萎縮性胃炎いしゅくせいいえん

萎縮性胃炎は、長期間の炎症により胃粘膜が薄くなり、本来の機能が失われていく状態です。主な原因はヘリコバクター・ピロリ感染で、進行すると腸上皮化生を伴い、胃がんのリスクが高まります。症状がないまま進行することも多いため、内視鏡検査による早期発見とピロリ菌の除菌、定期的なフォローアップが重要です。

萎縮性胃炎とは?

萎縮性胃炎は、胃の粘膜に長期間炎症が続いた結果、胃の粘膜が薄くなり、萎縮してしまった状態を指します。胃粘膜の萎縮は、正常な胃液(胃酸や消化酵素)や粘液の分泌機能を低下させ、胃の防御力を弱めると同時に、消化機能の低下にもつながります。

この病態は慢性胃炎の進行形ともいえ、特に中高年層に多くみられます。内視鏡や病理組織の所見では、粘膜の菲薄化(薄くなること)や血管の透見像(血管が透けて見える)などが特徴的です。

萎縮性胃炎は、自覚症状が乏しいまま進行することもあり、胃カメラで偶然指摘されるケースも多くあります。進行すると「腸上皮化生」と呼ばれる粘膜の異常変化が生じ、胃がん発生の土台になることが知られています。

原因

最大の原因は「ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)」の長期感染です。ピロリ菌は胃の粘膜に慢性的な炎症を起こし、時間の経過とともに粘膜が傷ついて萎縮し、最終的には粘膜の性質が腸に近い状態(腸上皮化生)へと変化していきます。

ピロリ菌感染は乳幼児期に起こることが多く、衛生環境が不十分だった世代では高い感染率が報告されています。近年では若年層の感染率は下がっていますが、中高年層ではいまだ多くの感染者が存在します。

その他の原因としては、自己免疫性胃炎(自己免疫が胃粘膜の細胞を攻撃することによって萎縮が起こる)、長期間の胃炎の放置、胆汁の胃内逆流、加齢による粘膜機能の低下なども挙げられます。

また、NSAIDs(痛み止め)などの薬剤性胃炎や、過度なアルコール摂取、喫煙なども萎縮の進行を促す要因になり得ます。

症状

萎縮性胃炎は、その性質上、進行していても自覚症状が乏しいことが多い病気です。自覚症状がある場合でも、あいまいで非特異的な症状が中心となります。

主な症状には、「胃もたれ」「みぞおちの不快感」「食後の膨満感」「吐き気」「げっぷ」「食欲不振」などがあります。これらは食生活の乱れやストレスでも起こり得るため、気づかれにくいことがあります。

胃酸の分泌が減少すると消化機能が低下し、「早期飽満感(少し食べただけで満腹になる)」「口臭」「慢性的な腹部不快感」などが見られることもあります。

また、胃酸の不足によって鉄やビタミンB12の吸収が悪くなり、「鉄欠乏性貧血」や「悪性貧血(ビタミンB12欠乏)」を合併することもあります。貧血による立ちくらみ、倦怠感、息切れといった全身症状から発見されることもあります。

診断方法と治療方法

診断の基本は「上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)」です。内視鏡では、胃粘膜の薄さ、血管透見像、色調の変化、腸上皮化生の有無などから萎縮の程度が評価されます。

内視鏡による「肉眼的分類」と、組織を一部採取して病理検査を行う「組織学的診断」の両方が行われることが一般的です。ピロリ菌感染が疑われる場合には、尿素呼気試験、便中抗原検査、血清抗体検査、迅速ウレアーゼ試験などの検査も併用されます。

治療の中心は、原因となっているピロリ菌の「除菌療法」です。ピロリ菌を除去することで炎症の進行を食い止め、萎縮の進展や胃がんリスクを抑制できることが報告されています。

すでに高度な萎縮や腸上皮化生がある場合には、定期的な内視鏡検査による経過観察が必要です。症状に対しては、胃酸補助剤、消化酵素製剤、胃粘膜保護薬、漢方薬などを用いて対症的に対応します。

予後

ピロリ菌の除菌に成功した場合、炎症の進行は停止し、多くの例で症状の改善や胃粘膜の一部回復が見られます。しかし、萎縮が高度に進行している場合には、除菌後でも萎縮性変化や腸上皮化生が残るため、胃がんのリスクは完全には消えません。

そのため、除菌に成功した患者でも「萎縮性胃炎の進行度」に応じて、年1回程度の内視鏡検査を継続的に行うことが勧められます。特に胃がんの家族歴がある人や、既往に潰瘍やポリープがある人は慎重なフォローが必要です。

一方、除菌を行わずに放置した場合、胃の粘膜はさらに萎縮し、がん化のリスクが増加していきます。除菌のタイミングが早いほど予後は良好とされており、可能であれば40代〜50代のうちに治療を受けるのが理想的です。

貧血や消化機能低下など、生活に影響する症状についても適切に対応すれば、日常生活を大きく損なうことなく過ごすことが可能です。

予防

最も有効な予防策は「ピロリ菌への感染を避けること」と「感染後の早期除菌」です。家族内での感染を防ぐため、子どもに食べ物を口移しで与えることを避け、スプーンや箸の共有も注意が必要です。

また、すでに感染しているとわかっている場合は、医師の指導のもとで速やかに除菌療法を受けましょう。除菌により胃がんのリスクが低下し、萎縮性胃炎の進行も抑制されます。

食生活では、塩分の多い食事、喫煙、過度のアルコール摂取、辛い物や揚げ物の多用などは胃粘膜への負担となるため控えるべきです。食事の時間を規則正しくし、よく噛んで食べることも胃に優しい習慣です。

ストレスの管理や十分な睡眠、適度な運動も消化機能の安定化に寄与します。年に1回の胃カメラ検査を継続することで、萎縮の進行やがんの兆候を早期に発見することができます。

関連する病気や合併症

萎縮性胃炎は、さまざまな病態との関連があります。もっとも注目すべきは「胃がん」であり、萎縮が進行し、腸上皮化生を伴った胃粘膜ではがんの発生リスクが高まります。

また、「胃潰瘍」や「十二指腸潰瘍」を繰り返すこともあり、出血性潰瘍によって吐血や黒色便(タール便)を引き起こすことがあります。粘膜が薄くなることで、わずかな刺激でも出血しやすくなります。

胃酸の分泌が低下すると、「鉄欠乏性貧血」や「悪性貧血(ビタミンB12欠乏による)」が起こりやすくなり、全身倦怠感、頭痛、集中力の低下、神経症状などが現れることもあります。

また、萎縮が広範に及ぶと、「消化不良」「機能性ディスペプシア様症状(慢性的な胃の不快感)」を呈することもあります。自己免疫性胃炎が背景にある場合には、甲状腺疾患や1型糖尿病などの自己免疫疾患を合併することもあります。

症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。

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■ 参考・出典

日本消化器病学会「胃炎診療ガイドライン」(https://www.jsge.or.jp/)

国立国際医療研究センター「萎縮性胃炎とピロリ菌感染」(https://www.ncgm.go.jp/)

日本ヘリコバクター学会「萎縮性胃炎と除菌療法」(https://www.jshr.jp/)

■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック

近畿大学 医学部 卒

近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。

「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。 医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。 医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。

  • 公開日:2025/07/07
  • 更新日:2025/07/09

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