糖尿病性神経障害とうにょうびょうせいしんけいしょうがい

糖尿病性神経障害は、慢性的な高血糖によって末梢神経や自律神経が障害される糖尿病の三大合併症のひとつです。手足のしびれや痛みに加えて、胃腸や膀胱の機能にも影響が出ることがあります。血糖管理と適切な対症療法が重要です。

糖尿病性神経障害とは?

糖尿病性神経障害とは、長期間にわたる高血糖状態によって神経が傷害される、糖尿病の代表的な合併症の一つです。糖尿病が続くと、全身の神経に血流障害や代謝異常が起こり、感覚や運動、自律神経の機能がさまざまな形で障害されます。

この障害は「末梢神経障害」と「自律神経障害」に大きく分けられます。初期には手足のしびれや感覚異常が出現し、進行すると痛みや筋力低下、さらには心臓や消化器、膀胱などの機能にも影響を与える「全身性の疾患」へと発展します。

日本人の糖尿病患者の約30〜50%に認められると言われており、生活の質(QOL)を著しく低下させる要因になります。早期発見と治療、何よりも血糖コントロールが中心となる疾患です。

原因

糖尿病性神経障害の主な原因は、持続する高血糖による神経への血流障害と代謝異常です。高血糖によって神経の栄養となる毛細血管が傷つき、酸素や栄養が届きにくくなり、神経が徐々に損傷していきます。

主なメカニズム

  • ソルビトール代謝:高血糖によりグルコースがソルビトールに変換され、神経内に蓄積して浮腫や酸化ストレスを引き起こす
  • 血流障害:毛細血管が損傷し、神経への酸素・栄養供給が低下
  • 酸化ストレス:高血糖が活性酸素を増加させ、神経組織を傷害
  • タンパク質糖化(AGEs):神経や血管壁の硬化を進める

悪化因子

  • 長期間の高血糖
  • 高血圧や脂質異常症
  • 喫煙
  • 過度の飲酒
  • 栄養障害(ビタミンB群不足など)

血糖コントロール不良が最も強いリスク因子であり、早期からの介入が求められます。

症状

症状は神経の種類によって異なり、感覚障害・運動障害・自律神経障害として現れます。初期症状は軽く、気づかれないこともありますが、進行すると日常生活に大きな影響を及ぼします。

感覚神経障害

  • 手足のしびれや痛み(特に足の裏から始まる)
  • 感覚鈍麻:触った感覚や温度がわかりにくくなる
  • 焼けるような痛み、ピリピリした感覚(異常感覚)
  • こむら返りや筋肉のぴくつき

運動神経障害

  • 筋力低下
  • 歩行困難、つまずきやすさ

自律神経障害

  • 起立性低血圧(立ちくらみ)
  • 発汗異常(無汗、多汗)
  • 胃腸の不調(胃もたれ、便秘、下痢)
  • 膀胱機能障害(頻尿、尿失禁、排尿困難)
  • 性機能障害(勃起不全)

特に足の感覚低下は潰瘍や壊疽のリスクを高め、切断に至ることもあるため注意が必要です。

診断方法と治療方法

診断

  • 問診と自覚症状の確認:しびれ、痛み、感覚低下など
  • 神経学的検査
    - 腱反射、振動覚、温度・触覚などの感覚評価
    - 足底反応、圧迫感覚の検査
  • 自律神経検査
    - 起立性血圧変化テスト
    - 心拍変動測定(心電図)
  • 神経伝導速度検査(NCS):神経の伝達スピードを調べる
  • 皮膚血流・発汗機能検査(QSART)など

治療

  • 血糖コントロールの改善:HbA1cの目標達成が最も重要
  • 対症療法
    - 末梢神経の痛みにはプレガバリン、デュロキセチンなどの薬物治療
    - 自律神経症状に対しては、便秘薬、消化管運動促進薬、排尿調整薬など
  • 生活習慣改善:禁煙、飲酒制限、ビタミンB群の補給など
  • 足病変の予防:適切な靴の選択と足のケア(フットケア)

早期の診断と継続的な治療が合併症の進行を防ぎます。

予後

糖尿病性神経障害の予後は、早期の診断と血糖管理、適切な対症療法により大きく左右されます。完全に元に戻すことは難しいものの、進行を止めたり、症状を軽減することは可能です。

予後が良好なケース

  • 発症早期で治療開始できた場合
  • 血糖、血圧、脂質が良好にコントロールされている
  • 生活習慣の見直しを継続している
  • 定期的に神経機能の評価が行われている

予後が悪化しやすいケース

  • 長期間にわたる高血糖状態
  • 痛みが強く睡眠障害や抑うつを引き起こす場合
  • 自律神経障害が高度で、日常生活に支障がある
  • 足潰瘍や感染症を繰り返す

進行を止めることが治療の目標となり、医療機関との連携が欠かせません。

予防

糖尿病性神経障害は、発症してしまうと完治が難しいため、何よりも予防が重要です。血糖の良好なコントロールを維持することで、発症や進行を防ぐことができます。

主な予防策

  • 血糖値のコントロール:HbA1c7.0%未満を目安に
  • 高血圧・脂質異常症の管理:神経障害の悪化を防ぐ
  • 禁煙:毛細血管への血流を改善
  • 栄養バランスの良い食事と適度な運動の継続
  • アルコール制限:特に多量飲酒は神経障害を悪化させる
  • ビタミンB群などの栄養補給:神経の修復に必要

フットケアの重要性

  • 足の観察を毎日行う(傷、色の変化、水ぶくれなど)
  • 乾燥やかかとのひび割れを防ぐための保湿
  • 清潔な靴下と足に合った靴の着用

日常生活の中での小さな注意が、大きな予防につながります。

関連する病気や合併症

糖尿病性神経障害は、他の糖尿病合併症とも深く関連しており、放置すれば全身にさまざまな影響を与えます。特に足の病変や自律神経障害に伴う疾患には注意が必要です。

関連する病気・合併症

  • 糖尿病足病変:感覚低下による傷の悪化、潰瘍、壊疽、切断リスク
  • 糖尿病性腎症:神経障害との併発率が高く、腎不全へ進行
  • 糖尿病網膜症:視力低下や失明の原因
  • 心筋梗塞・脳梗塞:自律神経障害による血圧・心拍の乱れが背景
  • 排尿障害による尿路感染症や腎盂腎炎
  • 起立性低血圧による転倒・骨折
  • 不整脈や無自覚性低血糖:心拍変動の低下により危険が増す

他の合併症と合わせて管理・予防することが重要です。

症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。

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■ 参考・出典

日本糖尿病学会「糖尿病合併症診療ガイドライン」(https://www.jds.or.jp/)

国立国際医療研究センター「糖尿病の合併症と神経障害」(https://www.ncgm.go.jp/)

日本内科学会「内科学書 第11版」

■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック

近畿大学 医学部 卒

近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。

「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。 医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。 医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。

  • 公開日:2025/07/16
  • 更新日:2025/07/16

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