自然気胸しぜんききょう
自然気胸は、外傷や医療処置を伴わずに突然肺から空気が漏れ、胸腔に貯留することで肺が虚脱する疾患です。若年男性に多い原発性と、肺疾患を基礎とする続発性に分かれ、治療は安静から手術まで多様です。再発予防も重要な課題です。
-7.jpg)
自然気胸とは?
自然気胸とは、外傷や医療的処置などの明確な誘因なしに、肺から漏れ出た空気が胸腔内に貯留し、肺が虚脱する状態を指します。肺が収縮し、換気が不十分となることで、呼吸困難や胸痛などの症状を引き起こします。
自然気胸は大きく「原発性自然気胸」と「続発性自然気胸」に分類されます。原発性は、明らかな肺疾患がない若年痩せ型男性に多く見られ、肺の表面に形成された小さな嚢胞(ブラ)の破裂が原因と考えられています。一方、続発性はCOPD(慢性閉塞性肺疾患)、間質性肺炎、肺結核などの基礎疾患を有する高齢者や慢性呼吸器疾患患者に発生しやすく、重症化のリスクが高いとされます。
診断は画像検査(胸部X線、CT)によって行われ、軽度であれば自然治癒することもありますが、再発や重度の肺虚脱がある場合には胸腔ドレナージや外科的治療(胸腔鏡下手術)を行う必要があります。
再発率が高く、初回発症時から再発予防を見据えた治療方針の検討が求められます。
原因
自然気胸は、肺の表面にできた脆弱な部分が破れることで空気が胸腔内に漏れ出し、発生します。その原因は肺疾患の有無によって分類され、異なります。
原発性自然気胸の原因
- 肺に明らかな基礎疾患を認めない
- 肺尖部に存在するブラ(小嚢胞)が破裂することで発生
- 喫煙者に多く、痩せ型で背の高い10代〜30代男性に好発
- 遺伝的要因や成長期における肺尖部の伸展性不均衡が関与と推定される
続発性自然気胸の原因
- 基礎疾患を持つ患者に発生する気胸
- 代表的な疾患
-COPD(肺気腫)
-間質性肺炎(特に特発性肺線維症)
-肺結核、非結核性抗酸菌症
-肺癌、転移性肺腫瘍
-LAM(リンパ脈管筋腫症)、BHD症候群などの稀な肺疾患
その他の要因
- 高度な咳嗽や息み
- 気圧変化(登山、飛行機、潜水など)
- 喫煙(ブラの形成と破裂を促進)
続発性自然気胸では肺機能がもともと低下しているため、軽度の気胸でも重篤な呼吸不全を引き起こすことがあり、入院加療が必要です。
症状
自然気胸の症状は、気胸の程度、進行の速度、基礎疾患の有無によって異なります。典型的には突然の胸痛と呼吸困難が主症状です。
主な症状
- 突発的な片側胸痛(胸部の鋭い痛み)
- 呼吸困難(軽度~中等度が多い)
- 乾いた咳(刺激性の咳)
- 肩や背中への放散痛
- 片側胸郭の動きの低下
- 脱力感、倦怠感
身体所見
- 患側の呼吸音の減弱または消失(聴診)
- 打診で鼓音(空気が胸腔に貯まっている所見)
- 健側への気管偏位(緊張性気胸への進展例)
- 頻呼吸、チアノーゼ(重症例)
- SpO₂の低下
原発性自然気胸の特徴
- 若年男性に多く、活動中や入浴中に症状が出現することが多い
- 軽症例では無症状で偶然発見されることもある
続発性自然気胸の特徴
- 基礎疾患(COPD、間質性肺炎など)による呼吸機能の低下があり、軽度でも強い呼吸困難を呈する
- 高齢者では胸痛が乏しく、食欲低下や意識障害で発見される例も
症状の進行
- 軽度の場合は自然軽快することもあるが、空気漏れが続くと肺の虚脱が進行
- 緊張性気胸に至ると循環不全や意識障害などの致命的状態となる
症状が軽度でも、初発時の評価と適切な治療選択が重要です。特に続発性の場合は、わずかな気胸でも迅速な対応が求められます。
診断方法と治療方法
診断
- 問診・身体所見
・突然の胸痛、呼吸困難の有無
・喫煙歴、既往歴、基礎疾患(COPD、間質性肺炎など)
・片側の胸郭運動の低下、呼吸音減弱、打診で鼓音 - 胸部X線検査
・肺野の透過性亢進(虚脱した肺と胸腔内の空気)
・肺尖部にブラの存在を示唆する陰影
・縦隔偏位の有無(緊張性気胸の所見) - 胸部CT検査
・微小な気胸や再発予防の評価に有用
・ブラや肺嚢胞の有無、肺の構造異常を詳細に評価
・続発性気胸では基礎疾患の確認も目的 - 血液ガス分析(中等症以上)
・PaO₂の低下、呼吸性アルカローシスなどを確認
・低酸素血症の程度によって酸素療法の適応を判断
治療
- 保存的療法(軽度例)
・安静、経過観察(自然吸収を待つ)
・酸素投与により再膨張を促進(高濃度酸素は吸収促進効果あり)
・X線で縮小傾向を確認しながら数日間経過観察 - 胸腔ドレナージ
・肺の虚脱が中等度以上、症状が強い、空気漏れが持続する例で施行
・ドレーン留置後に持続吸引を行うこともある - 外科的治療(再発例・持続気漏例)
・胸腔鏡下手術(VATS):ブラの切除、肺部分切除、胸膜癒着術など
