特発性肺線維症とくはつせいはいせんいしょう
特発性肺線維症(IPF)は、原因不明の肺線維化により肺の弾力性が低下し、進行性に呼吸機能が低下する間質性肺疾患です。労作時の息切れや乾いた咳が主症状で、治療には抗線維化薬や在宅酸素療法が用いられます。早期診断と継続的管理が必要です。
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特発性肺線維症とは?
特発性肺線維症(Idiopathic Pulmonary Fibrosis:IPF)とは、原因が特定できない慢性進行性の間質性肺疾患で、肺の構造が線維化(硬く変性)し、徐々に呼吸機能が低下する疾患です。特発性間質性肺炎(IIP)のなかでも最も頻度が高く、予後が不良な病型に分類されます。
肺の線維化が進行すると、肺の柔軟性が失われて膨らみにくくなり、ガス交換が困難になります。結果として息切れや咳が現れ、日常生活や運動に支障をきたします。中年から高齢の男性に多く、日本では60歳以上の男性に好発します。
IPFは進行性かつ不可逆性であり、放置すれば呼吸不全へと進行し、生命に関わることもあります。近年では抗線維化薬の登場により進行の抑制が可能となっていますが、完治させる治療法は現時点で存在しません。
早期診断とともに、専門医による病型評価、治療戦略の立案、多職種による包括的ケアが重要です。
原因
IPFは「特発性」の名のとおり、明確な原因が分かっていない疾患です。ただし、近年の研究では遺伝的素因、環境因子、免疫反応など複数の要因が複雑に関与していると考えられています。
発症に関与すると考えられる要因
- 加齢:発症の多くは60歳以上であり、肺の老化が関与
- 喫煙:最大の環境リスク因子であり、非喫煙者よりもリスクが高い
- ウイルス感染:EBウイルス、ヘルペスウイルスなどの関与が報告されている
- GERD(胃食道逆流症):微小吸引により慢性的な肺刺激を受ける可能性
- 粉塵や金属蒸気などの吸入:特定職業での曝露が関連
遺伝的要因
- 家族性肺線維症(FIP)と呼ばれる遺伝性の疾患も存在
- MUC5B遺伝子多型やテロメア短縮との関係が報告されている
自己免疫の関与
- 自己抗体が陰性であっても、免疫系の異常が関与する可能性あり
除外すべき疾患
- 膠原病関連間質性肺炎
- 薬剤性肺障害(アミオダロン、メトトレキサートなど)
- 過敏性肺炎や環境性肺疾患
IPFと診断するには、これらを除外し、臨床像と画像・病理所見をもとに総合的に判断する必要があります。
症状
IPFの主な症状は、進行性の呼吸困難と慢性的な乾いた咳です。これらの症状はゆっくりと進行し、徐々に日常生活に支障をきたすようになります。
初期症状
- 労作時の息切れ(階段や坂道で息苦しくなる)
- 乾いた咳(痰を伴わない、持続的)
- 倦怠感、疲れやすさ
- 体重減少、軽度発熱、寝汗など非特異的症状
進行した場合の症状
- 安静時の呼吸困難
- 呼吸補助筋の使用(肩で息をするなど)
- ばち指(指先の先端が丸く太くなる)
- 低酸素血症(SpO₂低下)
- fine crackles(聴診での捻髪音):特に背側・肺底部で吸気終末に聴取
急性増悪
- 数日〜数週間で急激に症状が悪化
- 新たなX線陰影が出現、ガス交換の急激な悪化
- 呼吸不全を伴い、死亡率が高い
- ウイルス感染、手術、ワクチン接種が誘因となることもある
日常生活での変化
- 家事や通勤が困難になる
- 睡眠中に呼吸が浅くなり、起床時に疲労感が残る
- 声が出にくい、会話中に咳き込む
初期症状は加齢や運動不足と誤認されがちであり、診断が遅れる原因になります。これらの症状が持続・進行する場合は、呼吸器専門医の診察を受けるべきです。
診断方法と治療方法
診断
- 問診・身体診察
・息切れや咳の持続期間、喫煙歴、家族歴、職業歴、膠原病の有無などを確認 - 聴診
・肺底部にfine crackles(捻髪音)を聴取
・ばち指の有無を観察 - 胸部X線検査
・肺底部を中心とした網状影、線状影を確認
・初期には異常が見逃されることもある - 高分解能CT(HRCT)
・IPFの診断に不可欠。蜂巣肺(honeycombing)、網状影、肺底部優位の分布が特徴的
・他のIIPとの鑑別にも有用 - 呼吸機能検査
・拘束性換気障害(VC低下)、DLCOの低下が特徴
・進行に伴って著明な低下を示す - 血液検査
・KL-6、SP-A、SP-Dなどの血清マーカーが高値
・自己抗体陰性(膠原病除外) - 気管支鏡・肺生検
・HRCTで診断困難な場合、組織診断が必要
・経気管支肺生検または外科的肺生検が行われる
治療
- 抗線維化薬
・ピルフェニドン(商品名ピレスパ)
・ニンテダニブ(商品名オフェブ)
