肺気腫はいきしゅ
肺気腫は、肺胞が破壊されて過膨張し、ガス交換機能が低下する病気で、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の一形態です。喫煙が主な原因で、進行すると息切れや呼吸困難が悪化します。禁煙と吸入薬、リハビリが治療の中心です。
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肺気腫とは?
肺気腫とは、肺の末端にある肺胞が破壊されて空気がたまりやすくなり、弾力を失って過膨張状態になる病気です。肺胞の壁が破壊されると酸素と二酸化炭素の交換効率が悪化し、結果として息切れや呼吸困難といった症状が現れます。
肺気腫は慢性閉塞性肺疾患(COPD)の一形態であり、COPDのもう一つの代表的病型である慢性気管支炎としばしば併存します。肺気腫では特に「息を吐くのが苦しい」という呼気障害が目立ちます。
日本でも高齢化と喫煙習慣の影響により、肺気腫を含むCOPDの患者数は増加しており、厚生労働省の統計では高齢者の呼吸不全による死亡原因の上位に挙げられています。
肺気腫は進行性の病気であり、完全に治すことはできませんが、早期に発見して禁煙を実践し、適切な治療を行うことで、症状の進行を抑え、生活の質を保つことが可能です。
原因
肺気腫の最大の原因は喫煙です。タバコの煙に含まれる有害物質が肺胞を傷つけ、炎症と酸化ストレスを引き起こし、徐々に肺胞壁が破壊されていきます。
主な要因
- 喫煙(アクティブ・受動喫煙含む):COPD患者の約90%が喫煙歴あり
- 大気汚染や粉塵の長期吸入(鉱山作業、化学工場など)
- 生物燃料の煙(薪、炭などの室内使用)
- 職業性曝露:粉塵やガスに慢性的に曝露される職業環境
遺伝的要因
- α1アンチトリプシン欠乏症:遺伝性の稀な疾患で、若年者でも肺気腫を発症することがある
その他の因子
- 幼少期の呼吸器感染症の既往
- 低出生体重児、早産児
- 気道過敏性やアレルギー体質
これらの要因が複合的に関与して肺胞が破壊されると、弾力性を失った肺は息を吐き出しにくくなり、空気が肺に閉じ込められる「エアトラッピング」という状態に陥ります。これが進行すると肺全体が過膨張し、呼吸困難が増強していきます。
症状
肺気腫の症状は、主に呼気障害による「息切れ」が中心であり、進行に伴ってさまざまな症状が出現します。
初期症状
- 労作時の息切れ(階段や坂道で息が切れる)
- 軽い咳や痰(痰は透明で量は少ないことが多い)
- 疲れやすさ、倦怠感
進行期の症状
- 安静時にも息苦しさを感じる
- 呼吸数の増加(頻呼吸)
- 胸部膨満感(肺が膨らみすぎて圧迫される感覚)
- 咳が慢性化し、しばしば夜間にも出現
- 痰が多くなる(細菌感染を伴う増悪時)
重症期の症状
- 体重減少(呼吸筋の消耗と代謝の亢進による)
- ばち指(指先が膨らむ)
- 浮腫(右心不全を合併することも)
- チアノーゼ(皮膚や口唇の青紫色)
検査でみられる特徴
- 肺音の減弱(聴診で呼吸音が小さい)
- 胸郭の拡張(バレルチェスト:たる型胸)
- 呼気延長(息を吐くのに時間がかかる)
- 口すぼめ呼吸(呼気時に唇をすぼめて息を吐く)
急性増悪時
- 咳や痰が急激に増え、色が変化(黄色や緑色)
- 発熱、呼吸困難の悪化
- 酸素飽和度(SpO₂)の低下
肺気腫は緩やかに進行するため、初期症状が加齢や体力低下と誤解されやすく、気づいたときには中等度以上に進行していることもあります。
診断方法と治療方法
診断
- 問診
・喫煙歴の有無と年数(ブリンクマン指数)
・息切れの程度、労作時の呼吸困難の有無
・慢性咳嗽や痰の頻度と性状 - 身体診察
・聴診で呼吸音の減弱や呼気延長を確認
・胸郭の拡張(バレルチェスト)などを視診 - 呼吸機能検査(スパイロメトリー)
・1秒率(FEV1/FVC)<70%が診断基準
・FEV1の絶対値により重症度を分類(GOLD分類) - 胸部X線・CT検査
・肺野の透過性亢進、心陰影の狭小化
・CTでは肺胞破壊の程度や分布を詳細に把握可能 - 血液検査
・血液ガス分析(進行例で酸素低下や二酸化炭素貯留を評価)
・α1-アンチトリプシン値(若年発症や家族歴がある場合)
治療
- 禁煙
・最も基本かつ重要な治療。禁煙で進行を抑制可能
・ニコチン代替療法、禁煙外来の利用 - 薬物療法
・長時間作用型気管支拡張薬(LAMA、LABA)
・吸入ステロイド(ICS):好酸球高値や頻回増悪例で使用
・短時間作用型薬(SABA、SAMA):発作時や頓用に - 呼吸リハビリテーション
・有酸素運動、筋力トレーニング、呼吸法指導(口すぼめ呼吸など)