・若年例でも初発から手術を検討することがある(特に再発予防の観点から - 化学的胸膜癒着術
・再発例または手術不能例で行う
・ミノサイクリンやタルクを胸腔内に注入し、胸膜を癒着させることで再発防止
治療方針は、症状、気胸の大きさ、再発リスク、患者の全身状態を総合的に判断して決定されます。
予後
自然気胸の予後は、原発性か続発性か、初発か再発か、治療介入の適時性によって異なります。多くは良好に経過しますが、再発や合併症の管理が必要です。
原発性自然気胸
- 予後は基本的に良好
- 自然治癒も可能な軽症例が多い
- ただし再発率は約30〜50%と高く、両側性や短期間での再発は手術検討
続発性自然気胸
- 基礎疾患があるため重症化しやすい
- わずかな気胸でも呼吸不全に陥ることがある
- 予後は基礎疾患の進行状況に依存する
予後不良のリスク因子
- 高齢者、COPDや間質性肺炎の併存
- 長期の気漏持続(7日以上)
- 緊張性気胸への進展
後遺症
- 手術後の胸膜癒着により拘束性換気障害が残ることがある
- 肺機能低下がある場合はリハビリや酸素療法が必要になることも
再発予防と合併症管理が、長期予後改善のカギとなります。
予防
自然気胸の完全な予防は困難ですが、再発予防や発症リスクの低減は可能です。以下に主な予防策を示します。
一次予防(発症リスクの軽減)
- 禁煙の徹底(特に若年男性では重要)
- 痩せすぎの体型改善(適正体重の維持)
- 高所、飛行機搭乗、潜水などの環境変化を避ける(高リスク者)
二次予防(再発予防)
- 再発例では手術(VATS)による再発防止が有効
- 両側性や短期間での再発は積極的な外科的治療を検討
- 手術が難しい例では化学的癒着療法を考慮
日常生活での注意
- 咳を避ける(慢性咳嗽のコントロール)
- 重労働や過度の呼吸運動を避ける
- 定期的な胸部X線や診察で早期発見を心がける
生活指導とともに、医療機関との継続的な連携が再発予防には不可欠です。
関連する病気や合併症
自然気胸は他の疾患と合併または鑑別が必要なことが多く、以下のような病態との関連が知られています。
関連疾患
- COPD(肺気腫型):肺胞破壊による気胸のリスク増加
- 間質性肺炎(IPFなど):肺線維化に伴う嚢胞の破裂
- 肺結核:空洞形成部位から気胸発生
- Langerhans細胞組織球症、LAM、BHD症候群などの稀な肺疾患
鑑別が必要な疾患
- 心筋梗塞:左胸痛で混同されることがある
- 肺血栓塞栓症:突然の呼吸困難との鑑別
- 気管支喘息発作:呼吸困難と胸痛が主訴となることあり
合併症
- 緊張性気胸:致死的となるため迅速な処置が必要
- 皮下気腫:空気が皮下組織に漏れることで出現
- 再膨張性肺水腫:ドレナージ後の急速な肺膨張に伴う合併症
手術関連合併症
- 気漏の遷延
- 創部感染、出血
- 術後の胸膜癒着による拘束性肺障害
合併症や再発を防ぐためには、発症後の丁寧な経過観察と適切なフォローアップが不可欠です。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
クラウドドクターの
オンライン診療
クラウドドクターのオンライン診療
クラウドドクターでは、問診内容を元に全国から適したドクターがマッチングされ、あなたの診療を行います。診療からお薬の処方までビデオ通話で受けられるため、お忙しい方にもおすすめです。
-
いつでも診療OK
24時間365日 -
ご利用可能
保険診療が -
お薬の受取り可能
お近くの薬局やご自宅で
■ 参考・出典
- 日本呼吸器学会「気胸診療ガイドライン」(https://www.jrs.or.jp/)
- MSDマニュアル プロフェッショナル版「自然気胸」(https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional)
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「気胸」(https://kennet.mhlw.go.jp/home)
■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。
「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。
医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。
医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。
- 公開日:2025/07/16
- 更新日:2025/07/16
クラウドドクターは24時間365日対応
現在の待ち時間
約3分