・いずれも進行抑制が期待できるが、副作用(下痢、肝障害、光線過敏)に注意 - 酸素療法
・在宅酸素療法(HOT):SpO₂<88%が導入基準
・QOLの維持と呼吸困難の緩和に有効 - 呼吸リハビリテーション
・運動耐性の改善と身体機能の維持
・精神的サポートも含めた包括的ケア - 急性増悪への対応
・ステロイド大量療法、人工呼吸器管理、集中治療
・感染症の除外と抗菌薬の使用 - 臓器移植
・若年重症例では肺移植が適応となることもある
治療は進行を抑えることが目標であり、早期導入と継続的な評価が重要です。
予後
IPFは予後不良な疾患であり、未治療の自然経過では診断から3〜5年の平均生存期間とされます。ただし、近年では抗線維化薬の導入により進行が抑制され、予後の改善が期待されています。
良好な予後の要因
- 早期診断と抗線維化薬の早期導入
- 急性増悪を起こさずに経過している場合
- 非喫煙者、自己管理が良好な患者
不良な予後の要因
- 急性増悪(致死率が高い)
- 重度の酸素化障害、著明な呼吸機能低下
- 肺高血圧症や右心不全の合併
- 栄養不良、うつ病、サルコペニア
死因
- 急性増悪による呼吸不全
- 肺感染症
- 心不全、肺がん(IPF患者は肺がんのリスクが高い)
多職種連携と緩和ケアの導入により、予後だけでなく生活の質(QOL)向上を目指すことが重要です。
予防
IPFの明確な予防法は確立されていませんが、リスク因子の回避と早期対応が進行予防に寄与します。
禁煙の徹底
- 喫煙はIPFのリスク因子であり、進行を促進する
- 家族の受動喫煙も含めて注意が必要
感染予防
- インフルエンザ、肺炎球菌、COVID-19などのワクチン接種
- 風邪予防(手洗い・マスク・換気)
- 体調不良時には早めの医療受診
生活習慣の整備
- バランスの取れた栄養摂取
- 無理のない運動習慣(呼吸リハビリの継続)
- 十分な睡眠とストレス管理
定期的な受診と検査
- 呼吸機能、画像検査、血液マーカーによる経過観察
- 症状変化を見逃さないための自己観察も重要
予防は困難ですが、再発・急性増悪の回避と生活の質を保つことが現実的な目標となります。
関連する病気や合併症
IPFは肺のみならず、全身に影響を及ぼすさまざまな疾患と関連します。
呼吸器系合併症
- 肺高血圧症:進行例で高頻度。右心不全を招くことも
- 慢性呼吸不全:低酸素血症によりHOT導入が必要
- 肺がん:喫煙者を中心にIPF患者は高リスク
急性増悪
- ウイルス感染や手術、ワクチン接種、無原因で起こる
- 短期間で呼吸状態が悪化し、致死的となる
感染症
- 肺炎、気管支炎:線維化により排痰能力が低下しやすい
- ニューモシスチス肺炎や結核のリスクもある(免疫低下状態)
精神・栄養状態への影響
- うつ病、不安障害:慢性的な症状と予後不良の見通しによる
- サルコペニア、骨粗鬆症:運動制限やステロイド使用が影響
治療関連副作用
- 抗線維化薬の副作用(下痢、光線過敏、肝障害)
- ステロイドの長期使用による感染症、代謝障害
これらの併存症を早期から把握し、包括的な治療戦略を立てることが重要です。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
- 日本呼吸器学会「特発性肺線維症診療ガイドライン」(https://www.jrs.or.jp/)
- MSDマニュアル プロフェッショナル版「特発性肺線維症」(https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional)
- 国立国際医療研究センター「間質性肺疾患に関する情報」(https://www.ncgm.go.jp/)
■ この記事を監修した医師

石井 誠剛医師 イシイ内科クリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒後、済生会茨木病院で研修を行い、日本生命病院で救急診療科、総合内科勤務。
その後、近畿中央呼吸器センターで勤務後、西宮市立中央病院呼吸器内科で副医長として勤務。
イシイ内科クリニックを開設し、地域に密着し、 患者様の気持ちに寄り添った医療を提供。
日本生命病院では総合内科医として様々な内科診療に携わり、近畿中央呼吸器センターでは呼吸器の専門的な治療に従事し、 西宮市立中央病院では呼吸器内科副医長として、地域医療に貢献。
抗加齢学会専門医として、アンチエイジングだけを推し進めるのではなく、適切な生活指導と内科的治療でウェルエイジングを提供していくことを目指している。
- 公開日:2025/07/08
- 更新日:2025/07/16
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