咳喘息せきぜんそく

咳喘息は、喘鳴のない乾いた咳が長く続く疾患で、気道の過敏性が亢進している状態です。夜間や早朝に症状が強く現れ、放置すると気管支喘息に進行することもあります。吸入ステロイドや気管支拡張薬による早期治療が重要です。

咳喘息

咳喘息とは?

咳喘息とは、慢性的に乾いた咳が続く疾患で、気管支喘息と異なり喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒュー音)や呼吸困難を伴わない点が特徴です。一般的には「長引く咳の原因」として最も多い疾患のひとつとされており、日本では咳の外来患者の20〜30%を占めると報告されています。

咳喘息は気道の過敏性が亢進している状態で、風邪の後やアレルゲンへの曝露、寒冷刺激などをきっかけに発症します。咳は夜間から早朝、運動後に強くなる傾向があり、数週間から数か月にわたって持続することがあります。

気管支喘息とは異なり、通常は呼吸音に異常がなく、気管支拡張薬や吸入ステロイドの治療で症状が改善する点が診断と治療の目安になります。ただし、適切な治療が行われずに放置されると、約30%の患者が将来的に典型的な気管支喘息に移行する可能性があるため、早期発見と治療が重要です。

原因

咳喘息は、気道の慢性的な炎症や過敏性の亢進によって発症する疾患であり、さまざまな要因が関与しています。直接的な病原体や器質的な異常がなくても、刺激に対して過剰に反応する気道が咳を引き起こします。

発症の誘因

  • 風邪(特にウイルス性上気道炎):咳が風邪後も続く場合、咳喘息を疑う
  • 冷気や乾燥した空気の吸入
  • たばこの煙(能動・受動喫煙)
  • 会話や笑い、深呼吸
  • 運動(特に冬場の屋外運動)
  • 花粉やハウスダストなどのアレルゲン
  • 香水や洗剤の強いにおい、排気ガス

アレルギー体質との関連

  • アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎、気管支喘息の家族歴がある人に多い
  • 気道粘膜に好酸球の浸潤がみられることもあり、喘息との連続性が示唆されている

気道の構造的要因

  • 気管支の神経が過敏になっており、軽微な刺激で咳反射が生じやすい

咳喘息は明確な「病原体」が存在するわけではないため、喀痰培養やX線検査で異常が出ないことが多く、臨床的には除外診断と治療反応によって診断されます。

症状

咳喘息の主な症状は、乾いた咳(非湿性咳)です。喉の違和感や軽い胸の圧迫感を伴うことはありますが、息切れや喘鳴は通常みられません。

主な症状

  • 乾いた咳(痰が絡まない)
  • 夜間から早朝にかけての咳の悪化
  • 風邪が治っても咳だけが残る(3週間以上)
  • 運動後や冷気吸入時の咳
  • 喉のイガイガ感や刺激感
  • 声がれや話すときの咳込み

症状の経過

  • 数週間から数か月にわたって咳が続く
  • 日中は比較的軽く、夜間や早朝に悪化することが多い
  • 気管支拡張薬や吸入ステロイドによる治療で比較的早く改善する

非典型的な症状

  • 胸部の軽い不快感(圧迫感、締めつけ感)
  • 咳による睡眠障害
  • 咳込みにより腹筋痛、疲労感を伴うこともある

小児における特徴

  • 風邪のたびに長引く咳が続く
  • 喘息様発作がないまま慢性咳嗽がみられる
  • 保育園や学校での集団生活をきっかけに悪化することがある

鑑別すべき症状

  • 喘息:喘鳴と呼吸困難がある
  • アトピー咳嗽:同じく乾いた咳が特徴だが、抗アレルギー薬が効果的
  • 胃食道逆流症:咳とともに胸焼けを伴う
  • 感染後咳嗽:風邪後に一時的に咳が続くが、自然軽快する

咳喘息の症状は他疾患と重複しやすいため、詳細な問診と治療反応の観察が重要です。

診断方法と治療方法

診断

咳喘息は画像や血液検査で明確な異常が見つからないことが多く、診断は「除外診断」と「治療反応の評価」によって行います。

  1. 問診
    ・咳の持続期間(3週間以上)
    ・症状の時間帯(夜間・早朝)
    ・風邪との関連、運動・会話・笑いでの悪化
    ・喘息やアレルギー疾患の家族歴
  2. 身体診察
    ・聴診では通常、喘鳴を認めない
    ・発熱や喀痰、呼吸困難が目立たなければ感染症の可能性は低い
  3. 胸部X線・CT
    ・肺炎や結核、腫瘍など器質的疾患を除外する目的で実施
    ・咳喘息では基本的に正常所見
  4. 呼気NO検査(FeNO)
    ・気道の好酸球性炎症を評価する指標
    ・高値の場合は吸入ステロイドが有効とされる
  5. ピークフロー測定、スパイロメトリー
    ・喘息への移行を見極めるために実施
    ・気流制限は通常認めないが、変動があれば要注意
  6. 治療的診断(治療反応)
    ・気管支拡張薬や吸入ステロイドの投与で症状が改善すれば、診断を裏付ける所見となる