・QOLの改善と増悪予防に効果あり - 在宅酸素療法(HOT)
・SpO₂が88%以下、PaO₂が55mmHg以下などで導入
・長期酸素投与で予後改善が期待される - 予防接種
・インフルエンザ、肺炎球菌ワクチンの定期接種を推奨 - 外科治療
・重度肺気腫に対する外科的肺容量減少術(LVRS)や肺移植がごく一部で検討される
治療の中心は禁煙と吸入薬による症状のコントロールであり、患者教育と継続的なフォローアップが重要です。
予後
肺気腫は進行性の慢性疾患であり、予後は病気の進行度、禁煙の有無、合併症の有無によって大きく左右されます。完全に治すことはできませんが、適切な治療と自己管理により、進行を遅らせ、日常生活を維持することが可能です。
予後を改善する因子
- 早期診断と禁煙
- 定期的な吸入薬治療と呼吸リハビリの継続
- 増悪の予防(感染予防、環境管理)
- 在宅酸素療法の導入
不良な予後の因子
- 喫煙の継続
- 頻回の増悪や重度の呼吸不全
- 肺がんや心疾患などの合併
- 低栄養、うつ病などの併存症
死亡原因の多くは呼吸不全や肺感染症、心不全であり、これらを防ぐことがQOLと生命予後の改善につながります。多職種連携による包括的な管理が必要です。
予防について
肺気腫の予防は、喫煙対策を中心とした一次予防と、発症後の進行抑制を目的とする二次予防に分けられます。
一次予防(発症を防ぐ)
- 禁煙:発症予防に最も効果的
- 受動喫煙の回避
- 大気汚染や有害物質の職業曝露への対策
- 乳幼児期の呼吸器感染予防(将来的なリスク低減)
二次予防(進行を防ぐ)
- 早期診断と呼吸機能の定期的モニタリング
- 禁煙の継続
- 感染予防(インフルエンザ・肺炎球菌ワクチン)
- 適度な運動と栄養管理
- ストレスや睡眠不足の回避
患者本人だけでなく家族や周囲の協力も重要であり、教育・啓発活動が広く行われることが望まれます。
関連する病気や合併症
肺気腫は、さまざまな呼吸器・全身疾患と関連し、進行や予後に影響を及ぼします。以下に主な関連疾患を示します。
呼吸器系合併症
- 慢性気管支炎:気道炎症を伴いやすく、咳や痰が目立つ
- 肺がん:共通のリスク因子である喫煙により発症リスクが高い
- 気胸:肺胞破裂により起こる(特に若年瘦せ型男性や重度肺気腫例)
- 肺高血圧症、右心不全:慢性的な低酸素血症による
感染症との関連
- 肺炎、気管支炎:構造異常によって感染しやすくなる
- インフルエンザやCOVID-19での重症化リスク増加
全身性合併症
- 骨粗鬆症:ステロイド使用や栄養不良による
- うつ病、不安障害:慢性疾患による生活の制限
- サルコペニア(筋力低下)、低栄養
これらの合併症を予防・管理することで、肺気腫患者の予後改善と生活の質向上が期待されます。
症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。
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■ 参考・出典
- 日本呼吸器学会「COPD診断と治療のためのガイドライン(第5版)」(https://www.jrs.or.jp/)
- MSDマニュアル プロフェッショナル版「肺気腫」(https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional)
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」(https://kennet.mhlw.go.jp/home)
■ この記事を監修した医師

石井 誠剛医師 イシイ内科クリニック
近畿大学 医学部 卒
近畿大学医学部卒後、済生会茨木病院で研修を行い、日本生命病院で救急診療科、総合内科勤務。
その後、近畿中央呼吸器センターで勤務後、西宮市立中央病院呼吸器内科で副医長として勤務。
イシイ内科クリニックを開設し、地域に密着し、 患者様の気持ちに寄り添った医療を提供。
日本生命病院では総合内科医として様々な内科診療に携わり、近畿中央呼吸器センターでは呼吸器の専門的な治療に従事し、 西宮市立中央病院では呼吸器内科副医長として、地域医療に貢献。
抗加齢学会専門医として、アンチエイジングだけを推し進めるのではなく、適切な生活指導と内科的治療でウェルエイジングを提供していくことを目指している。
- 公開日:2025/07/08
- 更新日:2025/07/16
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