大腸憩室症だいちょうけいしつしょう
大腸憩室症は、大腸の壁の一部が袋状に外側へ突出する病態で、主に高齢者に多くみられます。多くは無症状ですが、炎症や出血を伴うと腹痛や発熱、血便などの症状が出現します。食物繊維不足や加齢による腸壁の脆弱化、便秘などが原因とされ、日常の生活習慣改善が予防に有効です。
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大腸憩室症とは?
大腸憩室症とは、大腸の壁の一部が外側に袋状に突出した「憩室(けいしつ)」が複数形成された状態を指します。憩室は腸管の弱い部分に内圧がかかることで形成されると考えられており、特に高齢者に多くみられます。
憩室が存在するだけで症状のないものを「憩室症(diverticulosis)」と呼び、炎症や出血などの合併症がある状態を「憩室炎(diverticulitis)」と呼びます。日本人では主に右側(上行結腸)に多く、欧米では左側(下行結腸、S状結腸)に多いとされます。
憩室自体は良性の構造異常であり、多くの場合は無症状のまま経過しますが、憩室に便や細菌が溜まり炎症を起こすと、急性腹症として現れることもあります。
原因
大腸憩室の形成には、主に腸内圧の上昇と腸壁の脆弱化が関与していると考えられています。以下が代表的な要因です。
食生活の変化
- 低食物繊維食:野菜や果物、豆類などの摂取不足により便の量が減少し、腸内圧が上昇
- 精製された炭水化物中心の食事が長期化することで腸の蠕動(ぜんどう)運動が乱れる
加齢
- 年齢を重ねることで腸管壁が弱くなり、内圧に耐えきれず突出しやすくなる
- 大腸壁の結合組織の劣化も関与
便秘・腹圧の上昇
- 慢性的な便秘、いきみの習慣などが腸内圧を高め、憩室の形成を助長
遺伝的要因・体質
- 家族歴がある場合、憩室症を発症しやすいとされる
薬剤・生活習慣
- 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やステロイドの長期使用もリスク因子
- 運動不足、肥満、喫煙との関連も報告されています
これらの要因が複合的に重なり、特に高齢者を中心に大腸憩室症の発症が増加しています。
症状
大腸憩室症の多くは無症状で、健康診断や大腸内視鏡検査、CT検査などで偶然発見されることがほとんどです。ただし、以下のような症状が出る場合があります。
無症候性憩室
- 自覚症状なし
- 治療は不要で経過観察が基本
憩室炎を起こした場合
- 左下腹部の痛み(日本では右下腹部のことも)
- 圧痛や筋性防御(押されると痛む)
- 下痢または便秘
- 発熱(38℃前後の微熱〜高熱)
- 血便(まれだが憩室出血のことも)
- 腹部膨満感、食欲不振、吐き気
症状が軽い場合は自然軽快しますが、憩室炎が悪化すると膿瘍、穿孔、腹膜炎、狭窄、腸閉塞などの重篤な合併症を引き起こすこともあります。これらの場合には速やかな治療が必要です。
診断方法と治療方法
診断
- 問診と身体診察:腹痛の部位、便通の変化、発熱の有無などを確認
- 血液検査:白血球数やCRPなどの炎症マーカーを評価
- 腹部CT検査:憩室の有無、腸壁の肥厚、周囲脂肪組織の炎症、膿瘍形成の有無などが診断に有効
- 大腸内視鏡検査:無症候性憩室の発見や出血源の確認に使用。ただし、急性期には穿孔のリスクがあるため慎重に行う
治療
- 無症候性憩室の場合:特別な治療は不要。生活習慣の改善と経過観察のみ
- 軽度の憩室炎:絶食または消化のよい食事、経口抗菌薬の投与、数日間の経過観察
- 中等症〜重症の憩室炎:入院の上で点滴による抗菌薬投与、水分・電解質補正
- 穿孔や膿瘍形成、出血が止まらない場合:手術(大腸切除など)や内視鏡的止血が必要になることもある
再発予防には、憩室形成の背景にある便秘や腸内環境の改善が重要とされます。
予後
大腸憩室症は、ほとんどのケースで予後は良好です。無症候性憩室であれば経過観察のみで問題ありません。また、軽症の憩室炎であれば、保存的治療によって数日〜1週間ほどで症状が改善し、日常生活に支障をきたさずに回復することが多いです。
ただし、以下のようなケースでは注意が必要です。
- 憩室炎の再発を繰り返す
- 高齢者や免疫力の低い人
- 腸穿孔や膿瘍、狭窄などの合併症を起こした場合
- 出血が止まらない場合
憩室炎の再発は比較的多く、再発を繰り返すうちに腸の狭窄や癒着が生じ、将来的に手術が必要になることもあります。
また、憩室からの出血は突然起こり、大量出血に至ることもあるため、血便を認めた場合は速やかに医療機関を受診することが大切です。
予防
大腸憩室症や憩室炎の予防には、腸内環境を整え、腸管内圧を上げすぎない生活習慣が効果的です。
食生活
- 食物繊維の積極的な摂取(野菜、果物、全粒穀物、海藻など)
- 水分を十分にとる(1日1.5〜2L目安)
- 発酵食品(ヨーグルト、納豆、キムチなど)で腸内フローラを整える
- 脂質・糖質の過剰摂取を避ける
排便習慣
- 規則正しい排便リズムを保つ
- 便意を我慢しない
- 強いいきみを避ける
生活習慣
- 適度な運動(ウォーキングや軽い筋トレなど)
- ストレスをためない(自律神経と腸の動きは密接に関連)
- 禁煙・節酒を心がける
便秘になりにくい腸の環境を作ることが、憩室の形成や炎症の予防に有効です。
関連する病気や合併症
大腸憩室症に関連する疾患や合併症には、以下のようなものがあります。
合併症
- 憩室炎:憩室に便や細菌が詰まり、炎症が起きる
- 腸管穿孔:憩室炎が進行し、腸に穴があく(腹膜炎の原因)
- 膿瘍形成:炎症が局所にとどまり、膿がたまる
- 腸閉塞:炎症後の癒着や狭窄による通過障害
- 大腸出血:憩室の近くの血管が破れて出血する(まれに大量)
- 瘻孔形成:炎症が隣接臓器に波及し、異常な交通路ができる(膀胱瘻、腟瘻など)
鑑別疾患
- 感染性腸炎
- 潰瘍性大腸炎、クローン病
- 大腸がん(特に出血・狭窄時)
- 虚血性大腸炎
合併症が疑われる場合には、CT検査や内視鏡検査を適宜実施し、迅速な診断と治療が求められます。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
日本消化器病学会「大腸憩室症の診療ガイドライン」(https://www.jsge.or.jp/)
国立国際医療研究センター「大腸憩室とその合併症」(https://www.ncgm.go.jp/)
厚生労働省e-ヘルスネット「大腸憩室症とは」(https://kennet.mhlw.go.jp/home)
日本大腸肛門病学会「憩室性疾患の概要」(https://www.coloproctology.gr.jp/)
■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。
「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。
医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。
医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。
- 公開日:2025/07/16
- 更新日:2025/07/16
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