縦隔腫瘍じゅうかくしゅよう

縦隔腫瘍は胸部の中心にある縦隔に発生する腫瘍で、良性から悪性までさまざまです。腫瘍の位置により分類され、症状や治療方針が異なります。診断には画像検査と組織検査が重要で、治療は手術を中心に、腫瘍の種類に応じて化学療法や放射線療法も行われます。

縦隔腫瘍

縦隔腫瘍とは?

縦隔腫瘍とは、胸部の中央に位置する縦隔という解剖学的領域に発生する腫瘍の総称です。縦隔には心臓、大血管、気管、食道、神経、リンパ節、胸腺などが存在し、これらの組織から発生する腫瘍は多種多様です。

腫瘍の発生部位によって、縦隔は前縦隔・中縦隔・後縦隔の3つに分類され、それぞれに特徴的な腫瘍が存在します。前縦隔では胸腺腫、胚細胞腫瘍、甲状腺腫瘤などが多く、後縦隔では神経原性腫瘍が主にみられます。

腫瘍は良性のものもあれば、悪性で進行が速いものもあり、種類により症状や治療方針は大きく異なります。小さいうちは無症状のことが多いですが、周囲組織を圧迫することで症状が出現することがあります。

診断にはCTやMRIなどの画像検査が中心となり、確定診断には組織生検が必要です。治療は手術が主体であり、腫瘍の性質により化学療法や放射線療法を組み合わせることもあります。

原因

縦隔腫瘍は、その発生部位や組織の由来によって多くの種類に分かれ、それぞれ異なる原因や背景を持っています。以下に主な腫瘍の分類と原因を示します。

前縦隔に多い腫瘍

  • 胸腺腫:胸腺上皮細胞から発生。自己免疫疾患(重症筋無力症など)との関連がある
  • 胚細胞腫瘍:胎児期の発生異常が原因とされる。奇形腫、セミノーマ、非セミノーマなど
  • 悪性リンパ腫:ホジキンリンパ腫や非ホジキンリンパ腫。免疫異常やウイルス感染が背景
  • 甲状腺腫瘍(胸腺内甲状腺など):発生異常で縦隔内に迷入した甲状腺組織が腫瘍化

中縦隔に多い腫瘍

  • 気管支嚢胞、心膜嚢胞:先天的な嚢胞性疾患
  • 悪性リンパ腫:縦隔リンパ節から発生するものが多い

後縦隔に多い腫瘍

  • 神経原性腫瘍(神経鞘腫、神経節腫など):交感神経節や脊髄神経鞘から発生
  • 脊椎腫瘍:脊椎から直接発生、または波及

その他の原因

  • 炎症性腫瘤(結核性リンパ節腫脹など)
  • 転移性腫瘍(他臓器がんからの転移)

腫瘍の発生には遺伝的素因、先天的発生異常、免疫状態、感染症などさまざまな因子が関与しており、精密な分類と診断が必要です。

症状

縦隔腫瘍の症状は、腫瘍の大きさや発生部位、悪性度によって異なります。初期には無症状のことも多く、検診や他疾患の検査中に偶然見つかることもあります。

局所症状(圧迫症状)

  • 胸痛:腫瘍が胸壁や神経を圧迫することによる
  • 呼吸困難:気管や肺を圧迫することによる換気障害
  • 咳:気道への刺激や圧迫による乾性咳嗽(痰の出ない咳)
  • 嗄声(声がかすれる):反回神経麻痺による
  • 嚥下困難:食道の圧迫による
  • 上大静脈症候群:上大静脈が腫瘍により圧迫されることで顔面・頸部の腫脹、チアノーゼ、頭痛、意識障害を起こす

全身症状

  • 発熱、寝汗、体重減少:悪性腫瘍やリンパ腫によるB症状
  • 倦怠感、食欲不振:進行例でよく見られる

特有の関連症状

  • 重症筋無力症(胸腺腫に伴う):易疲労性、眼瞼下垂、複視
  • ホルモン分泌異常(胚細胞腫瘍など):性ホルモン異常による月経異常や男性化

症状の進行

  • 腫瘍の進行により症状は徐々に悪化
  • 悪性腫瘍では急速に増大し、合併症を伴うこともある

症状が出現した時点で既に腫瘍が大きくなっていることが多く、早期発見のためには検診や画像評価が重要です。

診断方法と治療方法

診断

  1. 胸部X線検査
    ・縦隔陰影の異常、腫瘤の存在を確認
    ・前縦隔の腫瘍は正面像で中心陰影として認められる
  2. 胸部CT検査(必須)
    ・腫瘍の大きさ、形状、性状(嚢胞性・充実性)、石灰化の有無
    ・周囲臓器との関係性(浸潤、圧迫)を評価
  3. MRI検査
    ・神経原性腫瘍や脊椎浸潤の有無、血管との関係を詳細に描出
    ・脂肪や嚢胞成分の識別にも有用
  4. PET-CT検査
    ・悪性腫瘍の代謝活性を評価し、全身の転移検索も可能
    ・リンパ腫、胚細胞腫瘍、転移性腫瘍の評価に使用
  5. 腫瘍マーカー(血液検査)
    ・AFP、hCG(胚細胞腫瘍)
    ・抗アセチルコリン受容体抗体(胸腺腫)
    ・LDH(リンパ腫)
  6. 組織診断
    ・CTガイド下針生検または胸腔鏡(VATS)による生検
    ・腫瘍の性状に応じて経皮的または内視鏡的に採取

