先天性奇形として分類される
  • 明確な遺伝形式は不明だが、家族内発症の報告が多く、遺伝的素因が疑われる
  • 結合組織異常(マルファン症候群など)を伴う場合もあり、これらの患者では漏斗胸の頻度が高いとされている

成長に伴う発症・進行

  • 骨と軟骨の発達バランスが崩れることにより、胸骨が内方に成長してしまうことがある
  • 思春期の急激な成長期に変形が進行する傾向がある

後天的要因(まれ)

  • 胸部外傷や重症のくる病などで骨の発達に影響が生じ、二次的に胸郭変形を起こすことがある
  • 長期の胸部疾患や姿勢の悪さが変形を助長するという報告もあるが、直接的な因果関係は確立されていない

漏斗胸の形成には、胸骨および肋軟骨の成長異常が中心に関与していると考えられており、その程度や発症時期には個人差があります。診断においては、変形の程度や心肺機能への影響を慎重に評価する必要があります。

症状

漏斗胸の症状は、変形の程度によって大きく異なります。軽度では外見上の凹み以外に症状を感じにくいことが多いですが、重度の場合は呼吸・循環器系に影響を及ぼすことがあります。

外見上の特徴

  • 胸の中央(胸骨下部)が内側に凹んでいる
  • 肋骨が変形して広がって見える
  • 猫背などの姿勢異常がみられることもある

呼吸器症状

  • 労作時の息切れ、呼吸困難
  • 呼吸が浅くなる
  • 呼吸のリズムが乱れやすい

循環器症状

  • 心臓が胸骨により圧迫されることによる動悸
  • 運動後の疲労感、胸痛
  • 起立性低血圧や不整脈を伴うこともある

心肺機能への影響

  • 変形による胸腔の狭小化により、肺の拡張が制限される
  • 心臓が左に偏位することで、心拍出量が低下する可能性がある
  • 肺活量や酸素摂取能力の低下がみられることもある

小児における影響

  • 運動能力の低下や体育活動の制限
  • 肺炎や気管支炎などの呼吸器感染症にかかりやすくなることがある

心理的影響

  • 外見を気にして姿勢が悪くなる
  • 対人関係におけるコンプレックスや自己肯定感の低下
  • 特に思春期に強い心理的ストレスを感じることが多い

出現時期

  • 多くは乳児期〜学童期に明らかになる
  • 思春期の成長スパート期に顕著化しやすい

症状が日常生活に支障をきたす場合や、客観的に心肺機能低下が確認される場合には、早期の治療介入が推奨されます。

診断方法と治療方法

診断

  1. 身体診察
    ・胸部の外観観察により漏斗胸が疑われる
    ・呼吸音、心音、姿勢の確認
  2. 胸部X線撮影
    ・胸骨の凹みの程度と肺野の広がりを確認
    ・心臓の偏位や胸郭内臓器の圧迫の有無を評価
  3. 胸部CT検査
    ・凹みの深さと広がりを三次元的に評価
    ・ヘラー指数(胸郭前後径/胸骨凹み最深部から背骨までの距離):3.25以上で手術適応の参考となる
  4. 心エコー検査
    ・心臓の圧迫や機能低下、不整脈の有無を調べる
    ・左室駆出率や心拍出量などを確認
  5. 呼吸機能検査
    ・肺活量、1秒量などを測定し、換気能力の評価
    ・軽度〜中等度の障害を示す場合もある
  6. 心電図、運動負荷試験
    ・運動時の心電図変化や心拍数の変動を評価
    ・動悸や胸痛の訴えがある場合に有用

