胃粘膜下腫瘍いねんまくかしゅよう
胃粘膜下腫瘍は、胃の粘膜の下にある層から発生する腫瘍で、多くは無症状のまま内視鏡検査などで偶然発見されます。良性から悪性までさまざまなタイプがあり、正確な診断には超音波内視鏡や組織検査が必要です。治療方針は大きさや性質に応じて経過観察か切除を選択し、悪性が疑われる場合には外科手術も検討されます。
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胃粘膜下腫瘍とは?
胃粘膜下腫瘍(submucosal tumor:SMT)は、胃の粘膜の内側ではなく、粘膜より深い層(粘膜下層、筋層、漿膜下層など)から発生する腫瘍性病変の総称です。一般的な胃がんが粘膜表面に現れるのに対し、粘膜下腫瘍は表面に明らかな潰瘍や異常を伴わず、「ふくらみ」や「隆起」として発見されます。
代表的な腫瘍には、平滑筋腫、消化管間質腫瘍(GIST)、神経鞘腫、脂肪腫などがあり、それぞれ良性・悪性の性質が異なります。中でもGISTは悪性化の可能性を持つため、診断と経過観察が重要です。
ほとんどが無症状で偶然発見されますが、大きくなると食べ物の通過障害や出血を起こすこともあります。腫瘍の性質と進行の有無を見極めて、適切な管理方針を決定することが重要です。
原因
胃粘膜下腫瘍は、腫瘍が発生する細胞の種類によって分類され、原因も異なります。
- 平滑筋腫:胃の筋層にある平滑筋が過剰に増殖することで発生する良性腫瘍です。一般的に進行は緩やかで、がん化の可能性はほとんどありません。
- GIST(消化管間質腫瘍):消化管に分布する「カハール介在細胞」に由来する腫瘍で、KIT遺伝子やPDGFRA遺伝子の変異が関与しています。大きさや細胞分裂の頻度によって悪性度が判断され、進行すると転移するリスクもあります。
- 神経鞘腫:神経の周囲にある鞘細胞から発生する腫瘍で、基本的に良性ですが、大型化する場合もあります。
- 脂肪腫・血管腫・リンパ管腫:脂肪、血管、リンパ管などの支持組織から発生するまれな腫瘍で、多くは良性です。
これらの腫瘍は偶然に発生することが多く、明確な生活習慣や食生活との関連は認められていません。遺伝的素因や局所の細胞異常などが背景にあると考えられています。
症状
胃粘膜下腫瘍は、粘膜表面に出血や潰瘍を形成しない限り、無症状であることがほとんどです。実際、定期健診や人間ドックの胃カメラで偶然見つかるケースが非常に多いです。
しかし、腫瘍が大きくなると、食後の胃もたれ、早期飽満感、みぞおちの違和感、圧迫感などの軽度の消化器症状を引き起こすことがあります。さらに、腫瘍が内部で出血すると黒色便や貧血、倦怠感などの症状が現れることもあります。
ごくまれに、腫瘍が胃の出口付近(幽門部)にできると、胃内容物の流れが妨げられ、嘔吐や食事摂取困難を伴う「幽門狭窄」を起こすこともあります。また、極めて大きくなると、外から腹部に腫瘤を触れることができる場合もあります。
症状がない場合でも、腫瘍が悪性である可能性を否定できないため、腫瘍の大きさや性状に応じた適切な診断と経過観察が重要です。
診断方法と治療方法
胃粘膜下腫瘍の診断には、まず「上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)」が行われます。隆起の有無、形状、表面の粘膜の状態を観察することで、腫瘍の存在を確認します。
しかし、通常の内視鏡だけでは腫瘍の内部構造や正確な発生層までは分からないため、「超音波内視鏡検査(EUS)」が非常に重要です。EUSでは、腫瘍が胃のどの層から発生しているか、内部の性状(均一性、硬さ、血流など)を確認することができます。
さらに、悪性の可能性がある場合には「EUS下穿刺吸引細胞診(EUS-FNA)」を行い、腫瘍の一部を採取して病理診断を行います。これにより、GISTや神経鞘腫などの腫瘍の確定診断が可能となります。
治療方針は腫瘍の種類・大きさ・悪性度によって異なります。2cm未満の良性腫瘍は経過観察とされることが多いですが、3cm以上または悪性が疑われる場合は外科的切除(腹腔鏡手術、開腹手術)や内視鏡的切除(ESD)が検討されます。