治療

  1. 手術療法(第一選択)
    ・良性腫瘍や限局性悪性腫瘍に対しては完全切除が原則
    ・胸腔鏡手術(VATS)や開胸術が用いられる
    ・胸腺腫、奇形腫、神経原性腫瘍に多い
  2. 化学療法
    ・胚細胞腫瘍(特に非セミノーマ)、リンパ腫など
    ・術前・術後補助療法として用いられる
  3. 放射線療法
    ・手術不能例や、局所制御目的で行う
    ・胸腺がんやリンパ腫で使用
  4. 緩和療法
    ・進行例ではQOLの維持を重視した緩和ケアが重要

腫瘍の種類、進行度、全身状態に応じて治療法を選択し、多くの場合、外科・内科・放射線科による集学的治療が必要となります。

予後

縦隔腫瘍の予後は、腫瘍の性質(良性か悪性か)、組織型、進行度、治療の適応可否によって大きく異なります。

良好な予後を示す腫瘍

  • 孤立性の良性腫瘍(神経鞘腫、奇形腫など):完全切除で治癒可能
  • 早期発見された胸腺腫(I〜II期):術後再発率も低く、長期生存が期待される

予後不良となる腫瘍

  • 悪性リンパ腫(特にT細胞性):化学療法に対する反応性による
  • 進行性胸腺がんや胸腺カルチノイド:局所浸潤や再発率が高い
  • 胚細胞腫瘍の非セミノーマ型:化学療法抵抗性を示す場合がある

再発・転移のリスク

  • 不完全切除、進行例では術後に局所再発や遠隔転移がみられる
  • 長期的なフォローアップが必要

治療後のQOL

  • 術後の呼吸機能障害や神経障害が残る場合もある
  • 緩和ケアの導入が予後改善に寄与する例も多い

正確な診断と適切な初期治療、長期的な管理が、縦隔腫瘍の予後改善に不可欠です。

予防

縦隔腫瘍の多くは先天性や原因不明であり、明確な一次予防法は存在しません。ただし、早期発見と再発予防には以下の点が重要です。

一次予防(明確な方法は少ない)

  • 喫煙の中止(肺がんや甲状腺腫瘍の予防)
  • 化学物質や放射線への不必要な曝露の回避

二次予防(早期発見と適切な介入)

  • 定期的な健康診断や人間ドックでの胸部X線、CT検査
  • 甲状腺疾患や免疫疾患を持つ人は定期フォローが望ましい

再発予防

  • 術後の定期的な画像診断(CT、PET)
  • 腫瘍マーカーの定期チェック(AFP、hCGなど)
  • 自己免疫疾患の管理(胸腺腫再発リスクの軽減)

生活習慣の改善

  • 栄養バランスの取れた食生活と十分な休養
  • ストレス管理と感染症予防

定期的な検査と早期の精密検査によって、重篤化する前に対応することが予防的なアプローチになります。

関連する病気や合併症

縦隔腫瘍は多様な病態と関連しており、合併症もさまざまです。以下に主な関連疾患と合併症を示します。

関連疾患

  • 重症筋無力症(胸腺腫と強く関連):自己抗体による神経筋接合部障害
  • 甲状腺疾患(胸腺内甲状腺腫):縦隔への迷入による腫瘍形成
  • 免疫不全症候群:胸腺腫に伴う自己免疫疾患や低γグロブリン血症

合併症

  • 上大静脈症候群(顔面・上半身の浮腫、チアノーゼ)
  • 気道閉塞(腫瘍による気管圧迫)
  • 神経圧迫症状(反回神経麻痺による嗄声、交感神経圧迫によるホルネル症候群)
  • 心膜浸潤(心嚢液貯留、心タンポナーデ)
  • 脊椎浸潤による神経症状(下肢麻痺、知覚障害)

治療関連合併症

  • 術後気胸、感染、出血
  • 化学療法による骨髄抑制、脱毛、悪心
  • 放射線肺炎、食道炎、皮膚炎

これらの合併症を予防し、迅速に対処するためには、診療科横断的な多職種チームによる管理が重要です。

症状が気になる場合や、体調に異変を感じたら自分で判断せず、医療機関に相談するようにしましょう。

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■ 参考・出典

■ この記事を監修した医師

赤松 敬之医師 西梅田シティクリニック

近畿大学 医学部 卒

近畿大学医学部卒業。
済生会茨木病院にて内科・外科全般を担当。
その後、三木山陽病院にて消化器内科・糖尿病内科を中心に、内視鏡を含む内科全般にわたり研鑽を積む。
令和2年9月、大阪梅田に『西梅田シティクリニック』を開院。

「患者様ファースト」に徹底した医療マインドを持ち、内科診療にとどまらず健診センターや複数のクリニックを運営。 医療の敷居を下げ、忙しい方々にも医療アクセスを向上させることを使命とし、さまざまなプロジェクトに取り組む。 医院経営や医療関連のビジネスにも携わりつつ、医療現場に立ち続ける。
さらに、医師として医薬品の開発や海外での医療支援にも従事している。

  • 公開日:2025/07/16
  • 更新日:2025/07/16

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