治療

  1. 経過観察
    ・軽症で症状がない場合は経過観察
    ・定期的な身体計測と画像検査で進行を確認
  2. 体幹トレーニング、姿勢矯正
    ・呼吸法、筋力トレーニング、背筋の強化
    ・軽症例ではこれらにより姿勢改善と見た目の改善が得られることがある
  3. 手術治療(外科的矯正)
    ・ナス法(Nuss法):金属バーを胸郭内に挿入し、内側から胸骨を持ち上げて矯正する低侵襲手術
    ・ラヴィッチ法(Ravitch法):変形した肋軟骨を切除し、胸骨を前方に固定
    ※選択は年齢、重症度、施設の方針による
  4. 精神的サポート
    ・見た目へのコンプレックスに対する心理的ケア
    ・カウンセリングや家族支援も重要

手術は多くの場合、小児期から思春期にかけて行われますが、成人でも手術可能なケースがあります。

予後

漏斗胸の予後は、変形の重症度、心肺機能への影響、手術時期などによって異なります。適切な治療を受けた場合、多くの例で機能・外観ともに改善が期待されます。

手術後の経過

  • ナス法では1〜3年でバーを抜去することが多く、退院後も良好な形状が保たれる
  • 術後は心肺機能の改善、呼吸困難や動悸の軽減がみられることが多い

予後良好の要因

  • 早期の診断と治療介入
  • 思春期以前の矯正手術
  • 術後の生活習慣や運動習慣の改善

予後不良の要因

  • 重度変形で手術を受けていない場合
  • 他の疾患(結合組織疾患など)を伴う場合
  • 自己管理の不足や再発防止対策の不十分さ

心理的予後

  • 見た目の改善により自己肯定感が向上
  • 社会生活への影響(いじめ、就労面の不安)が軽減されることが多い

漏斗胸は命に関わる疾患ではありませんが、日常生活や精神面に大きな影響を与えるため、早期の適切な治療とフォローアップが重要です。

予防

漏斗胸は主に先天性の胸郭変形であるため、発症自体を予防する明確な方法はありません。ただし、症状の進行や悪化を防ぐ生活習慣の工夫は有効です。

一次予防(発症予防)

  • 明確な予防法はないが、結合組織疾患との関連があるため、家族歴がある場合は注意深く経過を見る必要がある

二次予防(進行予防)

  • 正しい姿勢の維持(猫背や前屈みの姿勢を避ける)
  • 体幹の筋力トレーニング(背筋、腹筋のバランスを整える)
  • 深呼吸や呼吸法のトレーニング(胸郭の可動性を高める)

医療機関でのフォロー

  • 小児期の定期健診で早期発見を促進
  • 家族や学校が胸郭変形に気づいたら早期受診を勧める

精神的ケア

  • 外見に対する過度な自己否定を防ぐ環境作り
  • 思春期の心のケアとカウンセリング

予防というよりも、早期発見と適切な対応によって、心身の成長を支えることが漏斗胸の管理の鍵となります。

関連する病気や合併症

漏斗胸は単独でも心肺機能に影響を及ぼすことがありますが、他の疾患と合併している場合には、管理が複雑になります。

関連疾患

  • マルファン症候群:結合組織疾患で漏斗胸を高頻度に合併
  • エーラス・ダンロス症候群:皮膚の過伸展性や関節の過可動性を伴う先天疾患
  • 脊柱側弯症:姿勢の歪みが胸郭に影響しやすい

心肺合併症

  • 肺活量の低下:肺の拡張が妨げられることによる
  • 左心偏位や心拍出量の低下
  • 動悸や不整脈、起立性低血圧

精神・社会的影響

  • 自己肯定感の低下、抑うつ、不安障害
  • 学業や職業選択への影響(運動制限や見た目の問題)

手術関連合併症

  • 創部感染、金属バーの逸脱
  • 術後疼痛、肋骨骨折、再発

再発リスク

  • 骨の成長が完了していない時期に手術を行った場合に再発の可能性あり
  • 術後の生活習慣(姿勢や運動)によっても左右される

漏斗胸の治療では、全身状態と心理的側面の両方を把握し、多角的なケアを行うことが求められます。

症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。

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■ 参考・出典

■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック

近畿大学 医学部 卒

近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。

「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。 医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。 医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。

  • 公開日:2025/07/16
  • 更新日:2025/07/16

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