予後
胃粘膜下腫瘍の予後は、腫瘍の性質によって大きく異なります。平滑筋腫や脂肪腫などの良性腫瘍は、治療を行わず経過観察のみで済むことが多く、予後は極めて良好です。
一方、GISTはサイズや細胞分裂能によって悪性度が分類され、悪性の可能性がある場合には切除とともに術後の再発予防(アジュバント治療)が検討されます。リスク分類に応じては、分子標的薬(イマチニブなど)を用いた治療が追加されることもあります。
完全に切除されたGISTの5年生存率は高く、低リスク群であれば90%以上とされています。再発のリスクが高い例では、術後も定期的な画像検査(CTや内視鏡)での経過観察が欠かせません。
早期発見と適切な診断ができれば、胃粘膜下腫瘍の多くは良好な経過をたどることができます。逆に、症状がないからといって放置していると、悪性腫瘍であった場合に手遅れになるリスクもあるため注意が必要です。
予防
胃粘膜下腫瘍の多くは偶発的に発生するため、特定の生活習慣や食事で直接的に予防できる方法はありません。しかし、早期発見・早期対応を実現するためには、定期的な内視鏡検査が最も効果的な予防策といえます。
特に、40歳を過ぎたら1〜2年ごとの胃カメラ検査を受けることが推奨されます。ピロリ菌感染や慢性胃炎、家族歴などがある場合は、より頻回な検査が望ましいとされます。
また、GISTの一部は遺伝子変異と関連していることから、家族内に同様の疾患がある場合は、早めに専門医の診察を受けることが勧められます。
ピロリ菌感染が背景にあることもあるため、ピロリ菌検査および除菌治療を受けることも粘膜環境の正常化に役立ちます。暴飲暴食、喫煙、過度のアルコール摂取など胃粘膜に負担をかける習慣を見直すことも、間接的な予防につながります。
関連する病気や合併症
胃粘膜下腫瘍は、他の消化管腫瘍と異なり、表面に現れにくいため、診断や治療の遅れが合併症につながることがあります。
代表的な関連疾患には「GIST(消化管間質腫瘍)」があり、悪性化するリスクがあるため、早期の診断と治療が予後を左右します。大きくなると「出血」や「穿孔(胃壁に穴があく)」を引き起こし、緊急手術が必要になることもあります。
また、腫瘍が胃の出口にできることで「幽門狭窄」を引き起こし、食物の通過障害による嘔吐や体重減少、電解質異常を招くことがあります。
腫瘍が粘膜表面にびらんを形成した場合には、慢性出血により「鉄欠乏性貧血」を伴うことがあります。まれに悪性腫瘍と診断されてから肺や肝臓、腹膜などへの転移が発見されることもあり、注意深い全身評価が必要です。
診断から治療後まで、内視鏡と画像検査を併用した総合的な管理が求められます。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
日本消化器病学会「消化管粘膜下腫瘍診療ガイドライン」(https://www.jsge.or.jp/)
国立がん研究センター「GIST(消化管間質腫瘍)」(https://ganjoho.jp/)
順天堂大学医学部附属順天堂医院 消化器内科「胃粘膜下腫瘍」(https://www.juntendo.ac.jp/hospital/clinic/shokaki/)
■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。
「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。
医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。
医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。
- 公開日:2025/07/07
- 更新日:2025/07/09
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