治療

  1. 吸入ステロイド(ICS)
    ・第一選択薬。気道炎症を抑え、症状を根本から改善
    ・早期導入で喘息への進行を予防できる
  2. β2刺激薬(SABA)
    ・発作的な咳に対して頓用で使用
    ・効果が確認できれば診断の一助となる
  3. ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)
    ・補助的治療薬。夜間の咳に効果がある場合も
  4. 咳止め(鎮咳薬)
    ・一時的に用いることもあるが、根本治療ではない

治療反応が良好であれば、数週間で症状は軽快しますが、再発しやすいため2〜3か月程度の継続治療が推奨されます。

予後

咳喘息は予後良好な疾患ですが、適切な診断と治療が行われなければ長引いたり、将来的に気管支喘息へと進行するリスクがあります。

良好な予後の要因

  • 早期診断と早期治療
  • 吸入ステロイドを中心とした治療の継続
  • アレルゲンや誘因の管理ができていること

不良な経過をたどる場合

  • 治療開始が遅れた
  • 自己判断で治療を中断した
  • アレルゲン曝露が持続している(ダニ、喫煙環境など)

気管支喘息への進行

  • 咳喘息患者のうち30〜40%が将来的に喘息へ移行するとされる
  • 早期から炎症を抑えることでそのリスクを軽減できる

再発リスク

  • 治療終了後も数か月〜1年以内に再発する例がある
  • 特に秋〜冬の季節、ウイルス感染後に再発しやすい

咳喘息を単なる「風邪の後の咳」と軽視せず、継続的な管理を行うことで再発と進行を防ぐことが可能です。

予防

咳喘息の予防には、日常生活での刺激の回避と、気道の炎症を抑える環境づくりが重要です。

生活環境の整備

  • 室内の換気と湿度の管理(湿度50〜60%が理想)
  • ダニやハウスダストを減らす(こまめな掃除、布団乾燥など)
  • ペットの毛や花粉などのアレルゲンを避ける

体調管理

  • 風邪をひかないよう手洗い、うがいの徹底
  • インフルエンザや肺炎球菌の予防接種
  • 十分な睡眠とバランスの取れた食事

刺激物の回避

  • たばこ(喫煙・受動喫煙)を完全に避ける
  • 香水、洗剤、排気ガスなどの強いにおいを避ける

早期対応

  • 風邪後の咳が2週間以上続く場合は医療機関を受診
  • 自己判断での市販薬使用に頼らず、適切な吸入療法を受ける

これらの習慣を継続することで、咳喘息の再発を防ぎ、長期的な管理に役立ちます。

関連する病気や合併症

咳喘息は単独でも長引く咳の原因となりますが、以下の疾患との関連や鑑別が重要です。

関連疾患

  • 気管支喘息:咳喘息の進行形とされる。喘鳴と呼吸困難が加わる
  • アトピー咳嗽:非アレルゲン性刺激に過敏。抗アレルギー薬が有効
  • 咳嗽型喘息:気流制限を伴う喘息の一亜型
  • GERD(胃食道逆流症):咳の誘因となることがある

合併症

  • 睡眠障害:夜間の咳で眠れないことが多く、日中の倦怠感や集中力低下につながる
  • うつ症状:慢性的な咳による社会生活への影響
  • 咳による腹筋疲労、肋間筋痛、軽度の尿漏れなど

誤診されやすい疾患

  • 肺炎、結核、間質性肺炎
  • 気管支拡張症やCOPD(高齢者では鑑別が重要)

長引く咳の背景には、複数の疾患が絡んでいる場合も多く、専門医による正確な診断と長期的な管理が必要です。

症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。

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■ 参考・出典

■ この記事を監修した医師

石井 誠剛医師 イシイ内科クリニック

近畿大学 医学部 卒

近畿大学医学部卒後、済生会茨木病院で研修を行い、日本生命病院で救急診療科、総合内科勤務。
その後、近畿中央呼吸器センターで勤務後、西宮市立中央病院呼吸器内科で副医長として勤務。
イシイ内科クリニックを開設し、地域に密着し、 患者様の気持ちに寄り添った医療を提供。

日本生命病院では総合内科医として様々な内科診療に携わり、近畿中央呼吸器センターでは呼吸器の専門的な治療に従事し、 西宮市立中央病院では呼吸器内科副医長として、地域医療に貢献。
抗加齢学会専門医として、アンチエイジングだけを推し進めるのではなく、適切な生活指導と内科的治療でウェルエイジングを提供していくことを目指している。

  • 公開日:2025/07/08
  • 更新日:2025/07/16

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